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常勝を冠する化け物

「つまり、なに? お兄ちゃんは“名も無き邪神”と契約したいの? 力を手に入れるために?」

「まあ、そうなるな」

「そうなるなって……お兄ちゃんは曲がりなりにも正義の味方の立ち位置なのに、世界を破壊しそうな存在と手を組むって……そんな闇落ち主人公みたいな展開は必要ないんだけど!?」


 すべてを話した上で、御門恭子は断固反対。カンナカムイは沈黙を突き通すようだ。結局、何を言われようと、これ以外に問題を解決できないことは明白だ。

 むしろ、邪神よりもいい物件を知っているならぜひとも教えてほしいくらいでもある。

 そんなものは存在しない。だって、天上の扉が開かれるのを待つ異形の善神は、同じ存在である異形の邪神にしかどうしようもできないから。故に、邪神との契約は必須事項で、それで伴う犠牲は許容範囲内でなければならない。


 その許容範囲とは、俺の全存在以内であること。


 どうも、御門恭子はそれが気に入らないらしい。

 続けざまに彼女はきれいな髪を掻きむしりながら吐き出すように言葉を連ねた。


「例えば、それで力を手に入れたとして、お兄ちゃんの体を寄越せって言われたらどうするわけ? 手渡すの? 無償で? 何の抵抗もせず?」

「時と場合による、かな」

「そんな時も場合もあるかぁ――――――!!」


 何をそんなに怒っているのかは不明だが、そもそも彼女にとって俺という存在はただ助けてくれるだけでいいはずだ。そして、邪神との契約はおそらく幽王を倒すまでだろう。その後は、俺が邪神のまだ出されぬ要求を飲めばいいだけ。

 たったそれだけで、何の害も不利益もない彼女がこうも怒るのは不思議を通り越して、あやしさすら感じる。


 幽王を倒した先に、何かあるのか。いいや、幽王は自分が倒される計画など立てるはずもない。予防線があれば、話は別だが……。

 彼女――御門恭子を見るに、きっとそれはない。

 正真正銘、幽王を倒せば、この終末は止まる。そういう確信がある。


 では、彼女は一体なにに怒っているというのだろう?

 ……女の子の日?

 言えば殴られることを身を以て経験……知っているので、黙ってやり過ごす所存では在るが。


「まあ、大丈夫だろ。あいつは遊び相手がほしいだけみたいだし」

「その遊びで世界が滅ぶんだけど!? 世界を救って世界を滅ぼそうとしてるんだけど!? その終末を一体誰が解決すると思ってるの!?」

「俺だろ?」


 きょとんと、可愛らしい顔が止まる。

 なんだったら時も止まっていたのかもしれない。

 予想打にしなかった言葉。かの有名な暴れん坊雷神こと、カンナカムイですら目をひん剥いて凝視した。はて、俺の口から一体何が飛び出ただろう。


 “世界を救う”

 おおよそ、中二病患者でなければ出ないであろう言葉。

 そして、俺は中二病ではなく、冗談で言ったつもりもない。


「お兄ちゃん……今、なんて?」

「世界を救う。そう言ったんだけど?」

「簡単に言うがわかっているのか、擬人神アイヌラックル。この状況下、世界を救うという言葉の重みを」

「わかってるさ」


 わかっている。

 この言葉を使うには遅すぎるということくらい。

 幽王は終末に王手をかけた。俺はそれから逃げてしまった。

 一度の敗北で、俺の存在は揺らいでしまっている。常勝を手放した化け物は、ただの化け物か……あるいは。


「絶対的劣勢で、俺に勝機は微塵も残されていなくて。今いる仲間はここの二人だけ。天上の善神を抑え込むために邪神の力を借りなきゃいけないほどに、俺は弱い。……俺は弱いんだよ。初めから知っていたけど、できれば再確認はしたくなかった」


 レベル1のまま、ラスボス戦へ突入しようとしている。

 相手は強大。なにせ、別の世界の俺自身だ。数多の終末を乗り越えた俺以上の俺自身なんだ。


 でもまあ。

 強くて上等。勝ち目がないなんていつものことだ。常日頃のこと過ぎて、理解したそばから驚いた。

 甘えるなよ、御門恭介。お前は弱い。優柔不断で、臆病で、好きなやつにかっこいいところすら見せられなかったヘタレだろう。


 うぬぼれていた自分を笑い、カンナカムイ、御門恭子を見て口端を上げる。


「幽王が何をやろうとしているのかは、正直よくわからない。あいつは俺だ。でも俺はあいつじゃない。あいつが俺の日常に喧嘩を売ってきた。喧嘩なんておっかなくてやりたくないけどさ。どうも神様やら、人類やら、はたまた死なないやつらがこぞって俺を祭り上げるからさ、しょうがないよな」


 そう、しょうがない。

 仕方がないから、世界を救おう。どうせ、世界が救えなくても文句は言われないさ。だって、俺が死んだら世界もそこでおしまいなんだから。

 いつか……たしかカオスが言っていた。

 思ったとおりにやれと。悩む必要などなく、無数に在る選択肢の中でただ最善と思われるものを選べばいいだけだと。

 あの適当な神様が言うことだ。きっとそれが正しいのだろう。だから俺は、いちいち悩むことをやめた。


「世界を救うよ。幽王は俺が止める。善神を止めるために邪神の力が必要で、そのためにはまず――」


 この場所にたどり着くために歩んできた道を見る。

 遠くで現実の世界が少しだけ見えた気がした。もちろん、そこには平穏な日常が謳歌されていることだろう。問題なく、ただただ悠然とその景色を目に焼き付けて。


「この世界を壊そうとする神様とやらを――ぶちのめしに行こう」


 カンナカムイ、御門恭子を連れて現実世界へと歩んでいく。

 先のことなど知ったことか。今は、今やるべきことだけを考えていればいい。


 いつにまして、いつも以上に巻き込まれ。

 のらりくらりとここまで来てしまった。

 だったらもう、誰かを巻き込んでも文句は言われまい。少しくらいはワガママで行こう。わざわざ過去にまでやってきた手早く神様をとっちめる。そのために、ちびな俺にも一仕事してもらおうじゃないか。

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