42決着とわがまま
アースが仮眠から起きて作戦が開始された。
アースの隠密は元神殿騎士長には意識を他に割いている時にしか聞かないらしく、アースが近付くと移動先に回り込まれた。
タロとジロが普段の縄張りを守る為に使う威圧ではなく、ゴブリンを順調に回り込まれた場所に集める為に、影魔法で作られた元神殿騎士長の幻影を指揮官ゴブリンに見せて誘導して集め始めた。
(そろそろ仕掛けます)と石を投げつけた。
(またか!、何故あのガキには忍足からの潜伏がなんで通用しないんだ、クソッ、まあいい、今回はあのガキの居場所は把握できている、ゴブリンは無視して一気に距離を詰め、ゴブリンごと蹴散らしてやる)
元神殿騎士長はゴブリンに囲まれる前にこちらに走り出した。
それに合わせ僕も罠の場所へ逃げるフリをして走り出した。
(逃がさん、えーい邪魔な枝だ)と視界を遮る枝を斬ると、四方八方から拳大の石が飛んで来た。
幾つか当たりながらも転がり避けると今度は避けた先に上から網が落ちて来たが剣で斬り裂いた。
(うまい罠だが、俺には通用し、グォ、何だ?)
背後からゴブリンアサシンに下半身を何箇所もナイフで刺されていた。
(あのガキを逃さない為に周りの索敵を怠った所為でやられた、今のでガキにも逃げられた、クソ餓鬼ガー)
(逃げてませんよーとっ)
僕とクロは槍を両手に持ち、正面からクロの山なりに投げた後に投げた、左右の手で交互に周りから投げられる槍ゴブリンの槍攻撃に合わせて何度も投げた。
(クソ〜がー、周りに気配を消したゴブリンだらけで迂闊に動けん、かと言ってこのまま攻撃され続けるのは不味い、だが意識を索敵に回したら防御が間に合わない、
あのガキの姿は見失ったが槍を投げて来る方向は分かる、動かずに連続で投げて来る今なら着弾箇所範囲攻撃で焼くファイヤーボールでなら殺せる筈だ、
生意気なガキが、この魔法で終わりにしてやる、俺は多少の時間はかかるが、無詠唱のアクション無しで魔法が打てるんだよ、死ね!)
元神殿騎士長の前に巨大な火の玉が生まれ、その火の玉は前に飛ぶと同時に何かに当たり破裂した。
「エッ?、何で?」
そして自分の生み出した高温の炎に呑まれた、更に追い打ちに辺り一面に槍が飛んで来た。
(やっぱり打ちましたね、着弾範囲魔法、
相手が見えずに距離も分からないけど方向だけは分かる場合、ファイヤーボールしか効果的な魔法が他に無いですから予想通りですけど)
(主人、何でファイヤーボールを使うって分かったんですか?)
(それはね、元神殿騎士長の遠距離攻撃が魔法しかなくて、魔法も風系以外は直接当たらないと効果が無く、風のエアハンマーだと距離が遠いと効果が薄いから炎系しかなかったんだよ)
(成る程、あの男がやれる事がそれしか無い状態にして、やったら自爆する様に罠用の黒糸を胸の高さにだけ張ったんですね、主人凄い、アッ、炎が退いていきますよ)
(うわー凄い火力だ、全身大火傷みたいだな、鎧の隙間から煙が出てるよ、
追い討ちの槍も少しは刺さったし盾は溶けてるな、
力無く垂れ下がってる左腕は鎧で中は見えないけどおそらく炭化したな、やっと、だが!、まとも、に!、回復魔法を、使った!、なっと!)
