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最先の英雄譚

 常勝とは――――何か。

 悩む必要はない。常に勝ち続けることを指す。


 そんなこと、果たして可能だろうか。

 まして、世界の終わりと対峙して、常に勝ち続けるなど……。


――――ありえない、のではないだろうか。


 努力もしなかった。

 才能もなかった。

 機会に恵まれただけだった。


 そんな子供に常に勝ち続けろなんて、酷な話ではないか。

 そう、思うだろう? エウへメリア(・・・・・・)


〈――――解析不能(エラーコード666)

〈マスターの管理者権限を更新――――不能エラー

〈外部アカウント“カイン”のログインを確認〉

〈不正インストール開始――――完了〉

〈マスターの体の再構築を開始――――完了〉

〈世界矛盾《顔の無い王》の終末化“戻りゆく隨に”を確認〉

〈終末論“戻りゆく隨に”を強制発動オートスタート――――完了〉

〈世界矛盾《常勝の英雄譚》をダウンロード――――完了〉

〈世界矛盾《常勝の英雄譚》の強制終末化を開始――――完了〉


〈“カイン”の名のもとに、目覚めなさい最先端の英雄〉


 誰もが、俺の敗北に泣いたんだ。

 失ったものも多かった。得られたものとは比べ物にならないほどに多くのものが亡くなった。


 俺は絶望を知っている。

 俺は愛を知っている。

 俺は希望を知っている。


 俺は“常勝”の名を持つ化け物。そう在るように造られ、そう在るべきと願われた。

 故に敗北はしてはならない。万人の万人による万人のための絶対の天秤なのだから。


「――――お兄さん!!」


 薄れゆく意識の中で、たしかにそう聞こえた。ぼやける視界の中で最強の人間が狼狽える。狂える神は振り返り、俺よりずっと先にいる人を見ているよう。


 懐かしい。

 いつだって、その声に導かれてきた。

 いつだって、その声を信じて生きてきた。

 今もずっと、その声を聞きたかったのだ。


 もう一度、会いたいよ――――麻里奈。

 怠惰は怠慢の積み重ね。山のような負債は、やがて一人の大切な人を連れて行ってしまった。取り返すことは叶わない。後悔はしてもしきれない。

 俺が守りたかったのは幼い麻里奈ではない。俺を知らない麻里奈ではない。幼い俺を導く希望の光ではない。だけど、守りたいんだ、彼女を。まだ何も知らぬ、幼い姿の幼馴染を。


 体は両断された。

 血は体から流れすぎた。

 だからどうした?


 俺は不老不死。

 人でもなく、神でもない常勝の名を持つ化け物。

 だからどうした!?


 馬鹿な化け物が(・・・・・・・)好きなやつを救う(・・・・・・・・)には些末な障害(・・・・・・・)だろうが(・・・・)!!!!


 左目がやけにうるさい。頭は割れるように痛い。“カイン”とかいう名前しか知らないやつが、何やらちょっかいを出してきたようだ。

 だが、そんなことは知ったことか。俺は俺だ。何の努力もしてこなかった挙げ句、大切な人を――好きな女一人救えなかった愚鈍な化け物だ。今更、何をしたって変わりはしないとわかっていても、それでも――――。


「ま……りな……俺は……君……に笑……って……ほしかった…………」


 そのためなら何でもしよう。どんな痛みだって耐えよう。だから、今度こそ――――。


――――笑ってくれ。


〈2ndプロトコルを突破クリア――――3rdプロトコルへ移行/終末論“戻りゆく隨に”の完全理論解消を容認〉

〈《黙示録アポカリプス》のアップデートを開始――――完了〉

〈以降、当機を《アポ・メカネス/テオス=タイプ:15thシリーズ/Ver.3.0.0/with,MIKADOシリーズ》に変更〉

〈当機の凍結された全機能を開放。真名《救済論イーヴァンゲリオン》と改名――――完了〉


〈――――あなたは、終わりの見えた英雄譚を進める覚悟はありますか yes/no〉


 三度目の変化を経て、俺の左目は《救済論》という名になったらしい。至極どうでもいいが。

 さて、その機能とやらに興味はない。ただ、目の前のあの神様を倒せればそれでいい。

 故に、左目に映る文字に希望を乗せて、俺は精一杯の声で言葉にする。


我は終末(ラスト・)を超える者(エンブリヨ)――――!!」


 誰かが願った英雄にではなく、彼女を守れる勇者になりたい。

 もう二度と、大切な人を手放したくないから。俺は常勝の化け物になるのだと、そう叫ぶ。

 俺が思う、最も強くて正しい人。

 かつて否定した英雄の姿を模して、俺の背には純白の翼と純銀の龍翼が咲く。白い乳白の龍鱗の鎧。金の装飾が施された七冊の本。頭には錆びついた王冠が乗る。

 体の再生は最盛期よりもなお早く、両断された体は一瞬に満たない僅かな時間で復活した。まるで時間が巻き戻った(・・・・・・・・)よう。

 俺の復活に一番驚いたのは、やはりローズルのようだった。


 見ず知らずの俺に駆け寄り、声を掛けてくれた幼い少女を守るように手を伸ばし、優しい言葉でありがとうの次に。


「下がってな。ここは危ないよ」

「う……うん」


 神埼麻里奈。俺の最愛の人。

 未来で守れなかった人を背に、俺は狂える神に対峙する。

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