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正義の証明

 高校昏倒事件と呼ばれる、クロエが引き起こした問題のせいで、高校は一週間もの間、全学年及び全教職員の休暇を言い渡され、高校に近づくことすら禁止された。

 しかし、その事件が起こって四日後、俺は問題の高校へと赴いていた。というのも、黒崎颯人に指定された場所が、この高校だったからだ。


 時間は深夜の三時。黒崎颯人としても戦闘を第三者に見られたくはないらしい。俺も同じ意見だったため、特に何を言うでもなく、指定通りに高校へと来たわけだが。俺の付き添いに麻里奈、カンナカムイ、タナトス。さらには援護としてイヴ、奈留。今回の戦いの原因であるクロエを加え、計七人で高校のグラウンドにやってきていた。

 対して、黒崎颯人の方はというと、黒崎由美と養護教諭の望月先生の三人だけである。


 クロエが、パイプ煙草を蒸す望月先生を嫌がるように辺りの異変を告げる。


「ここら一帯に魔術が施されてるんだけど」

「そうなのか? 俺にはさっぱりだ」


 確かに、少し霧っぽいけど、視界の妨げにはならない。でも、クロエが言うのならそうなのだろう。なにせ、魔女とか言われる幼女だ。俺にわからない変化だってわかるに違いない。それよりも、魔術とかいう心躍らせる言葉に興奮が隠せるかどうかが、目下俺の悩みである。


 などと、自分の中で葛藤していると、望月先生がパイプを口から離して警戒するクロエに向かう。


「人払いと外界遮断の魔術よ。別に戦いを左右するほどのものじゃないから気にしなくていいわ」

「どうかしら。黒崎颯人はやる時はえげつない方法でやる男だし、信用ならないけど!」

「全面的に肯定するけれど、本当よ。じゃなきゃ、私帰るし。ただでさえ、面倒事は嫌いだっていうのに、やらないと消すとか真顔で言われた私の気持ちがわかる!?」


 クールで美人という養護教諭の望月先生が、稀に見る慌てようで言う。というか、黒崎颯人にそんな事言われたのか。なんつーやつだよ、黒崎颯人……。

 美女を脅せる黒崎颯人に、俺は少しだけ呆れを覚えつつ息を吐く。逆にとんでもない謂れを受けているにもかかわらず表情一つ変えない黒崎颯人はというと、まっすぐに俺を見つめていた。


 モテル男は辛いとはいえ、男に……しかもイケメンに狙われるほど俺の顔は整っちゃいない。付け加えるなら、性格も相当にひねくれているし、できるならさっさと帰っていただきたいのだが、これがそうもいかないのが現実だ。

 これから戦う相手になる黒崎颯人を見つめ返して、俺は口を開く。


「なあ、本当にするのか?」

「当たり前だ。怖気づいたなら、黒痘の魔女を見捨ててさっさと立ち去るんだな」

「見捨てたところで、俺を殺すんだろ……?」

「もちろん。俺の敵を見過ごすほど、俺は甘くない」


 なんていうか、もうやるしか無いっていう雰囲気なの、どうにかなりませんかね。俺としては平穏に日常を過ごせれば何一つとして文句はないんですよ。ええ、日々麻里奈のおっぱいを眺められるなら、俺は喜んで平凡な高校生になりましょう。麻里奈のおっぱいが拝められるならね!


 結局、四日間ずっと考えた黒崎颯人を倒す方法は、未だ以て見つけられず、勝てる見込みなど微塵も存在しない。このまま始まれば、数分後にはミンチになるに違いない。

 なんとか口撃で終わらせたかったが、確固たる正義を掲げる黒崎颯人には通用しなかったようだ。かくなる上は、俺の出せる最大の全力を以て対処するしかあるまい。


 俺の左右にイヴと奈留が並ぶ。俺のやる気を見て、黒崎颯人が数歩こちらに近づいてくる。その歩みが近づくに連れて、見えもしない威圧を感じ取ってか、汗が滲み出す。


「俺の前に立ったことだけは認めよう。テメェの正義を貫こうとする意思も称賛に値する。だが、相手が悪かったな。高が神を倒した程度で、俺に勝とうなんて……片腹痛い」


 一瞬にして黒崎颯人の姿が消え去った。そして、次の瞬間には俺の目の前に現れて、素早すぎる足技が俺の側頭部を狙い撃つ。咄嗟の動作で、どうにか直撃は避けた。しかし、体勢が崩れたところに黒崎颯人の右手が腹部に突き刺さる。


「ぐっ……」

「ますたぁ!」

「主様!」

「来るな! タナトスもカンナカムイも絶対に手を出すなよ!!」


 人間の拳とは思えない打撃で、俺の体は宙に舞う。そのまま、重力に任せて地面へと激突。背中を強打し、叩かれた腹部からは沸騰したお湯を掛けられたような熱を感じる。倒れた先で怒りに燃えるイヴと奈留を制し、念の為神様の方も釘を差した。

 ナメプをしているわけではない。俺はただ、どうしても黒崎颯人と戦いたくないのだ。


 しかし、痛みに耐えながら、俺はある事実に驚愕した。

 左目を起動し、未来視を使ったというのに、追いきれなかった(・・・・・・・・)。どれだけ早い攻撃だろうと、魔義眼は視ることができた。それはカンナカムイとの戦いでわかっている。それなのに、追いきれなかったとなると、黒崎颯人の攻撃は速度とは違う要因が存在するというのか。


