表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
236/250

万年中二病

「きょーちゃん」


 麻里奈の姿。麻里奈の声。麻里奈の瞳が俺を見つめる。

 そうだ。俺だ。俺が来たぞ、麻里奈。お前を止めるために、俺が来た。

 無表情。無感情。麻里奈の姿をした空っぽの魔女は、俺を見つめて手をのばした。


「どう……して……?」

「どうして、諦めないの……?」

「世界はこんなにも……無常なのに……?」

「世界を救っても……きょーちゃんを救ってはくれないのに……?」


 もゆる。無色の炎が麻里奈の周囲を猛るように空間を歪ませている。

 あれが何なのかはわからない。ただ、いいものでないことだけは確かだろう。ただ、今すぐどうこうなるというわけでもなさそうだ。そもそも、今の麻里奈ならば、一瞬で世界を溶かしてしまいそうだから、こんなにどっしりと構えている必要はない。

 ならば、他に何か理由があると考えたほうがいい。


 その理由とやらが、俺との対話だったならいいが……。

 麻里奈の姿をした中身が、いったいどのようなものか。一か八かの賭けに出よう。

 手始めに――


「麻里奈……なのか?」

「……違う」


 違いますか。そうですか。

 さて、アプローチを変える必要があるみたいだ。次はどうするか。胸でも揉んでみるか。

 そも、あれは幽王と絶世の魔女が溶け合ってできたものだったはずだ。もしかしたら、幽王の女体化という線もある。もしもそうだったなら、太陽を落として世界ごと破壊しよう。惚れた女に成り代わった自分自身など、世界という痕跡ごと消し去ったほうがいいだろうしな。


「ごちゃごちゃと考えているようだけれど、残念ながらあれは神埼麻里奈それそのものだよ」

「ほんと? 幽王とかじゃない? 幽王の女体化だったら、世界ごと破壊するつもりだったんだけど……」

「それは恐ろしいね。でも、こればっかりは本当だよ。悲しいけれどね」


 麻里奈は幽王によって殺害されたはずだ。その麻里奈が蘇った。不老不死者でもない、ただの人間であるはずの麻里奈が、だ。

 色々と問いただしたい気持ちを押さえつけて、カインの言葉を信じようと思った。とは言え、カインに聞いたところで、こいつは話すとは思えなかったのが主な理由ではあるのだけれど。

 しかし、問題の根本が変わってしまったのは確かだった。なぜ麻里奈は蘇ったのか。蘇ったのならば、あれは俺の知る麻里奈でなければならないはずなのに、どうして本能が彼女を彼女でないと判断してしまったのか。


 その理由を知っているであろうカインは、ことここに至っても本音で話してくれるとは思えない。なぜなら、こいつは……こいつの目的は他ならぬ麻里奈と俺の戦闘と、その終わりの先にある何かなのだ。それを妨げかねないことをわざわざ言うはずもないだろう。

 さて、問題は山積みだ。解決しなければならないことは決まっているものの、俺の本能がそれをやめておいたほうがいいんじゃないとひっそりと告げてくる。

 歩みはじめてしまった手前、やっぱやめようとはいえない。もしもそんなことをすれば、由美さんに大口を叩いた心が恥ずかしさで耐えられないし、最悪の場合は由美さんに本気のビンタで頭蓋骨が砕け散りそうだし。


「そんなに肩を落としてしまうほどに後悔をするのなら、初めからそんな決断をしなければいいじゃないか」

「バカ言え。世界を救うとか大口叩いて後悔しない高校生がいないわけないだろ」

「その高校生が方や世界を破壊しようとしているわけだが?」


 あれのどこが高校生なんだ。一緒にするな、まったく。

 幽王はどこからどう見ても義務教育真っ只中の子供じゃないか。世界が大切な人を奪っていくから、世界を壊そうとか考えちゃう中二病くんだろうが。俺はあれよりも成長してるんだよ。なにせ高校生だからな。

 どんぐりの背くらべを知っているだろうかと言いたそうな顔をしているところを見るに、俺の心のうちは読み取られているのだろう。カイン(こいつ)の前ではプライバシーもへったくれもないな。


「さてさて。あと数歩で世界の破滅と戦いが始まってしまうわけだけれど、ここで僕も君に最後の問いをしなけらばならないだろう」

「世界征服はしないぞ?」

「そうじゃない。その回答はもうもらっているからね。だからこそ、僕がここで聞かなければならないことはそれじゃない。だったら何なのか――気になる?」


 どうでもいいけど、どうでもいいことを聞いたらひっぱたこうと思った。

 だってニヤついてるもん。ろくなことじゃないよ絶対。

 どこまでも呆れさせるカインの――親友であり、父親である男の最後の最後の問いとやらに耳を傾けるために、肯定の頷きを見せた。


「君は正しかったかい。化け物の生に誇りはあったかい。――――今回も勝てそうかな?」


 やっぱりくだらないことだった。

 くだらないことが過ぎていて、笑ってしまうほどだ。

 そんなくだらないことを聞いてくるカインには、俺もくだらない言葉で返すことにしよう。


「勝つさ。俺を誰だと思ってるんだよ? ――――中二病を卒業できなかった高校生だぜ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