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終末の化け物と常勝の化け物

「終末を超える……それ福音をもたらす前兆。すなわち、吾が求めし救済の施し。よぉうやく…………ようやくして、吾は見つけることが出来た。感謝するぞ、最先端の英雄!! あははは、はっはっはっははああああ!!」


 起き上がりながらにつぶやくローズルの様子がおかしい。体が変質していく。右腕は狼の顎へ。左腕は蛇の頭と尾。顔の骨格は歪み。口からは黒煙を吐き散らす。腰が増長して八つの馬足へと成る。


 異形。


 そう形象するのが適当な姿のローズルに数歩後ずさる。無論、逃げるためでも、怖気づいたわけでもない。右手に持つ刀とローズルとの間合いを合わせるためだ。

 神と呼ぶにはあまりにも異常な存在。そして、かつて颯人に偽名だと言わしめた未だ名の知らぬ神。名前さえわかれば、あるいは突破口にはなるだろうか。いいや、無理か。神様の伝説なんて、俺は詳しく知らないし。


解析アナライズ完了――対象の不明フィルターを解除――〉

神代終末論ロスト・エスカトロジー“その狡知により万象を終わらせる者”――――狡知の神:ロキ〉


 仕事が早いな!? …………ロキという名前なら聞いたことがあるぞ。有名というか、少しゲームをしたことがあるやつなら一度は聞いたことのある神様のはずだ。

 しかしなんだ? 神代終末論って。


〈レオナルド・ガーフェンが人類史に遺した二十八冊の手記。その一巻六十八頁に記された終末論。世界の主権が人類ではなく、神に寄り添っていた時代に提唱された一〇八種ある“神による世界の終末”を人類の手の離れた終末論――すなわち神代終末論ロスト・エスカトロジーと称する〉


 解説どうも!! てことは、今目の前にいる神様はただの神様じゃなくて、カオスと同じ世界を終わらせられる姿の神様って認識で良いってことね!?

 解説機能の付いた《黙示録アポカリプス》――もとい《救済論イーヴァンゲリオン》は非常に優秀になったと思う。ただ疑問に思うのは、未来の俺の部屋でなにやら作業していたはずの左目が、現に俺の左目に義眼として存在していることだ。

 そも、俺がこの世界にやってきたときから左目は左目としてそこにあった。

 それはなぜか……。


〈当機はマスターの脳内に複製および同期データを保存しています〉

〈マスターが過去の世界に行く際に、タイムパラドクス回避のため旧世代の当機の全機能を凍結封印しておりましたが、“カイン”の関与により3rdプロトコル移行によりパラダイムシフトを起こし、解凍作業を行いました〉


 パラダイムシフトって転換期とかそういうやつだよな?

 もしかして、御門恭子が言っていたタイムスリップ系映画でよくある未来が変わっちゃうからなんだかんだってやつをやっちまったのか? まずいよね? あとで絶対怒られるやつだ。

 いや、むしろ、パラダイムシフトが起きた原因は、元を辿ればローズル――ロキが過去の俺を殺しに来たからだろう。よって、俺に否はない。それにロキを倒さなければ、どのみち“名も無き邪神”との契約もままならないだろう。


 気持ち悪さが数段階跳ね上がったロキを睨んで出方を伺う。

 その間にも何やら俺の頭の中に情報が流れ込んでくる。手に持つ神埼紅覇の愛刀の情報。刀の扱い方についての情報。ロキの神話及びロキの終末論についての情報。

 この戦闘について必要な情報が流れ込んで思考の邪魔をしてくるのだ。


「っつ――ロキ……お前の終末論は――人類の明日を閉ざすもの…………お前の目的は……人類の明日を開く者――英雄による自らの完全破壊。お前は、人類の明日を担える者を探していたのか」


 頭痛と共に流れ込んできた情報が集約し、一つの回答を叩き出す。

 ロキは、自らの終末論を悪用し、人類が生きていて良いのか、悪いのかを決める気だ。その品定めに俺が抜擢された。

 しかも、こいつの終末論は…………。


「そんなことのために、神も人間も、星々ですらも食い尽くすつもりか……ロキ!」

「ふっふっふ。さすがですね、お兄さん……いいや、褒めるべきは、あの戯け者カインが遺した最後の作品である左目でしょうかねぇ? まあ、その機能を最大限に扱えるようになったことが大きいようですが……」


 どうして、俺の左目のことを……? たしか、この左目は神様にとってもブラックボックスだったはずだ。あるとすれば幽王が秘密を教えたというのが濃厚だが、見る限り人から聞いたというふうではない。

 でもありえるのか? 神にしか装備できず、神では装備することができない左目の情報を手に入れる方法がどこにあるというのだ。いやそれ以前に、こいつは本当に神様なのか……?


「考え事をしているところ失礼つかまつる。そろそろ、始めようじゃあないか、英雄。二度の敗北を無かったことにした不届き者よ。果たして貴様が真に吾が待ち焦がれた想い人かどうか…………いざ、異常に勝負!!」


 もう初めの辛うじて人として認識できなくもなかった姿を捨てて、真の化け物へと変わり果てたロキが猛り狂いながら攻めてくる。

 右手に収められていた刀を両手で握り直し、呼吸を整えて迫る終末に挑まんとする。

 終末の化け物と常勝の化け物の戦いがようやく始まろうとしていた。

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