一陣の風
風が強い日だった。
飛行場では、飛行機が一基ようやく辿り着くと、全線が運行停止になるほどの暴風が荒れ狂う。
旅行を楽しみにしていた者。出張をしようとしていた者。自分探しをしようとしていた者。あらゆる空への理由を断ち切った暴風の中、最後にたどり着いた飛行機から人々が出てきた。
「ふひぃ〜。ようやっと着いたか。何百年ぶりかねぇ」
飛行機の音が響くステーションに立ち、少年と思しき人物がハツラツと語る。
その後ろには幼女2人と2人の少女が控えている。
少女二人はこれとなく何も感じていなさそうな雰囲気が見て取れるが、むしろ幼女のほうが疲れ果てていた。ステーションに行き着くまでに相当の苦労があったのだろう。あるいはこれから苦労するはめになるのか。
どうあれ、さっさかと歩いていく少年の後ろ姿を眺めながら幼女が口を開く。
「どういう心臓してんのよ、あの耄碌ジジィ……」
「同意。いっぺん殺したほうが治るかもしれません」
とてもじゃないが酷い言われようである。相当な恨みを感じるがその真意は伺えない。
そして、そんな幼女の言葉を耳にしていた少年がニヤリ笑い、振り返って疲れ果てている幼女に向けて語るのだ。
「ムリムリ。お前さんたちじゃオラぁ倒せねぇよ。たとえ、色彩の名を冠する魔女であろうとその願いだけは叶わねぇ。なんたって、オレとお前さんたちじゃ生きている時間が違うんだからよぉ」
ケラケラと笑いながらポケットから手のひらサイズの瓶を取り出す。その中には七割ほど残った液体が入っており、蓋を開けてそれを口に含む。
ぷはっと一気に飲み干すや少年は生き返るというふうに頬を緩めた。
「やっぱりこいつが無くちゃ始まらねぇよなぁ」
「まぁたとんでもない度数のお酒飲んでるし……いい加減禁酒しなさいよ」
「うるせぇやい」
幼女の心配する言葉…………というより呆れた言葉を一蹴して、再び酒を煽る。程よく酔いが回ってきたところで、ステーションから外へ出て、暴風荒れ狂う晴れた空を見上げた。
ひとつ大きな背伸びをするや、声色高らかに言う。
「帰ってきたぜ、日本」
一陣の風が吹く。
それは嵐の前触れか。はたまた希望の風向きか。
この少年がいつか恭介を苦しめるのはまだまだ先の話だ。





