封印された山
神埼紅覇と出会ってこの世界で俺の味方が一人もいないことを認識した上で、俺と御門恭子は仲間になってくれる人を探して街を散策していた。といっても、宛もなくただ歩いていたに近いが。
僅かな可能性で御門恭介――人工英雄の存在を知っている緋炎の魔女に助力を頼めないかとも思ったが、当の本人がどこにいるのかがわからない。探そうにも緋炎の魔女の居場所を知っている人についさっき刃を向けられたばかりであることを忘れてはならない。
「本当に俺に協力してくれるやつなんているのか?」
「さあ?」
「さあって……じゃあどうするんだよ?」
「それでも探すの。じゃなきゃ、何も始まらないでしょ?」
それはそうだけれど……。
焦っているわけではなく、諦めているわけでもない。ただ、宛もなくただ前に進むことに疑念を感じているのだ。
いつだって、俺の前には相手がいた。事件が起きて、それに巻き込まれて、なし崩しのように事件解決のために走った。
でも、今回は違う。明確な相手がいない。目的達成のための手順が用意されていない。俺の知らない場所で事件が起きていて、俺には関係ないことばかりが増えていく。
結局はどうすればいいのかがはっきりわからないと何も出来ないのだ。
いつもなら、我関せずと過ごせるのに、今回ばかりはそうもいかない。なぜなら、身を落ち着かせる場所すら用意されていないから。
まずはゆっくり過ごせる場所を探して、それから……。
「色々考えているみたいだけど、どうせ徒労に終わると思うよ?」
頭を捻る俺に向かって、御門恭子が言う。
なにくそと思ったが呆れ顔の彼女が見えて、逆になぜだろうという感情が湧いた。
「お兄ちゃんは“常勝の化け物”なんだから、色々考えたところで意味がないよ」
「それは俺がバカだって言いたいのか?」
「そう言ってほしいなら言ってあげるけど? そうじゃなくて、絶対の天秤であるお兄ちゃんには何かを迷う必要がないってこと。だって、こうだって思えばそうなるんだから」
何をバカな……と言いたいところだが、颯人も言っていた。幽王がそれを強く刻みつけた。
俺は“常勝の化け物”。絶対の天秤であり、他の選択肢を潰す者。
タナトスの言う、俺の正義が正義になるという言葉の意味はきっとそれなのだ。かといって、例えばマンションを指差して、ここは俺のものだと言ったところでそうなるとは思えない。
ただし、何かの選択肢の前においては言わずもがななんだろう。つまり……。
「何かが起きるまでは悩む必要がないってことか……」
「そぉそ。悩んだって意味ないんだから、今は私に付き合って」
「付き合うって……そう言えば、どこに向かってるんだ? この方角は……」
特に何があるわけでもない。ただ、昔から少しだけ有名な山があるくらい。
御門恭子に手を引かれながら、俺はおそらくは何もないであろう方向へ連れて行かれる。
嬉々として進んでいくものだから、何かがあるのだろうと思っていたが……。
ふと、彼女が足を止めた。目の前にはフェンスよりも一段階上の柵で仕切られている。
よく見ると、何やら御札がはられているようだ。いわくつきの場所か……あるいは。
「あ、おい」
「なぁに?」
「ここ入っていいのか?」
再び歩き出そうとする御門恭子を握られている手を引っ張ることで足止めする。
引っ張られた彼女は振り返り、首をかしげて聞いてくる。
いかにもな場所だ。何かが絶対にいる。とくに人と関わってはいけない系のやつが。だというのに、彼女は進もうとした。なぜ……?
その答えはすぐに判明する。悪びれもない彼女の先にあった御札で封をされている柵の扉が何もしていないのに開かれたのだ。
そうして、彼女は語る。
「招かれてるんだから、行かなきゃダメでしょ?」
「いや……絶対行っちゃいけないやつでしょそれ……」
「じゃあ、他に宛があるの?」
少なくとも、厳重に封印されていそうな人よりは希望があるやつなら……。
しかし、確実性のない回答で御門恭子を止められるはずもない。仕方なく、俺は呪われそうな場所へと足を進める。
目を閉じ、柵を超えた先にあったものは……。





