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可憐激烈な緋炎の美女

 なんやかんやと攻防は続き、結局どれだけ寝られたのかわからない。しかし、辛うじて眠気が起きない程度には回復し、されどフラフラする体を必死に動かしながらリビングへ向かう。


「その様子じゃと、昨晩はお楽しみだったようじゃな」

「あぁ、朝まで小野寺誠が寝かせてくれなかったからな!」

「…………よもや、妾の右腕にまで手をだそうとは……見下げたものだ」


 やはり頭がまだ本調子に戻っていないのだろう。日巫女の質問の答えの意味を考えてから、少ししないと気がつけなかった。そして、それを否定しようにもときすでに遅しというやつで、日巫女にはいわゆるドン引きされた後だった。

 けれども、それを首の皮一枚でつなぎとめることはできた。無論、俺の手によるものではなく、リビングのハンモックで眠っていた小野寺誠によってだが。


「勘違いをするな、魔女。昨晩俺がそいつに戦い方を教えていただけだ。飲み込みが悪すぎて朝まで掛けても毛ほどの進歩もなかったがな」


 悪かったな。俺はどこぞの戦いに特化した戦闘民族じゃないんだ。平和に慣れすぎた日本人が今更一朝一夕でまともに戦えるようになんてなるものか。

 などと、文句をいう元気すら今はない。眠気はないが疲れは確実に残っているのだ。俺の後ろに控えている美少女たちはどこか申し訳無さそうに俺を見ようとはしないが、元を辿れば俺が強く慣れないのが原因なのでこちらとしても強く怒れない。

 と、若干眠そうな小野寺誠の言葉を受けて、日巫女が声を上げて笑う。


「昔の貴様と変わらんじゃないか。まあ、それがわかっているからこそ黒崎弟ではなく、貴様が《常勝の化け物(エウヘメリア)》を鍛えると言ったのじゃろうがな」

「ふんっ」


 俺が昔の小野寺誠に似ている? なにかの冗談だろう。だって、昨晩の小野寺誠は強かった。いや、まるで本気を出していなかったではないか。

 小野寺誠に視線が向く。それに気がついて、気だるそうに口を開いた。


「平々凡々。特出すべきことはなく、運命のバグで力を手に入れてしまっただけの、ただの一般人」

「急にディスるじゃん。なに、俺なにか悪いことした?」

「違う。これは俺の過去だ。そして、お前の現状だ」


 びっくりした。劣等生な俺を見て腹が立ったのかと思っちゃったよ。

 しかし、妙な話だ。俺が俺を紹介するときに、よくそういう言っていた。事実そうだった。麻里奈という才能の塊にまとわりつく異物。周りからの評価など、当然その程度だろう。そんな俺と同じ自己紹介をよりにもよって小野寺誠がするとは。


 そもそも、俺に戦い方を教えるのが本来は黒崎颯人でしたみたいなことも耳にしたな。どうして、本人のいないところで本人を巻き込む話し合いをしてるの? 泣くよ? 終いには逃げ出すからね?

 むろん、逃げたところで逃してくれるようなやつらではないことくらいわかっているから、おとなしく従うのだろうと思う。そうしているうちに、詳細が伝えられる。


「俺とお前は境遇が似ている。もちろん、これは周知の事実だがお前は英雄として人工的に造られ、最適化された個体だから、こうなることは決められていた。だが、神々の義眼を、そして果ては世界矛盾を発現させるなんて考えてもいなかった」

「んなこと知ったことじゃねぇよ……」

「だろうとも。誰も予想できなかったことだ。これを運命のバグと呼ばずしてなんと言おう。結果的に力を手に入れてしまったお前。そして、魔女たちの戦争に巻き込まれて運悪く生き残り、魔女に永遠に生きながらえる体を与えられ、今日日《選ばれし者》に数えられるまでの力を手に入れてしまった俺」


 一息。


「あまりにも似すぎていて、吐き気がする」

「その吐き気はきっと二日酔いだから安心しろ。というか、俺とアンタが似てるわけ無いだろ、気持ち悪い。こっちこそ吐き気がするわ」


 互いが互いをあまり好ましく思っていない。

 ファーストコンタクトが悪かったのか。あるいは、昨晩の特訓が悪かったのか。他にも原因はありそうだけれど、とりあえずこいつと同調したくないことだけは確かだ。

 こんな俺達を見て、日巫女が微笑む。そうして、あろうことか的はずれなことまで言い出した。


「うむうむ。なかなかに息が合っているじゃないか。これは安心じゃの」


 もしや目がイカれているのではあるまいな。それを言葉にすれば、ただでさえ関係が悪い小野寺誠がキレて殺しに来るかも知れないから言わないが。

 むしろ、俺が言うよりも、日巫女と神崎紅覇以外の全員が目で違うそうじゃないと語っていたため、意見は大多数の勝ちのよう。

 妙なことで起こされた小野寺誠があくびをかみくだく。さらに目にある涙を拭うや、もう一度ハンモックに寝転がった。


「くだらない。俺はもう一眠りする。起こすなよ、魔女」

「なんじゃなんじゃ。若いのがジジくさい。何だったら妾の水着姿でも見せてやろうか」

「持ってきてないだろ」

「と思うじゃろ? そこは用意周到は妾に抜かりはない。大人バージョン、ロリっ子バージョンと取り揃えておる。ほれほれ、“すくうるみずぎ”とやらはどうも男に人気らしいじゃないか。じゃのに、なぜ大人の女子おなごのサイズが見当たらないのじゃろうか」


 などと、中学生いいや小学生サイズのスクール水着をかざして小首をかしげる日巫女に一同驚く中、一番驚愕していたのはなんと小野寺誠だった。どれくらいかといえば、驚きすぎてハンモックから転げ落ちるほど。

 腰を打ったにもかかわらず、急いで日巫女の元へ駆け、かざされたスクール水着を引ったくる。


「それは一部の変態が熱狂してるだけだ! それと、お前はむやみに肌を晒すな!」

「ふぅ~む? もしや妾に水浴びをさせぬ気か!? なんと横暴、閻魔の大王でさえもそこまでの嫌がらせはせなかったぞ!?」

「違う! そこの幼女食いの餌食にならないようにしてるだけだ!!」


 もしかして、幼女食いって俺のこと? ねえ、俺のことなの? 失敬な!

 俺はちゃんと麻里奈みたいな美女も好きだよ! 侮るんじゃねぇ!!


 はらわたが煮えくり返りそうになるが、同じくらい二人を大事に思っている自分がいるわけなので、反論らしい反論ができないのが痛いところだ。

 しかしながら、そんな俺と小野寺誠の常識の斜め上を行くが如く、日巫女が紅の炎に包まれる。そして……。


「ならば安心せい。妾の肉体実年齢は幼女と呼ばれるようなものではないのでな」


 いつか見た可憐で激烈な美女は、豊満な胸をちらつかせるドレスを着こなして、有り余る自信を語るように胸を叩く。

 しかして、小野寺誠は頭を抱えて唸るように言葉を絞る出す。


「違う……違う、そうじゃない」


 少しだけ、小野寺誠の苦労がわかる気がした。けれど、俺と小野寺誠が似ているなどというのは、今に至っても信じたくはなかったが。

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