8疑惑からの契約と契約しての打算
僕はイリーナ改めナタリーを置いて歩き出した。
僕の前に回り込み「報酬は必ずライスの冒険者ギルドで払うから護衛して」と言い引き止めた。
「ナタリーさん、助けたお礼もできないのに報酬はどこから払うのですか?」
「えっと、ライスの冒険者ギルドに行けば調査報酬から払うわ」
「隠し事をしている人は信用しません、それに、僕は狩人です、剣士のあなたを護衛できる訳がないじゃないですか」
「じゃあ、森の中だけでも案内を」
「僕は1人だから森にいても安全を確保できるんです、
ナタリーさんがいたら森は危険地帯です、安全のため森を出て街道を行くことになります、僕と獣魔にとって街道は危険なんです」
「えっと、冒険者は助け合うものよ」
僕は審議眼を発動してから
「僕は冒険者ではありません、僕がナタリーさんとライスの冒険者ギルドに行がなくても後で神殿に預ければいいですよね、僕が冒険者ギルドに行く必要がありますか?」
「着いてすぐ払いたいの!」
はい、アウト、冒険者ギルドで監禁でもされるのかな。
「ナタリーさんは僕はお礼をすぐには要りません」
「私がすぐに払わないのが嫌なの!」
これもアウトか、なんとしても冒険者ギルドに連れて行きたいのか。
「・・・、ドジっ子もワザとですか?、すぐ泣くのも嘘を誤魔化すためですか?、タロとジロを可愛がったのは僕を油断させるための演技ですか?、ライスの冒険者ギルドにウィートの情報を伝えるために僕を利用しようとしましたか?」
驚いた後、ナタリーは首を何度も振る、最後の質問には泣きそうになり俯いた。
(天然に見事に騙されたな、アース、女の涙は怖いなー、アッ、母さんは聖女だったから怖く無かったぞ)
(泣き虫ドジっ子のケモナーなのに、女の武器を使い言葉足らずを装い契約させて騙す、女って本当に怖いな〜)
「ナタリーさんはライスの冒険者で、調査報告の内容も嘘なんですか?」
涙目で強く首を振る。
これはギルドに伝えたいから、予想通り本当か。
「最後に聞きます、都合が悪くなったら、僕を殺すつもりですか?」
「そんなつもりは無いわ」
(殺すつもりはないのか、でも、着いたら監禁され、護衛をどこまでって言わない、ニアンスで目的地を冒険者ギルドまでっぽくして誤魔化してる、
天然で抜けてる可能性もあるけど、
このまま護衛契約したら目的地不明のまま契約する事になりずっと護衛させられ逃げられ無いってことになる、
仕返しするか)
(アース、ライスに行くのは最悪仕方がないが護衛は断われ完全に駄目だ、
こんないい加減な護衛内容で受けたら最悪はずっと命がけで護らなければならず、
契約で確実に死ぬ事になるぞ)
「護衛はしません、僕もライスの方に行きますからライス近くまでは行きます、
着いて来てもいいですが、僕はライスに入るか分かりません、冒険者ギルドには絶対に一緒に行きません、
誰にも僕の事は教えないで下さい、以上の内容で契約してくれれば、付いて来てもいいですよ」
「分かったわ、契約するわ」
(この娘、随分とあっさりと了承したもんだな)
(そうですね)
「契約、この者を僕の後を付いて来る事を認めます、その代わり僕に出会った事実とチカラを誰にも教えてはいけない、
破ろうとした場合、記憶は僕の事は助けて一緒に頑張って来た子供に変わり、危ない所を助けてくれた者は別の男性と擦り変わる、契約を結びますか?」
「・・・契約の罰則が後で破られるのが前提なんだけど、・・・いいわ、契約するわ」
「契約は成立しました、これより僕は一緒に頑張ってきた、あなたが疲れて倒れていた所を助けた子供、と他の人には説明して下さい、
今からライスに向かいます、付いて来るのは構いませんが全力で走りますので、置いていかれない様に頑張ってください」と言ってニッコリ笑いかけ、
「森で僕に付いてこれるといいですね」と言った。
直ぐさま土下座して、
「すいません、全部話しますので置いていかないで下さい、お願い致します!」
と頭を勢いよく地面にぶつけた。
「要するに、冒険者ギルドの強制依頼で調べに来た、
ウィートが壊滅した事はまだ秘密でライスの人達の混乱を考えると広める訳にいかないので冒険者ギルド以外には話を知られたくない。
ウィートの現状と占領している獣軍の情報は何としても冒険者ギルドに持ち帰りたい。
ナタリーは冒険者、兼ギルド諜報員の時の名前で、本名はイリーナで契約に使われたら解約出来なくなるので誤魔化した。
パーティーを組んだ仲間はお互い職業をコードネームにしていた諜報員で名前を知らない。
あなたは、この非常時に無意味な誤解を招く嘘を吐くなんて、馬鹿なんですか?」
(助けられて素の対応になり、情報の拡散は不味いと思い出して冒険者ギルドに何とか連れて行こうとしたって所か、アースに隠す意味が有るのか?、もしかしてアース、知恵の足りない子供だとでも思われたか?)
