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終末を越える者

 《終わりの出発点》。それは神埼美咲と黒崎颯人が人類と世界の平穏を見つけるために世界を繰り返すための世界矛盾。それの理論解消は現状無理だ。なぜなら、颯人はその答えを未だに見つけられてはいないのだから。

 では今、目の前で起こっていることはどう説明される?

 幼い神埼美咲に、優しい微笑みを見せる颯人。これが前兆じゃなくしてなんという。颯人は答えを見つけたのだ。俺には想像もできない答えが颯人の頭には入っている。

 もしも、人類と世界の平穏が叶う答えがあるのなら。それの矛盾を解消できたとしたなら。どれほどのものになってしまうのか。いいや、そもそもそれは……。


「世界の変革……」

「よく分かったな……いや、カインの忘れ形見があればこそか。俺の旅を始めた世界矛盾《終わりの出発点》の理論解消は、この世界の変革だ。いくつもの世界を回り、数え切れない人との出会いを通じ、それらの世界をすべて織り交ぜることで完全な世界へと作り直す。そのための“万象は其をして(アカシック)遍くを記される(レコード)”そのための“右翼の天使”だ」


 であれば、これまでの颯人の旅は経験を覚えさせるものだったのか。いくつもの終末を見届けたのは、すべての終末を越えるためではなく、すべての終末を越えた経験を記録させるため。世界中に連絡網を繋いだのは、いつどこでどういう終末や人材が生まれても対応できるようにするため。

 颯人は初めから答えを知っていた。颯人も神埼美咲も世界も人類も、ありとあらゆるものを救う方法。それは、そうなる前提の世界を作ることだった。


「もういいって……そういうことかよ」

「ああ。もう十分だ」

「まだお前の知らない終末があるかもしれない。お前が越えられない終末だってあっただろ。なのに、もういいって…………それは諦めなんじゃないのか!!」


 諦めてしまったようにしか思えない颯人の発言に俺はつい声を荒げた。

 颯人が抱き寄せる幼い神埼美咲は《終わりの出発点》が具現化したものだ。なら、あのままにすればとんでもないことが起こる。世界が変えられてしまう。不完全な平穏の世界へと、歪んだ理想の成れの果てへと!!


 そんなことさせてたまるか。俺はそんなのは認めない。間違った世界の在り方なんて、俺は絶対に認めないぞ。


「やらせるか。やらせてやるもんか。テメェのつまらねぇ諦めで、この世界を未完成のまま平和になんてさせてやるわけないだろ」

「それはお前の正義だ。これが俺の正義だ。対立する正義は互いに悪だ。なら――――」


 右翼の純白翼が一回り大きくなる。

 輝ける右腕を突き出し、颯人は大きく言葉を発する。


「決着をつけよう。あの日に着けられなかった俺たちの戦いを終わらせよう。どちらかが死ぬまでの戦いを、俺とお前の戦いを終わらせる」

「…………分かった。けど、容赦はしない。たとえ、いつかの俺の憧れのお前であっても」


 俺は槍を握り直す。俺が持ちうる中で唯一不老不死を殺すことができる武装だ。これで颯人の心臓を穿けば、間違いなく颯人は死ぬ。そして、俺は颯人の心臓へこれを突き立てると宣言した。

 俺の決意を感じ取り、颯人はうなずく。そうして、抱き寄せた幼い神埼美咲に口づけを。するとどうだろう。幼い神埼美咲の体が解けていき、黄銅色の腕鎧が颯人の左腕を覆い、左手には同じく黄銅色で柄にエメラルドのような宝石が収まった両刃の劔が収められていた。

 それを振るうと強烈な剣戟が地面を大きく抉る。たったそれだけであの劔が普通ではない事がわかる。

 これこそが颯人の奥の手だとわかると、俺は苦笑した。


「まだそんなものを隠し持ってやがったのか」

「安心しろ。これで正真正銘打ち止めだ。あと三つの世界矛盾を止めればお前の勝ちだよ」

「それが簡単にできれば苦労しないんだよなぁ」


 間違いなく強敵。問題なく絶望的。しかしながら、俺には勝ち以外の勝敗は存在せず。ならば、やれるところまでやってみよう。まずは、世界矛盾を一つ潰すところから。

 地面を駆ける。が、目の前から颯人が消える。一秒の定義を引き伸ばしたのだ。同じく一秒を伸ばす。

 背後へと回り込んでいた颯人の一撃を回避して、槍を突き出す。付け焼き刃な槍術ではもちろん当たることはなく、簡単に回避されてしまう。

 さらには颯人の素早い剣戟が俺の体を捉えた。回避は不可能。であればと、俺は靴で地面を軽く蹴る。それにより俺と颯人の僅かな隙間に風の壁が出来上がり、濃密な風の壁によって颯人の剣戟が僅かに遅くなり、冷や汗をかきながら剣戟を避けて見せた。

