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渦中の阿呆

「左目のないお前に、この俺が止められるか?」

「無いわけじゃないさ。ただ、制限があるというだけで」


 左目の眼帯を外す。無論、そこに眼球は存在しない。なぜなら、今頃は俺の部屋で何やら調べものをしているはずだから。

 しかし、無いはずの左目で物は見えている。いいや、正確に言えば見えすぎている(・・・・・・・)

 おそらくはメダルに封印したはずの《黙示録アポカリプス》が想像を遥かに上回る勢いで強化されてしまったため、その存在がなくともある程度の機能は扱えるのではないかと由美さんが言っていた。

 俺が付けていた眼帯も、主な理由は左目が無いことを気持ち悪がられないためであるが、その程度であれば何も幻獣の皮を使用する必要はない。本当の理由はこの強すぎる能力を抑え込むためにつけていたのだ。


 眼帯を外した事により、抑えていた力が発揮され、虹色の炎が灯る。さらには、幽王の考えていること、加えて街の人達の感情が流れ込んでくる。

 指向性を保てない俺は、それらの情報に頭を痛めながらも幽王を見つめた。

 そんな俺を見た幽王が納得したように語る。


「なるほど。カインの左目が復活した理由はそういうことか」

「なに?」

「気がついていないのか? いや、気がつけというほうが難しい話か。本来、カインの左目は義眼だ。装着することによって真価を発揮する。だが、その本質は装着者の脳を経由する事象記憶型情報検索ツールなのはわかるな?」


 いや、知らないけど。

 というか、そんなことをどうして幽王が知ってるのかが疑問なくらいだ。

 けれど、それに一々返していたら埒が明かない。ここは黙っていよう。


「……それも知らなかったのか。まあいい。簡単に言えば、カインの左目はアプリケーションなのさ」


 アプリケーション、って。あれだろ? スマホのゲームとかそういうやつだよな?

 いまいちよくわからない説明ではあるものの、そう言われるとしっくりくる。今までのことが全て能力ではなく、検索ツールの機能だとすれば話が通じる点も多い。

 だが、それと左目の復活とに何の因果関係があるというのだ。

 未だにピンと来ていない俺を見て、呆れながらも幽王が続ける。


「アプリケーションは使用領域、記憶領域、マシン自体の性能で良くも悪くも変化する。そして、アプリケーションの最大の利点。それはバックアップを取れることだ」

「バックアップ……まさか、《黙示録》が俺の中にバックアップを作っていたっていうのか?」

「こういう経験はしたことがないか? 能力を使用しようとした時、容量不足だと言われたことは?」


 そういえば、颯人との戦いの際にそんなことを言っていたような気がする。

 もしも、あれが俺が馬鹿ということではなくて、《黙示録》のバックアップが容量を減らしていたのだとしたら……?

 なるほど、俺は《黙示録》にバカ扱いされたことをひっぱたかなくちゃいけなくなったわけだ。

 あのときの罵倒を鮮明に思い出せる俺は、この戦いが終わったらまず《黙示録》を叩くことを誓った。そして、べらべらと上機嫌に何でもかんでも教えてくれる幽王に再び切っ先を向ける。


「色々教えてくれてありがとよ。それを教えたことを後悔させてやるぜ」

「別に構わないさ。脳内にバックアップがあるというのに、その能力を十全に扱えないお前程度に負ける要素は一つもないからな」


 だから、封印してるんだから十全も何もあるはずがないと何度も言っているつもりなんだけどな。

 話を聞いていなさそうな幽王に、ともかく俺は斬りかかる。この一撃もさきほど同様、幽王の側付きの幼女が止めようと前に出た。けれど、今度の一撃は先程のものとは違う。言われたとおり、聖剣以上のものを持ってきてやったのだ。


「……!?」


 幼女の手から血が滴る。

 とっさに掴むことを諦めた幼女は、流すように刃の力の方向を反らしつつ、幽王に首根っこを掴まれて後方に引かれる。

 “天國守夜鴉”の切っ先は幽王からわずかに避けて地面の直前まで振り下ろされた。その一撃は触れずとも地面を傷つけ、見ると向こう三メートルほどまで地面に亀裂が入っていた。