(まぁそんなとこだと思いますよ、ハー、僕、そんなに子供ぽいかな〜?、と言うよりこの人騙されていませんか、
冒険者ギルドの強制依頼で調査なんかありませんよ、そんなの貴族の仕事です)
「申し訳ありませんでした、改めてお願い致します、何とか助けて頂けませんか」
「この非常時ですから許しますよ、ハーー、僕は思慮が足りないガキではありませんから、助けますよ、もう契約してあなたは僕の事を誰にも教えられませんからチカラを隠さずに出来るだけの事はします、
森で死にたくなければ、今から僕の言うことは守って下さい、
僕が許可した時以外は絶対に声を出さないでください、
森の中では僕の命令は絶対に聞いてください、
音はできるだけ出さないでください、以上です」
「分かったわ」ゲシ「痛い、何で頭を叩くんですか?」
「さっき今からって、言ったよな」
イリーナは頷き、口を手で押さえて頷いた。
タロとジロを抱きしめ。
「タロ、ジロ、移動中の狩りをできなくなった、お前達は呼ぶまで影で待機だ、
夜の警戒は任せる事になるから体力を完全回復しといてくれ、退屈かもしれないけど頼むな」
2匹は素早く影に入った。
「行きますよ、しっかり付いて来てください」と言うと、いきなり川の中を下流に向かって歩き出した。
イリーナは何か言いたそうにしながらも黙って付いて行った。
しばらく川の中を歩き、ライスから方向違いに歩き出し森の中に入った。
イリーナは不安そうな表情だが大人しく付いて来た。
森をかなり移動して小山を越えた辺りで僕は、
「ここまで来ればゴブリンの追っ手は撒けたと思う、遠回りになるけど街道から完全に外れたからゴブリンには簡単には見つからないはずだ」と、遠回りの説明をした。
イリーナの「子供ぽい意地悪かと思いました」
の発言で。
アースに再び、頭を叩かれ「痛いです」と、頭をさすった。
(アース、この娘は面白いな、ドジで泣き虫のケモナーなのに思慮深い、本当に面白い、
今のもアースの怒りを買う範囲を確認していた、
アースの実力を早くから分かっていて、情報を早目に渡して反応を見て、アースの思慮をみる感性、
隠しごとをしていることに罪悪感を持ち、質問に戸惑うメンタルの弱さ、
アースが実力が有り、それを隠したがっているのが分かると、誰にも教えない契約をすぐに決断した打算的思考、
契約をすれば助けてくれて、契約を守ればアース縁が切れないのが分かっていての思い切りの良さ、
こいつなら面白いから相棒でもいいぞ、冒険者は禁止だか、冒険者ギルドのギルドマスターを潰した後なら助けになってもいいんじゃないか、契約すればだか)
(イリーナとは腐れ縁になりそうでコワイね)
「何ですかその笑い顔、もしかして私を後で襲うつもりですか?、助けた恩を身体で返せとでも」
身体をクネらせてから
「アースならいいですよ、・・・・・アースさん?、無視はやめて下さい、お願いします、ね!、ね!、この通りです」
となり、土下座した。
(近過ぎる、こいつは僕との距離の取り方を絶対に間違えているだろ)
(冗談だったんだが、本当に腐れ縁になりそうだな)
((ハーー))
「無視は辞めて下さい、お願い、します〜」