 考えたって仕方ない。ともかく、黒崎颯人を倒すにはやつの攻撃の本質を捉えなくちゃいけない。

 立ち上がり、俺は黒崎颯人を見る。目先には、黒崎颯人がつまらなさそうな顔をしていた。


「まだわからないのか。お前じゃ、何十年、何百年経ったって俺には勝てねぇよ。諦めて黒痘の魔女を引き渡せ」

「その後でクロエも俺も殺されるなら、渡そうが渡すまいが……同じだ。それなら、俺は……クロエを守って死ぬ方を選ぶ」

「殊勝な心意気だけどな。それは無駄死にっていうのさ。死ぬのが確定しているなら、神埼生徒会長との日々を最後まで過ごしたほうが頭がいいと思うぞ」


 それは……確かにそうかもしれない。命を賭してまでクロエを守るなど、黒崎颯人には考えられないことだろう。頭のいいやつは、きっと黒崎颯人が言ったようにするのだろう。

 でも、残念だったな。少なくとも俺は、そうじゃない。


「知らなかったのか? 俺は、超がつくほどの馬鹿でな。麻里奈も捨てられないし、クロエも捨てられない。まして、自分の命なんてもっと捨てられないんだよ。俺は生きるぞ、黒崎颯人。たとえ、お前が俺を殺そうとな」

「……くだらねぇ。お前みたいなやつの最後を、俺は知ってるよ」


 そうかい。でも勉強不足だったな。そういうやつは往々にして諦めが悪い。人一倍、執念てやつを持ち合わせるがゆえにな。


 左目に触れて、俺は魔義眼を完全に開放した。

 今のままでは何も先に進まない。前に進むには、どれだけの代償を支払っても、突破口を見つけるしか無い。そのためには、更に先の未来を見る必要がある。

 呼応するように、左目が熱くなる。加えて、右側頭部が激しい痛みを伴ってくる。そして、それらと並行して視界に映し出されたものは……。


「こ……れは……?」


 左目に写ったのは全てが止まって見える世界に唯一人歩く黒崎颯人の姿だった。

 だが、何かがおかしい。颯人の動きは正常だ。だけど、周りの世界――――いや、正確には鳥が空で停滞しているのだ。


 一体どういうことだ。時間が停まっている……?


 その思考に至った時点で、全ての合点がいった。片膝を付き、どうやら代償として発現した右側頭部の激痛に耐えながら、荒い息で笑ってみせる。


「わかったぜ。お前の強さの秘密が」

「なに?」

「どういう原理かはわからない。でも、停まった世界を行き来しているんだろ?」

「…………そうか、その眼。カインの忘れ形見で俺の世界矛盾を見抜いたのか」


 世界矛盾……? 確か、黒崎由美が前に保健室で言った言葉だったはず。不老不死とやらに関係があるようだが、実際のところどういうものなんだ……?


 理解していない俺を見て、黒崎颯人が呆れたように息を吐いて見抜いた褒美だと言い放つ。


「世界が見逃した致命的な矛盾を《世界矛盾》って呼ぶのさ。それを見つけたやつは、見つけた矛盾に順した能力と、埒外の存在となる証に不老不死を手に入れる。簡単に言えば、世界が決めた生物の枠からはじき出されるのさ。代わりに、超能力よりも更に神秘的な力が手に入るがな」

「なんで……それを俺に教える?」

「情報不足の勝利は、俺の正義じゃない。それに、知ったところでお前に勝ち目はない。……あぁ、もう一つ言うが――」


 瞬間にして目の前から消え失せ、気がついたときには俺の頬を黒崎颯人の拳が撃ち抜いていた。頭蓋骨の下半分が砕けたような音が鳴り、有り余る威力で俺の体がその場で一回転した。地面に再び叩きつけられた俺を踏みつけて、黒崎颯人の冷たい視線が俺を貫く。


「俺の世界矛盾は、時間を停めることじゃない。一秒を永遠に引き伸ばす、単純な加速・・だ」


 冷え切った瞳には、背筋が凍るほどの殺意が込められていた。

 どうして黒崎颯人が、そこまで不老不死を嫌うのか。そして、俺を生かしたり殺そうとしたりするのか。その理由が黒崎颯人の瞳の色に映されているような気がする。しかし、もう俺にそれを考える時間はなさそうだった。


 遠くで麻里奈の悲鳴が聞こえる。俺の頭を踏んでいた黒崎颯人の足が持ち上がるが、逃げ出すだけの力が体に入らない。どうやら、先程顎を砕かれた際に、脳震盪が起こったようだ。動かない体だが、意識ははっきりとしていて、これから黒崎颯人がしようとしていることがわかる。


「寝てろ。次に目が覚める頃には、黒痘の魔女の精神は完全に死んでるだろうさ。そうすれば――」


――――テメェのような馬鹿野郎が間違っているという証明になる。


 その言葉に、全てが込められているような気がした。

 そして、持ち上げられた黒崎颯人の足が、俺の頭を思いっきり踏みつけ、風船が割れるような音と共に俺の意識は完全に失われた。

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