 だが、颯人も簡単に俺を逃がすわけもなく、控えていた右腕が風の壁を捻り潰すように突き出された。


「凶悪だな、おい……」

「言ったはずだ、踏み越えろと。その程度じゃ肩透かしにも程があるぞ」

「言ってくれるぜ全く」


〈マスター。異常事態発生です〉


 事務連絡のような《黙示録》のアナウンスに目を向ける暇もなく声だけで返事をする。


「何事だ!」


〈敵戦力の武装が予想を遥かに越えるものです〉


「つまり!?」


〈勝率が著しく低下しています。勝率わずか0.0000000000000000001%〉


「恐ろしく低いな!? でもまあ、安心したよ」


〈?〉


 颯人の猛攻をわずかのところで捌きながら俺は笑う。

 安心した。安堵した。重畳な結論に俺はほくそ笑む。


「勝率がゼロじゃないなら、俺は勝てる」


 自惚れではない。希望的観測ではない。

 これまでの俺の無茶をいくらか繰り返せば到達しうる領域にまだある事態で希望がないわけがない。俺は勝てる。あの日、日巫女によって試合を止められたことによって勝利を手にした俺にはなかった勝率が僅かにでも生まれたのだ。

 選択肢を間違えることはできない。そのうえで運を味方につけなければならない。それでも勝てる。俺ならば、確実に勝てる気がする。


「未来視を再開! 加えて現武装の使用詳細を脳内に焼き付けろ!! さらに一時的に《完全統率世界》の倍率権限をお前に任せる!! 俺に合わせろ、《黙示録アポカリプス》!!」


〈で、ですが、マスターの思考領域でそのタスク量は――ハッ〉


 《黙示録》の驚きの声に、さらに颯人の猛攻までもが止まる。

 左目に着けられた包帯の下から虹の炎が大きく燃え上がる。同時に、《黙示録》の髪色が炎の色と同じく虹に変わる。これが何を示すのか。俺にわからずとも、颯人には察しがついたようだ。


「まさか……まだ進化するのか」


〈マ、マスターの思考領域の増大を確認……常時の十倍、いえ……三十倍にまで……以前肥大中〉


 どうやら、なんだかわからない間に俺の思考領域が広がっているらしい……え、脳みそがでかくなってるの? 頭でっかちはやだなぁ。

 そうこうしているうちに俺の脳には新たに装備した武装の使用詳細が焼き込まれていく。はたまた、槍の使い方まで頭に焼き込まれたことで俺は知識として槍術をマスターしてしまう。

 それっぽく槍を構えると、颯人は何がおかしいのか笑っていた。


「それがお前のポテンシャルか。いや、才能と言うにはいささか醜悪だな――――そうか。お前はカインの人工英雄。なら、カインの忘れ形見との相性も……なるほどな」

「一人で納得してるとこ悪いけど。できれば、俺にも教えてくんね?」

「お前は持つべくしてその左目を持ったというだけだ」


 だから、その持つべくして持った理由を知りたいんだよ!!


 まだ不完全な知識の焼き込みの最中に颯人は地面を蹴る。真っ先に俺へと走り出し、左手に持つ劔を縦一閃する。それを槍で受けて踏ん張りを見せた。

 重い一撃に捻り潰されそうになるのを必死に抗っている俺に颯人は、あわや第三ラウンドの鐘を知らせる。


「互いに見せ合えるものは見せ合った。ならもう、やるしかねぇわな。そうだろう、御門恭介!!」

「だーもう、黙れよ戦闘狂!!」


 悪に墜ちた戦闘狂へと変わり果てた颯人だが、その楽しそうな笑い顔だけは純粋な子供のようなそれであった。

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