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最強の人間

 神埼総本家。堅苦しい肩書だが、その集合場所もなかなかどうして歴史を感じる和風建築のお城のようなところだった。しかも、驚くべきは建てられている所在である。なんと、神埼総本家が存在するのは、神々の世界だった。


「ここに来るのは二度目だけど、やっぱ空気が綺麗すぎるな……」

「神聖すぎるからね。大丈夫?」

「別に体に悪影響はなさそうだから、案外大丈夫なんじゃないか? というか、この身体自体タナトスが作ってるから、神々の世界に適応はするんだろうけど」


 俺と麻里奈は今、神々の世界に通ずる門を潜り、総本家がある場所に向かっている最中だった。メンバーは少なく、俺と麻里奈、麻里奈を守護するカンナカムイと暇で着いてきたタナトスだ。そんなに大人数で行ったところでいい感情は得られないと思ったのもそうだが、総本家からの指名がこの四人だったのだ。

 それだけ見てもなにか裏がありそうだと考えるのが普通だろう。けど、そんなことを考えていられるほど時間もなかった。全てはタナトスが手紙を秘匿したせいである。


 割と急いだおかげか、時間よりも少し早めに目的地に到着した。

 仲居さんに案内されて招かれた部屋は、すごく大きい和室で、中にはテレビに良く出演する人から、テレビにたまに出てくるお偉いさん。最も驚いたのは国民に選ばれた日本を代表する人物、総理大臣がいたことだろう。どういう繋がりかなど、言わずとも予想がつく。

 聞いた話では、神埼家は日本の総元締めらしい。そう、総理大臣(・・・・)という国民が選んだ存在があるというのに、神埼家は日本をまとめる存在なのだ。言うなれば、日本の王家というべき在り方なのだろう。

 とんでもない重鎮が集まる中、制服姿の麻里奈と私服の俺が入室したことで場が一気に冷ややかなものへと変わる。


 これは……場違いというやつですね? そりゃまあ、学生がこんな場所来るなって話でしょうけど、俺はこれでも列記としてお呼ばれされてる身なんでね。堂々としていますとも、ええ。


 言いつつ、麻里奈の影に隠れる俺を恥ずかしいとは一切思わない。

 しかし、冷ややかな空気になった理由は、どうやら俺たちの入室のせいではなかった。


「なぜ、神聖な神埼家の中に他神話の神が?」「誰よ、あんなのを入れたの」「アイヌの神までいるじゃないか」


 どうも、日本の神以外の入室が気に入らなかったようだ。そして、そんな発言をする重鎮をよく思わない神が二人。タナトスは笑顔のままだったが、カンナカムイは招かれた身でありながら、招かれざる客のように扱われて憤怒していた。


「全員食ってしまおうか」

「やめろ!? ただでさえ、お前たちの存在でピリピリしてんだから、これ以上俺たちの肩身を狭くさせないでくれませんかね!?」

「全員いなくなるから、肩身が狭くなるどころか自由奔放に過ごせるじゃないか。いい案だ。やってしまおうか、雷神」


 いやもう、なんでこういうときに限って結託するんだよ、この駄神ども!! ともかく、カンナカムイを止めるには俺の発言では無理なので、ここは麻里奈の一声がほしいところである。

 助けを求めるように麻里奈に視線を向けると、麻里奈も麻里奈で頭を抱えながら制止させる言葉をかけ始めた。


「だめだよ、カンナカムイ。一応、私の血筋の人たちなんだから」


「おい、見てみろよ。なんだ、あの貧相な餓鬼」「誰だ、あんな邪魔にしかなりそうにない子供を招いたのは」「全く、神埼家も質が落ちたのかしら」


「カンナカムイ。全員を食べるのにどれだけの時間が必要かな?」

「そうだな。三分ほど有するかもな」

「僕も手伝うから二分だね。特別に地獄へ全員落とそうか」

「いいね。私が殺しても連れていける?」


 いやいやいやいや!! 麻里奈まで怖いこと言い出したんですが!? あの、止めるっていう方向だったのでは!?


 完全にブチ切れた麻里奈とカンナカムイ。そして、どうしてかタナトスまでが殺人行為を容認しようとしている。それを止めるように、俺が三人を掴んでいるが、ただの高校生ではそれらを止めるには力不足で。どうせだったらイヴとかを連れてくるべきだったかもと考えたが、あの言いようでは暴走する人が増えるだけだと、すぐに除外した。

 招かれておいてなんだが、来なかったほうが良かったかもしれない。確かに、麻里奈の本当の姿を見たかったが、そのせいで死人が出るとは思いもしない。ここに来て後悔をする俺だが、次の瞬間、扉が蹴破られるように吹き飛ばされた。


「あーあー。ごちゃごちゃとうるせぇな。動物園じゃあるまいし、神を殺すこともできねぇ子供・・が喚いてんじゃねぇよ。コロがすぞ」

「だめだよ、ハヤちゃん。一応日本人だから、殺したらひーちゃんに怒られちゃうよ?」

「……は、颯人? それに由美さんまで……どゆこと?」

「あぁ? おぉ、御門恭介。お前も(・・・)このクソだるい集まりに招かれたのか」


 ものすごい音が響き、一気に空気が変わった。さらに、そこから入室してきた人物を知っているようで、誰もが口を閉じた。黒いアルスターコートを肩に羽織り、少し長めの黒髪を靡かせる青年がそこにいた。

 入室して来たのは魔王、もとい黒崎くろさき颯人はやとであった。加えて姉、黒崎由美(ゆみ)が入室してきて、絶望する人まで現れる始末である。

 どうして二人がここにいるのかはわからないが、先程の二人の会話と、颯人が俺に話しかけてきたせいもあって、人々は俺への愚痴を一切言わなくなった。そのため、由美とタナトスが落ち着きを取り戻し、冷静になった麻里奈によってカンナカムイが制止された。


 静まり返った和室の中で、かすかに聞こえるのは畏怖を含めた本当に小さな会話である。


「《極東の最高戦力(イースト・ベルセルク)》とあの子が普通に会話してるぞ……」「も、もしかしてすごい方なのかしら……?」「そ、そう言えば、新しい不老不死が神々と《極東の最高戦力》を負かしたって話が……」


 どうやら、俺が巻き込まれた二つの戦いの噂は意外と広まっているようだ。と言っても、広まってほしくはないのだが。

 ともかく、颯人のおかげで死人が出ずに済んだ。もちろん、颯人にそんな思惑はないだろうが、それでも助かったことに変わりはない。安堵の中で息を吐いていると、もうひとりの入室者が全ての人の視線を奪っていく。


 お年を召した女性だが、明らかに纏うオーラが違う。殺意とも違う。静かな空気を纏っているのに、なんだか他を寄せ付けない雰囲気がある。そして何より、視界に入ってから俺の体の震えが止まらないのだ。

 言うならば、恐怖を纏ったような空気を放っている。


「来たか。よく覚えとけ、御門恭介。あれが現神埼家当主にして、歴代神埼家当主を凌ぐ才覚を持つ本物の怪物と呼ばれ、齢百四十にして現役の最強の人間の一角を担う日本が誇る生ける伝説、神埼紅覇(くれは)だ」


 そう言ってニヤつく颯人は、やはり《極東の最大戦力》と呼ばれるだけはある。むしろ、その姿は今にも神埼紅覇と戦いと言っているようだが、きっと由美さんに止められているのだろう。そうでもなければ、すぐにでもここが戦場になっていそうだ。

 そして俺はというと、その威圧からか神埼家の真実とも呼べる存在を前にして、指一本も動かせずにいた。

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