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夢の中

 夢の中。

 なぜそう思うのかと言えば、現実の世界とは思えないほどに一面が白い部屋で、真ん中には同じく白い2つの椅子とテーブルが置かれている。

 そして、椅子にはすでに誰かが座っていた。


「……やあ。また会ったね」


 燕尾服を着込み、片手にカップを持った男はカオス。タナトスの祖父にして、原初の神の一角を担う神族である。それに加えて、強大すぎる力で終末を引き起こし、俺に対処されたが故に俺の左目に収集された敵だったやつでもある。

 どうしてそんなやつと仲良くしているのかは、俺にもよくわかっていない。


「あんたがいるってことは、俺は気絶したのか?」

「まあ、そうだね。簡単に言えばそういうことになるだろう」

「簡単に言わなければどうなるんだ?」

「それはこれからのお楽しみさ」


 イタズラ好きの笑みはタナトスそっくりだ。

 何をお楽しみにして生きていけばいいのかわからないが、とりあえずそれ以外のことで話があるような気がする。俺が眉間にシワを寄せていると、クイクイと手を仰いでカオスが椅子に座るように促してきた。

 ここから出る方法もよくわかっていないため、流されるように俺は椅子に座った。

 

「それで? なにか話でもあるのか?」

「現実の君の意識が回復するまで、もう少し時間が必要だ。だから、時間を潰す意味も兼ねて君にいくつか聞いておきたいことがあるんだけれど、構わないかな?」

「まあいいけど。一体何を聞く気なんだ?」

「そう急かすこともないだろう? 一つ一つ聞いていくよ」


 そういって、カップに口をつけると一息ついてから、カオスは俺に質問をぶつけてきた。


「君は世界を守る……わけじゃないと言ったけれど、今でもその言葉に嘘はないかな?」

「ああ、俺は俺の友人や家族を守るために戦うんだ。そもそも、戦うこと自体好きじゃないしな」

「じゃあ、君の大切な仲間が死んでしまったら…………どうするんだい?」


 傷つくじゃなく、悲しむでもなく、死んでしまったら。

 考えたこともない。いや、考える必要がないと思っていた。なぜなら、これまで誰かが死ぬようなことがなかったから。今日のように、死を身近に感じるようなことは、あまりにも少なかった。

 一度、よく考えたほうがいいのかもしれない。でなければ、次はどうなるかわからない。


 俺が守りたいもの。守らなくちゃいけない人。考えてみれば、いつから俺はこんなにも多くの人を大切だと思うようになったのだろう。昔は…………つい数ヶ月前は麻里奈だけそばに居てくれさえすればよかったのに。今では多くの人が俺にとっての大切な人になっている。

 その全員を守れるのか。危うく失いかけておいて、俺は堂々としていていいのだろうか。


 良くない。まったくもってよろしくないぞ。

 俺はうつむき、静かに拳を作る。抑えているが、怒りがふつふつと増大していくのがわかる。

 それを見越してか、カオスは手に持ったカップをテーブルに置き、小さく息を吐いた。


「無論、そんなことがないように君は行動するだろう。誰に心配されようと、君は自分を盾にして大切な人を守るのだろうね」

「何が言いたい」

「それを間違いだとは言わないさ。それを悪だとも言いはしない。だけどね。君は理解するべきだ。君が傷つくことで、誰かも傷つくということを」


 何かを見越しているのか。あるいは、俺のような人間の末路を知っているかのような言い方だ。いや、神様なのだから俺のような人間を一人や二人知っていても不思議ではないが、それにしては生々しく言ってくるものだ。


 確かに、俺は自分を盾にして誰かを守ろうとしたことがある。けどそれは、俺が不老不死の化物になってしまったから出来ることだ。もしも不老不死になっていなければ、そもそもこんな無茶なことはしないし、俺にとっての大切な人は昔と変わらず麻里奈だけだったことだろう。

 少なくとも、俺を変えたのはタナトスだ。不老不死の体を与え、神々と戦える力を与え、余計な問題まで与えてきた。そのせいで俺の世界はガラリと変わり、知らなかったことを知りすぎた。それでもここまで歩んできたのは、はてなぜだっただろう。


 俺が傷つくことで誰かが傷つく? 知ってるよ、そんなこと。幾度となく麻里奈がそうだった。イヴも奈留なるもそうだった。それでも俺にはそういうやり方しか無いんだ。そういうやり方しか思いつかないんだよ。

 真っ直ぐな視線をカオスに向ける。そして言うのだ。


「俺のやり方が間違っていることも、このままじゃ守れなくなることもわかってる。でも、俺にはこのやり方しか無いんだ。仕方ないだろ?」

「………………」


 少し考えてから、カオスは覚悟を決めたように本当に言いたかったことであろうことを話し始めた。


「もし…………この世界がどうでもいいと思えてしまうほどに絶望してしまったら、《終末論アヴェスター》で私を使うといい。終末である私が、責任を持って君の敵を打ち砕こう」

「…………それが、あんたを使うための代償か」

「そうだね……いや、正直な話をすれば、そうではない。私を使うことの代償は存在しない。ただ、私は私を使う君を見たくはないのさ。だからこそ、絶望をトリガーとして君に使用権を与えようというわけだ」


 これは優しさか。あるいは哀しさか。カオスは自分が強力すぎる終末であることを自覚している。そして、それを俺が扱えば暴走状態のようになって手におえないことも。だから、カオスは俺に使用制限をかけたのだろう。

 俺としてはカオスを使わなくてはならないような事件に巻き込まれたくはないのだが、人はそれに関係なく俺に迷惑をかけてくるのだろう。

 一応、カオスの言葉を胸に刻んで、俺は現実の俺が目を覚まそうとしているのを感じる。意識が朦朧もうろうとし始めて、頭が船を漕ぎ始める。

 その様子を見ながら、カオスは再びカップを手にして、優しそうな笑みでこういうのだ。


「良い終末を。出来得るなら、君に最上の幸運があらんことを」

topic

・恭介は自分が弱いことを理解しているし、そのせいでいつか大切な仲間を失うことも予期している。ただし、そのために強くなれない自分に怒りを感じている。

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