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生徒会長のお願い

 副会長を部屋から追い出して、俺にやってもらいたいこととは一体なんだろう。少し考えれば、ろくでもないことだというのはすぐに思いつく。しかし、白伊が俺にそんなものを依頼するだろうか。

 もちろん、頼まれれば依頼内容によっては受けるだろうけれど、つい先日まで敵だった相手に何かを依頼するような豪胆さを白伊が持ち合わせているのかはわからない。

 どのような依頼がされてもいいように心構えだけは一丁前にしておく。が、その依頼は予想の遥か上を行くものだった。


 少しの間を空けて、白伊は緊張感が高まった空気を切り裂くように言葉を吐き出す。


「実は……君に男子の生徒会副会長をやってもらいたんだ」

「……………………………………………………………………………………………………………………………………ごめん、ちょっと何言ってるかわからない」


「だから、君に副会長をやってもらいたいんだよ」


 いや……うん。それはわかるよ?

 わからないのは、たったその程度の依頼をするために人払いをする必要があったのかとか、重い空気にする必要があったのかとか。そういうことなんだよ。


 終始無表情の白伊の心情は読めない。だとしても、ここまで斜め上なことを言われるとは思いもしなくて、俺はついつい変なふうに返事をしてしまった。

 けれど、冷静に先程の言葉を考えてみると、俺はすぐに首を横に振った。


「って、なんで俺が副会長なんだよ?」

「この学校では生徒会長は立候補ではなく推薦で決まるのは知っているだろう?」

「まあ、そうだな」


 俺の通う学校は他とは違って、生徒会長になるには全校生徒からの推薦が必要なのだ。つまり、認知されていなければならない。おそらくは、立候補制にすると教師たちの仕事が増えるため、随分と前から立候補制を取りやめたのだろう。

 そして、白伊は生徒たちに認められて生徒会長になった。……ちょっと待て。


「おい。お前が生徒会長ってことはないだろ。だってお前は――」

「鋭いね。確かに、推薦制の決め方では僕は生徒会長にはなれないだろう。よほど、前副会長だった安心院くんの方が認知という点に置いては有利だっただろうね」

「じゃあ、どうやって……」

「簡単な話さ。この学校の理事長は誰か。そして、僕は今、どういう立場に立たされているかを考えればすぐに辻褄が合う」

「…………………あぁ」


 予測がついた俺は、納得の言葉を漏らす。


 おそらくはこういうことだろう。

 白伊は先日までの事件で罰という罰を与えられてはいない。俺自身もその詳細は知らされていないため、知っている人物は少数だと思われる。そして、この学校の理事長は白伊に罰を与えようとした者の部下であり、最強の人間の二つ名を持つ美少女――神埼紅覇だ。

 きっと、神埼紅覇辺りが働きかけて白伊を生徒会長に仕立てたのだろう。もしくは仕立てさせられたか。唯一謎なのは、白伊の現状だな。

 そこらの話はおそらくは今からしてくれるのだろう。そのための人払いだったわけだ。


「その顔から納得してくれたのは助かる。お察しの通り、僕は最強の人間からこの学校の生徒会長になれと生徒会選挙二日前に命令されてね。無理難題だったが、危うくもクリアできたから今、生徒会長になったわけだけれど。問題はここからだ」


 いつにも増して鬼畜な命令を聞いた俺はよく生きていられたなと素直に称賛を贈りたくなる。

 ついで、問題となりうるものに耳を傾ける。


「魔女裁判に掛けられた僕への罰は単純だ。蒼穹の魔女直属の暗殺部隊アジ・ダ・ハークの解散と、君の護衛。加えて、要監視対象として神埼紅覇の指揮下に入ること。以上の三つが僕への罰になる」

「そうか……は? 俺の護衛?」

「そう、君の護衛」


 なんとなく。本当になんとなくだが話が見えてきた。

 白伊は生徒会長になった。それは俺を護衛するために自由な立場を与えるという神埼紅覇なりの善意だったのだろう――もちろん、二日しか期限が無かったところを見ると罰も兼ねていたかもしれないが――。

 そして、この学校で生徒会長が持ちうる最大の権限は、生徒会役員を自由に選別できるところにある。無論、両者の同意が必要という制約はあるとしても、それは俺を護衛するためには必須のことなのだろう。なにせ、俺が副会長になれば、好きに呼び出すこともできるのだから。


 だが、俺には危惧することがある。


 それは、白伊が言葉にしたように、白伊は今、神埼紅覇の管理下にある。それはつまり、緋炎の魔女の管理下にあると言っても過言ではない。そんな白伊の下に付けば、神埼紅覇及び緋炎の魔女の影響が少なからず出てくるだろう。

 例えば、世界の危機に俺が駆り出されるなど、そういった面倒なことだ。

 それだけは回避しなければならない。なぜなら、俺と緋炎の魔女では見据えるものがあまりにも違いすぎてしまったから。


「もちろん、君が緋炎の魔女とソリが合わなくなってきているのは気がついている。君が欲する未来と彼女らが思い描く未来はあまりにも違いすぎるからね。けれど、僕としてはここで君に首を縦に振ってもらわねば困るんだ」

「……人質でも取られてるのか?」

「ああ。蒼穹の魔女が……少しね」


 そういえば、蒼穹の魔女が見当たらない。いや、ここは学校だから見当たらないのは当たり前なのだが、白伊にとって姉のような、母親のような存在だ。容易に離れるとは思えない。むしろ、蒼穹の魔女みたいな性格であれば、この学校に転校してきてまで会いに来るに違いない。


 それがいないとなれば、蒼穹の魔女は今頃……。


 蒼穹の魔女がどのようなことになっているのか想像もできない俺は言葉に困ってしまう。

 俺の後始末がもっとちゃんとしていれば、おそらくは回避できたことでもあるため、思い詰めるには十分だったのだ。

 しかし、それは杞憂だったようだ。


「来年度この学校に入学するために今、緋炎の魔女の監視の下、ハードな勉強をしているらしい。彼女は海外生まれなのと生きている時間が長いだけあって、英語と歴史と国語は得意なんだけれど、数学と理科が壊滅的でね。特別受験の日付まで残り二十四時間を切ったというのに未だに半分も点数が取れないようなんだ」

「俺の心配を返してくんない? 結構思いつめたんだけど、ちょっと謝ってもらってもいい?」

「君が心配するようなことは何一つとして存在しないさ。なにせ、緋炎の魔女は蒼穹の魔女の姉なんだ。そして、緋炎の魔女の家族思いは裏世界でも有名な話だ。全く関係のない日本人でもそうなのだから、姉妹ともなれば……わかるだろう?」


 じゃあ、なんで俺を副会長にしたがるんだよ……、心のなかで呆れの混ざった疑問が浮かぶ。

 果たして、その疑問にはすぐに回答が得られる。


 無表情のままの白伊だが、少しだけ頬が緩んだように見えた。そうして、その表情で白伊は告げる。


「ここを対幽王作戦拠点にする。そのためには君が必須事項になる。だから、君には副会長になってもらわねば困るんだよ」


 それは困るだろう。主に俺がな?

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