悪戯好きには気をつけて
今回は幕間です。
本編更新は11月からになります。
待合室にて、三人の女性が談話していた。
三人の内二人は身なりが酷似しているが性格が似ていない所謂双子というやつで、一人はどの世代からみても美しいという感想が第一に出るであろう美貌を持つ女性だった。
ただし、子供っぽさの残る双子よりも、大人な女性のほうが態度が子供のようだ。
「もー、静ちゃん悩み過ぎだって」
「そ~なのですよ~。先輩さんが静香ちゃんを嫌がるわけないじゃないですか~」
「べ、別に悩んでなんかないわよ? というか、あの子がどう言おうと私の知るところじゃないし?」
などと申しているが大人な女性――望月静香は内心でとてもじゃないが平常心を保てていなかった。それを黒崎双子に見透かされて茶化されている最中だったのだ。
望月静香は不老不死者である。引いては病院内にいる全ての人類よりも長生きしている存在でもある。年齢は言えないが、少なくとも黒崎颯人と長い付き合いだというレベルには長く生きている。ゆえにわかるのだ。
御門恭介は大きく化ける。先の戦いを期に成長しようとするだろう。それこそ、黒崎颯人と同じように。
であれば、望月静香が悩んでいることとはなにか。
彼女は成長しようとする御門恭介に付いていこうとしていたのだ。どこに行こうと、その先々へと。
そして、望月静香はそれをするのが二度目であった。
「お兄ちゃんにフラれたからって、世の男性全てが信じられなくなったわけじゃないでしょ?」
「そ~なのですよ~。むしろお兄ちゃんが特殊というか~」
「ばっ、別にフラレてなんてないから! 私から断ったの! おーけー!?」
「「おーけー」」
こいつは面白い。黒崎双子は生来の悪戯好きから望月静香をおもちゃ認定する。
結論から言おう。望月静香は黒崎颯人にとある事件で救われた。そして、黒崎颯人の強さを目の当たりにして側にいてもいいかと問うたのだ。
しかし、その回答は否だった。黒崎颯人曰く、そのときに望月静香を救わなければ望月静香自身が世界を終わらせる一因になるから助けただけだ、と。
もちろん、黒崎颯人に付いていくことで巻き起こる危険から望月静香を守るためだというのは後に黒崎由美から聞いた。だからそれ以上に何かを言うのはやめた。
そうした過去がある以上、今回も断られるかもしれない。
何よりも、お前ではこれ以上先に進むと怪我をしてしまうと遠回しに戦力外通告されるのが嫌だったのだ。
だからこそ、望月静香は悩んでいた。
「…………口に出さなきゃ伝わらないよ。たぶんね」
「何を――」
「悩むのは多分良いことなんだと思う。後でこうしておけばよかったなんて言いたくないもんね。でもさ。悩むだけ悩んで何も言わないのはちょっと違う気がするなぁ」
「そ~なのですよ~。ま~私たちから言わせれば~ど~ってことない他愛ない悩みごとですけど~」
悩む望月静香の前に立ち、黒崎実は腰に手を当てはつらつとした笑みでそう告げて、黒崎穂はおっとりした笑みで黒いことを言う。
そうした二人を見ていた望月静香はどうにも可笑しくなって笑ってしまう。まるで悩んでいたのが馬鹿らしいと少しだけ緊張が解けていく。そこでようやく、望月静香は自分が緊張していたことを知った。
恐ろしい噂ばかり聞くからどれほど怖い存在かとおっかなびっくりだったが、話をすればするほどにその恐怖は薄れていく。おそらく、敵になればその感想も逆だったかもしれないと思いつつ、望月静香は感謝の言葉を告げようと口を開く。
だが、それよりも早く望月静香の手を引いて黒崎双子はとある病室へと駆ける。
「ちょ、ちょっと……」
「まあまあ。悩んだときは前進するのが吉ってね!」
「え?」
「良くも悪くもぶつかって砕けるだけなのですよ~」
「はい!?」
そこは御門恭介が入院している病室のドアの前だった。
頬を引きつらせつつ、黒崎双子が何をしようとしているのかを悟るや、冷や汗が年甲斐もなく流れ出た。
黒崎双子のニンマリ笑顔は三日月のごとく。悪戯心は豪炎のように燃えたぎる。
そして、運命のドアは開かれ、その先に決意を胸にした少年が少し驚いた顔で立っていた。
この瞬間、望月静香の運命は大きく変わることになるのだが、それは誰にもわからなかった。