「この…………このぉ!!」

「落ち着け、ひかり。本来のお前ならあの刀に負けはしない」


 どうやら、“暁光の焉燚”のことを光と読んでいるらしい。虹髪の幼女は先程は防げたはずの刀で傷つけられたことにひどくお怒りの様子で、首根っこを掴まれながらも手足をバタバタさせながら藻掻いていた。

 やがて、目が赤くなっていき、一度見たことのある目からのレーザーが放射された。


「くっ……」


 それを見抜けたからこそ、俺は愛刀の刀身で防ぐ。レーザーは一瞬で万物を切るような能力のはずだ。だのに、俺の愛刀は切れなかった。

 なぜか。

 俺の愛刀がレーザーの持つ光を喰らっているからだ。

 眼帯を外した左目によってようやく判明した光の能力は、高エネルギーの光が与える熱により、物を分断するというもの。であれば、光を喰らい、夜闇を照らす俺の愛刀ならばあのレーザーに対抗し得る。

 俺の予想通り、愛刀がレーザーを防ぎ切っていた。

 やがて、自慢のレーザーですら俺を切れないとわかると、光は暴走を起こす。悲鳴のような雄叫びとともに、空間が破れてそこから一本の紅蓮のバスターソードが現れる。

 また新しい能力を目の当たりにして、俺は愛刀を構えた。が、地面に突き刺さったそのバスターソードは微動だにしない。その理由は光を抱きかかえる幽王にあった。


「やめろ。俺を見るんだ、光」

「うぐぐぐ…………むぅ」

「落ち着け。それとも、光は俺の言うことが聞けないのか?」

「…………ん、マスター」


 何やら落ち着かせたようで、バスターソードが消えた。

 地面に光を降ろすと、幽王の背に周り涙目でこちらを睨みつけてくる。

 どういう風の吹き回しだろう。あのまま続けていれば、おそらくは勝利していただろうに。幽王はこの戦いに勝利したいのか、あるいは何か他に目的が在るのか。初めて会った時から今日に至るまで、幽王は何がしたいのか一貫してわからない。

 

「何のつもりだ?」

「答える義理はないはずだが?」

「あのままやっていれば、お前の勝ちだっただろ、幽王!! お前は一体、何がしたいんだ!?」

「決まってる。世界を終わらせる。ただ、それだけだ」

「なら――」


 右腕を振るう。その一つのモーションだけで、土煙が大きく立ち上がった。

 俺の言葉を遮った行動の後に、幽王は告げる。


「自惚れるな。世界を終わらせるという中に、お前を殺すことは組み込まれていない」

「なん……だと……?」

「お前が邪魔をするから排除するというだけ。世界が終われば結果的にお前が死ぬというだけの話だ。俺たちは別に、お前を殺すためにいるわけじゃない」


 幽王にとって、俺の存在はその程度だったのだ。

 思い出してみよう。カオスのときは俺が渦中に飛び込んだだけ。アジ・ダ・ハークのときは奴らの暴走に巻き込まれただけ。白伊の魔女裁判のときは白伊を取り戻しに来た美咲さんに俺が勝手に挑んだだけ。あのときも、あのときもあのときも。

 全部全部、俺が勝手に渦中に入っていっただけだった。


「じゃあ、俺は……」

「お前が邪魔をしなければ、神埼麻里奈はあそこで死ななかった」

「嘘だ……」

「お前という邪魔な存在の心を折るために、神埼麻里奈はあそこで死ななくちゃいけなくなった」

「嘘だ!!」

「全て、お前のせいなんだよ、御門恭介。お前が、あらゆる人間を傷つけた」


 俺が、悪かったのか……?

 事件の最中に、俺のような化け物が入っていったから、麻里奈は死ななくちゃいけなくなったのか?

 だったら、俺は……。

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