今度は場所を左右に少しずつ変えながら槍の攻撃を再開した。
(主人、回復魔法を使ったから広い範囲から凄い勢いでゴブリンが集まってきましたよー)
(火傷と槍の傷は魔法で直したみたいだけど左腕は炭化してるから、その部分を切り離さなければ再生出来無い、今は敵の攻撃と鎧が邪魔で腕を切り離せないから左腕は戦いが終わるまでは再生出来ない、
片手だしゴブリンはもう何もしなくても集まって来る、奴も回復魔法の残り香で隠れられないから終わりだな、ゴブリンがかなりの遠距離からも位置がわかるから攻撃を始めたな、このまま奴が死ぬまで攻め続けるぞ)
何で、こんな事になった?、俺の邪魔をした、ただ買い占めを辞めさせる策を誰かに教えられ、それをただただ実行した生意気なガキを捻り殺すだけの簡単な話しだった筈だ。
何故、俺は死にかけている、ダンジョンの攻略は仲間が足を引っ張り駄目だったが、英雄のチカラを得た選ばれた人間の俺が何故あんな遠距離攻撃しか能の無い狩人に殺されかけているんだ、何故だ、どうしてなんだ、巫山戯るなよ、あんなガキに舐められてたまるか〜。
「グハッ、クソガキガー、こうなれば貴様も道連れにしてやる、エッ?」
前のゴブリンだけを斬り殺し周りのゴブリンを無視して走り出そうとすると、脇に僅かな痛みが走った。
気が付けば左の脇から心臓に黒い片刃の剣が刺さっていた、目を見開き「お前、狩人じゃなかったのか?」と言い、俺は崩れる様に倒れ、意識が消えかけながらガキの声を聞いた。
「あばよクズな英雄、お前の魔装は僕が貰うよ。
しかし馬鹿だなぁ、狩人は剣を使えないとでも思っていたのかよ?御間抜けさん」
何でこうなったんだ。
元神殿騎士長にとどめを刺すと、タロとジロが周辺のゴブリンに対して無双を始めた。
「やっとずっと続いていた背中のゾワゾワが止まった、奴は間違い無く死んだな、
オーイ、魔装の中にいる魔獣よ聞こえるか?、死した魔獣の身体を本来の正しい用途に使ってやるから僕のもとに来い!、よし、魔装から来るゾワゾワ感は無いな」
元神殿騎士長の剣をかなり重かったがなんとか振ってみた、僕を主人と認めたのかやはり呪いは発動しなかった。
死体を収納してから集まったゴブリン達をタロとジロと協力して倒していった。
「森に居るゴブリンなら、もう何匹いても相手じゃないね、夜の森は特にタロとジロの天下だし」
(森以外で襲われたら、嘘みたいに不利になるがな)
(主人、あの男の持っていたら魔剣と話しが付きました、主人を主人として認めたそうです、
こいつ、ワイよりチョッと下の位の魔獣で顔を付ければワイみたいにコミニケーションが取れます、
因みに角サイの魔獣で剣と鎧の胴体部分の下に魔獣の硬い部分の皮で作られた皮鎧は純素材で出来ていたそうです、
非力な主人が皮鎧の上から心臓を狙ったら、心臓まで届かなかったかも知れませんでしたー)
「マジで!、いやー師匠の教えられた通り、柔らかいとこから心臓に向かって刺して良かったー」と、言いながらジタバタするぬいぐるみモードのクロの頭を握り潰した。
(やはり我も、一度しっかりと会ってみたいな、会っていた時はまだ調整中で、記憶の中の師匠殿しか知らんから一度お礼も言いたいしな)
クロは潰れた顔を戻しながら、
(処で主人、あの男は何でよく見れば見える目の前の張り巡らされた糸が見えなかったんですか?、ふう〜可愛く直った)
(我も不思議だった、彼奴なら罠を警戒していれば直ぐに分かったはずだ、なのに彼奴は目の前に有った糸に気付かなかった、何故だ?)
(元神殿騎士長が知る罠が狩人が作る罠では無く、亜人が作る罠やダンジョンの生み出した罠だからですよ、
それに狩人でも大物を仕留めなければならない時以外は同じ場所に罠を重複して作るなんてしないからまだ近くに罠が有ると思わなかったんです、
狩人だって村を守る為に移動する大型魔獣が村に近付いて来た時以外には後で要らなくなった罠を解体するのが危険なので重複しては仕掛けませんから、今回は全部作動させてくれたから解体せずに済んで助かりましたよ、
それにアレを突破されたら後は単発しか無かったので逃げれますけど、その後に罠で倒せたかどうか疑問でしたし)
(成る程、罠に気が付かなかったのは、彼奴の豊富な経験が重複しての罠は無いとの思い込みを生み、彼奴の経験が逆に思い込みとなって作用した結果か)
(主人、もしも、もしもですよ、ワイが、森に居たらどうやって倒しますか?)
その後クロは、何通りもの倒し方をアースに言われ、「森での狩人は怖い」と今はその狩人側なのを忘れてクロは怯えていた。
タロとジロが近くのゴブリンを倒しても、今まで出来なかった鬱憤から狩りを辞めないので、僕は広い範囲で集まったゴブリンの排除を任せ、木の上に寝床を作って朝まで眠る事にした。
(父さん、あの〜、あの男の魔装の中の魔獣の事なんですが)
(何か問題でも有ったのか?)
(えーとですねー、狩人が自分を装備するのは嫌だといってまして、何とかして重戦士を仲間に探して欲しい、無理なら戦士でもいい、最悪は剣士でもいいからと、泣き付かれまして)
(それは彼奴を倒したアースに使われたくなくて、アース以外の仲間に使われたいと言っているのか?)
(はい、何かワイ以上に使われない可能性が高いなら主人の仲間でも良いから使って欲しいそうです)
(後で相談だな)
(はい)
朝起きてイリーナに元神殿騎士長を倒したので帰りに向かう事を伝えたて凄い喜び様だった。
因みに、やはり新たなスキルの習得は無く、その事聞くと、喜びから一転いじけて怒り出したので念話を強制的に切った。
続けて新たな魔装からの提案に、今度は僕が怒り出したのは言うまでも無い。




