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この世に在らざるもの

 この世を終わらせる存在は必ず現れる。そう提言した男がいた。

 神に嫌われ、人類に疎まれ、楽園を追放され、安息を奪われ、ただ己のみしか信じられぬ亡者がいた。他人を屈服させることでしか、信頼を得られぬ強者だからこそ、わかる真実があったのだ。


「その男が……カイン?」

「そうだ。そして、お前はその男によって設計された人類史を未来に繋げるたった一つの希望――MIKADOシステムの中枢だ」


 小野寺誠によって戦火から遠く離れた場所に連れてこられた俺は、一つの真実を得た。

 およそ、誰も知らないであろう真実を……。


「でも、なんであんたがそんなことを知ってるんだよ……?」

「俺だけが知っているんだ。他の誰も、知るわけがない」

「なぜ……」


 視線を外す。落とされた視線は、悲壮を物語るものだ。言いたくはないとわかっているが、俺には聞く権利がある。世界を守るために作られた俺には。

 それを十分に理解している小野寺誠はこの後に及んで隠し通そうとは考えていないようだ。やがて視線は上がり、俺とぶつかる。


「俺はお前の前に作られたMIKADOシリーズの出来損ないだ。一から設計を始めたお前とは違い、想定され得る脅威を排除できる力を封じ込めることができる器に無理やり魂を詰め込む計画……そうして生まれたのが俺だ」

「じゃあ……あんたは――」

「――血は繋がらずとも、系譜的にはお前の兄に当たる」


 妹の次は兄貴か。意外と大家族じゃないか、俺の家は。

 などとふざけている暇もなく、俺は信じられない情報に頭が痛くなりそうだった。

 しかし、俺にそうしている時間はない。そういうように小野寺誠は話を続ける。


「MIAKDOシリーズとは、カインが世界を救うために建てた計画だ。この計画には数多くの人間、不老不死者、聖霊、神と呼ばれるものまでが関わっている。しかし、その痕跡は跡形もなく消し去られた」

「どうして……いや、それよりもどうやって?」

「一度殺されたんだ。この世界のあまねく生き物や概念といったものが全て。一掃された世界で、カインは全てを蘇らせた」


 それはどういう……。どうしてそんな手間のかかることをしようとしたんだ?

 間髪を入れずに言葉は続く。


「奴の世界矛盾はわかっている。いいや、世界矛盾と呼ぶには大きすぎる力だ」

「それは?」

「死と生の逆転。破壊と再生の輪廻。あるいはリセットとスタートの号令。奴が本気になれば、この世界を瞬く間に終わらせることができる。まるで小説を閉じるように、な」


 死と生の逆転? なんだよ、それ。それじゃまるで……。


「神様みたいでしょ?」


 振り返る。聞き覚えのある声であったが、背筋を凍らせるにはちょうどいい塩梅だった。

 小野寺誠はバツが悪そうにそっぽを向き、俺は声の主を凝視する。

 大人な雰囲気を纏う彼女は、物悲しそうにボロ布を抱いている。


「由美……さん?」

「私の最大の罪は、知恵の実を食べたことじゃない。あの子を産み落としてしまったこと。そうでしょ、小野寺くん――ううん、アベル?」


 俺のことなど無視して、由美さんは小野寺誠を問い詰める。

 逃げきれないと観念している様子の小野寺誠は視線を合わせぬまま、会話を始める。


「何度言えばわかるんだ。俺は――」

「アベルではない、って? そうだね。純粋なアベルではないかもしれないね。何せ、君の中には龍王の魂とアベルの魂、そして犠牲となった本来の君の魂の三つがあるんだから。でも、今はアベルに聞いてるの。答えなさい。あの子は――」


 おそらく颯人の能力を真似たのだろう。見えぬ速さで小野寺誠の前に立ち、か細い腕からは想像もできない剛力で胸ぐらを引っ張る。


「カインはどこ?」


 殺意。

 濃密な敵意が空間すらも歪ませようとしていた。

 俺なんかが止められるはずもない。震え上がるほどの恐怖を感じさせる。見たこともない由美さんの姿に、俺は愚か小野寺誠さえも動けなくなっていた。


 その最中、軽い声が冷え切った場に響く。


「ボクを探して、どうしたんだい……イヴ(母さん)?」


 タナトス……いいや、金の髪、翠の瞳、幼さと逞しさを兼ね備えた身体。あんな姿は見たことがない。あれこそが本来の姿。

 人類史の悪。罪を概念化させた絶対の悪。

 そして、俺を作り出した最悪の外道……。


「お前が……カインなのか?」

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