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エウへメリア

「…………おっぱいだ」


 我ながら品のない言葉だと思った。けれど、仕方ない。目の前に割と大きめな胸があったのだから。

 夢かとも思って、その胸に手を向けると……。


「えっち」


 ぺしんと伸ばした手を弾かれて、かつ聞き覚えのある声でそう言われた。

 少し痛む手のひらを擦りながら、胸の奥に見える人の顔を見る。御門恭子だった。

 どうやら、彼女の膝枕で眠っていたらしい。どれくらい眠っていたのかを聞く前に、突発的に起こされる邪神との会話を思い出す。たしかやつは、神が迷い込んだとか言っていたような……?


 起き上がり、ここがどこなのかを調べる。気絶した湖の中から出て、どうも草むらの上らしい。


 そう言えば、気絶する前にカンナカムイとの一悶着があったのを懐う。

 俺がこうして妹の太ももで眠っていられたということは俺が気絶している間に話が着いたと考えても良いものか。

 そう思い、カンナカムイの姿を探す。やつは変わらず湖の中心にある岩に座っていた。ただ雰囲気が争ったときとは少し違うような気がする。


「カンナカムイ――」

「いい」

「……は?」

「貴様の覚悟は見た。どうあろうと英雄で有り続けるお前の姿を。そういうことだったのだな。かつて未来であの娘に言われた言葉を思い出した」


 神妙な面持ちで俺を見つめるカンナカムイに、見つめるな気持ち悪いとツバを吐き捨てる。

 急に襲われそうになったのだからこれくらいは許してほしいものだ。いや、あいつのことだから許すわけはないとわかってはいる。むしろ、もう一度怒らせて喧嘩になるやもしれない。

 文句でも言われるかと思ったが、そんなことも言わずに岩から俺の下へと降りてきた。そして、あろうことか膝をついて頭を下げる。


「お、おい……」

擬人神(アイヌラックル)

「お、おう? 久しぶりに聞いたな、その呼び名」

「我々神に人類は救えない。世界を救うことは叶わない。我々は秩序を守り、世界の在り方を決めるだけで救うことができないのだ」


 だからなんだという。

 初めから神様を当てにしてはいない。これは俺が始めた戦いなのだから、きっと俺が終わらせなければならないのだろう。遺憾ではある。けれど、それに文句を言えるほど、子供ではなくなってしまった。

 もう振り返る時間は過ぎてしまったのだ。


「世界を救うのはいつだって人類だ。そうあるように願われ、そうであれと生み出したのだから。しかし、数多の人類にそれらを達成しうる力はない。だからこそ、それを行う者を神々、あるいは人類はこう呼ぶのだ――――英雄と」


 一息。


「救ってくれ、擬人神(アイヌラックル)。力なき人類を、不甲斐ない我々神を。そして、彼女が愛したこの世界を」


 麻里奈は世界を愛していた。何がそんなに良かったのだろう。こんなにも理不尽なこの世界にいいところなんてあるのだろうか。

 本当に勝手な奴らだ。何でもかんでも俺に押し付けて救わせようとする。でもいい。それでもいい。俺にとって世界を救う理由なんて、きっとそれだけで十分だ。

 頭を下げるカンナカムイに、しゃがみこんで話しかける。


「お前たちはほんとに勝手だなぁ」

「……」

「でもいいぜ。お前たちが世界を救えって言うなら、ついでに救ってやる。ただ勘違いすんなよ? あくまでついでだ」


 ついでに世界を救うとは言うものだ。と、俺も思う。でも俺が本当に救いたいのは俺自身で、俺を救うにはみんなが必要だ。

 そして、みんなを救うためにこの世界は絶対に必要なものだった。

 “常勝の化け物(エウへメリア)”と呼ばれる人工英雄は、絶対の天秤を持ちながら自分の命の価値すら決められない優柔不断なやつだ。

 それでも俺にだって決められることがある。大分遅くなってしまったが、今度こそ全員を救おう。麻里奈ならこの程度では諦めないはずだから。


「話は終わった? ならこれからの話をしようよ。まずは気絶してたときの話を聞かせて」


 静かに会話を見ていた御門恭子が少し呆れた顔で訪ねてくる。

 頷き。気絶した精神世界で“名も無き邪神”と話したこと。記憶を取り戻したこと。この世界に来てしまった理由。邪神と契約をしようとしていること。


 そして、この時代の俺が神に命を狙われていること。


 これからを決めるために必要な情報をすべて提供して、この三人で解決しなければならないことを念頭に作戦を考えることにした。

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