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知らなくちゃいけないこととそうではないこと

 白伊を連れて学校を後にすると、その道中で白伊が無理やり腕を振りほどいた。

 そして、ホコリを落とすように裾を叩きながら、俺に質問するのだ。


「ここまでくれば急ぐ必要もないだろう。幸い誰も周りにはいないからね」

「あ、あぁ」

「さて、君が聞きたいことを伺おう。と言っても、僕はすべてを知っているわけではないがね」


 まるで、全て予想できていたとでも言いたそうに……いや、白伊のことだからすべて理解していたのだろう。あるいは、一つのパターンとして頭の隅に置いていたか。

 どうであれ、俺の意図を汲み取った白伊は眼鏡のズレを直し、俺に何なりと聴くがいいと豪語した。


 俺の聞きたいことなど決まっている。

 ずっと謎だった。そのことについて俺は白伊に聴く。


「お前、どうやって二日で生徒会長になったんだ?」

「……………………すまない。それは予想できなかった」


 まるで質問内容を予想していたと聞こえるが――まあ、白伊ならやりかねないが――そうだとして、白伊はどんな質問が来ると考えていたのか気になるところではあるが、それよりも生徒会長のなり方のほうが気になるのだ。


 だって二日だぞ? 二日で全生徒に認知されて、なおかつ票を集めるなんてことできるのか?


 それほどコミュニケーション能力があるとも思えない白伊の常日頃を知っているため、それが不思議だったのだ。

 しかし、予想していなかった質問だったからか、白伊の口はすんなりとは動かなかった。


「………………え、まさか、聞きたいことはそれだけなのかい?」

「もちろん。他に気になることなんて思いつかないぞ」

「ゆ、幽王については? 他のメンバーとか、最終目的とか、色々あるだろう?」

「……? そんなの知ってどうするんだ?」

「なん……だと……」


 無表情を貫いていた白伊に表情が現れる。明らかな驚きだった。

 何をそんなに驚いているのかは知らないが、俺なりに考えればそれはすぐに気がつけるものであった。


 おそらく、白伊は元幽王の味方であったことから、幽王たちに対する情報を求められると思っていたのだろう。そして、それについて教えられることとそうでないことを仕分けしていた。だのに、俺がどうやって生徒会長になったのかを聞いたものだから、計画が台無しになったと。


 悪いことをしたという気持ちにはなった。が、俺にとって幽王なんてものはどうでもいいのだ。

 至極どうでもいい。

 だって俺は、まだただの高校生であり続けようと思っているのだから。


「だ、だって、幽王は君を目の敵にしているんだよ? いつ襲いに来るかわからない相手のことを少しは知ろうとは思わないのかい!?」

「珍しいな、お前がそんなに感情を表に出すのは。もしかしたら初めてか?」

「ごまかすな! 御門恭介……君は、自分の立場をちゃんと理解しているのかい!?」


 俺の立場……ねぇ。

 俺は顎に手を当て、少し考えてみる。


「高校三年を留年した問題児、だな」

「………………呑気を通り越して、阿呆のレベルだよ……君、これから世界の終わりを止めようっていう立場でよくもまあ……」

「そういうのは颯人の仕事だろ? 俺は身に降りかかる火の粉を振り払えればそれでいいんだよ」


 俺は手を降って、そういうのはいらないと伝える。

 白伊はなおも驚いたままで、それでも冷静さを取り戻そうとしてメガネのズレを再び直す。

 そうして、白伊は話を続けるのだ。


「そうは言っても、敵は確実に存在する」

「そんなのどこの世界でも同じだろ。いじめられるやつにはいじめっ子が敵だ」

「そういうレベルの話じゃない。幽王は君を……ひいては世界を殺す者だ。つまりは世界の敵でもある」

「なおさら俺の仕事じゃないだろ……」


 いつから俺は世界の敵を倒す役割を担ったんだよ。やだよそんなの。

 俺はうげーっと嫌そうな顔をしてみせるが、そんなのことお構いなしに白熱した白伊は話を続ける。


「襲われるとわかっていながら、相手のことを調べないのは愚行だ! 呑気に過ごせるような時間はもう過ぎたんだよ。君がどう考えようと、君はもう――」

「わかってるよ。俺は幽王に狙われてるし、それを神崎家や緋炎の魔女や、もしかしたら蒼穹の魔女も俺がどうにかするって期待してるんだろ? 神様やらに“常勝の化け物(エウへメリア)”として世界を救ってくれるって」


 一息。


「お断りだっつーの。世界の危機? 世界の終末? 知らねーよ。百歩譲って、そいつらが俺の仲間に手を出すんだったら、容赦はしない。でもな、世界とか、終末とか、そんな大きなものまで背負うつもりは最初からない。わかったら、各所に連絡しておけ。俺は絶対、世界なんて救わないってな」


 言いたいことを言い終えると、俺は振り返って白伊に背を向ける。

 そうして歩き始めて数歩。背後で白伊の声が刺さる。


「なら、あの子が……蒼穹の魔女や僕が危険な目にあっても、君はなんにもしないんだね」

「…………は? 助けに行くに決まってるだろ?」

「……なぜ?」


 驚きっぱなしの白伊を不思議に見えて、俺は首を傾げてしまう。

 なぜもなにも……。


「お前は俺の仲間だろ? 違うのか?」

「は……え……?」

「言っただろ。仲間にちょっかいを出すなら俺は容赦しないよ。たとえ、それが世界だろうと、幽王だろうとな」


 まあ、蒼穹の魔女の受験勉強は頭がよろしくない俺にはどうにもできないから、せめて応援くらいはするさ。にしても白伊も変なことを言うもんだな。


 話はそれだけかと聞くと、白伊は黙って首を縦に振った。だから俺は今度こそ帰路を歩み始める。


 そういえば、結局白伊からどうやって生徒会長になったのかを聴くのを忘れてしまった。

 まあいいか明日聞けば、と。俺は今更なことを思いながら前を向く。


 久しぶりの帰り道は、なんだか新鮮で、こと後に控えた悪夢のような光景なんて微塵も思わせなかった。

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