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「今日、アサミ元気そうじゃん」

 私は佑介の言葉にどきりとした。思わず自分の両頬を手で(おお)う。

「そうかな。というかそんなに私、暗い顔してた?」

「まあ、最初に会った時はゾンビみたいだったぞ。俺はそっちも好きなんだけど」

 佑介と出会った時は、私は塾をサボりまくっていた。マジメだった私が、初めて親に反抗していた。

「でも、肝心のことは何も解決してないんだよね。部活のことも、受験のことも」

 そう言ってしまうと、元気になったことは認めることになるけど、仕方ない。でも本当のことだ。私はマキといることで、問題を先送りにしているだけだ。

「なんかいいことあったんだろ。別の男だな」

「そうじゃないわよ。まあいろいろ」

 もしかして、と佑介はにやついた。

「すげえなそりゃ、ロボットになぐさめられるってのはマジであるんだな」

「美佐子たちみたいなこと言わないで」

「だってよ、すげえSFっぽくねえ?」

 わかってるから、と私は言葉をさえぎった。そう、私はロボットに元気づけられている。人間じゃなくて、家族じゃなくて、趣味ができたとかじゃなくて、ロボットという存在になぐさめられている。それがおかしなことなのだろうか。



 数日たったあと、自室で珍しくマキが話を切り出した。

聡史(さとし)さんより、伝言がございます〉

 父さんの名前だった。私は眉をひそめてベッドに座り、クッションを両手で抱えた。マキの口から流れてきた音声は、確かに父さんが残したっぽい音声だった。だけど音声は父さんのそれではなく、マキ本人の音声だった。

〈アサミ、元気でしょうか。お母さんが心配していました。まあ、父さんも心配しています。別に僕たちは、アサミが部活を辞めたことも、塾に行っていないことも、怒っているわけではありません。ただアサミの体が心配です。なにか困っていることがあったら、マキを通じてでもいいので、教えてください。力になりたいと思っています〉

 私は頭を抱えた。テレビでよく見る両親からのビデオレターのようだった。ただ喋っていたのはマキなので、父さんの声や気持ちはよくわからない。

 私はベッドに横になった。

「直接言えばいいのにね。あんたはどう思う?」

〈私には、メッセージが長く、理解しかねます。ただご両親は、アサミさんを心配しているようです〉

 そうか、と私は目を閉じた。何か返事をしなきゃいけない。正直、マキを通じてのやりとりは、なんだかまだるっこしいし、気持ち悪かった。ロボットを使って会話するなんてふつうじゃない。でも、私だって両親と面と向かってまともに会話できるかどうかわからないし、この間みたいにケンカになってしまうかもしれない。私たち家族は、自分の考えていることを相手にきちんと伝えることが、圧倒的に下手くそだった。私は素直にマキを使うことにした。メールでやりとりしていると思えばいい。

「今まで黙っていて、ごめんなさい。私は元気じゃないです。部活はこの間のコンクールの失敗で、私が耐えられなくなって、辞めちゃいました。吹奏楽ができないと、勉強がけっこうツラいです。あとあんまり、いまの志望の大学も行きたくないかも。わがままでごめん。本当は、音楽の道がちょっと捨てきれてません。本当は、受験は少し置いておいて、進路についてじっくり考えたい、というのが本音です」

 やっぱりビデオレターみたいになっちゃったな、と思いながらマキに言葉を伝える。マキは録音機能も持っているみたいだったけど、私自身の声を両親に伝えるのは抵抗があった。つまり、「ごめんなさい」はいかにもごめん、って感じで言わなきゃいけないから、面倒くさいし、うまく言えているか自信がない。マキがしゃべってくれた場合は、単純に謝罪の気持ちだけを伝えられるから、ありがたい。

「……あんたは、どう思う?」

〈わかりません。ただ、アサミさんは謝っているようですが、何か悪いことをしたのですか?〉

「悪いことしたっていうか……まあ、心配はかけさせたと思うよ」

〈なら、謝ることは良いことだと思います〉

 マキに言葉を理解されている、と思うと、急に恥ずかしくなった。理解できないからメッセンジャーとして使ってるのに、これでは手紙の中身を見られているようなものだ。私が聞いてないところで再生してよ、と注意した。

 そのとき、マキの言葉に、私の心臓がちくりと傷んだ。そう、悪いことをしたなら謝ればいい。とても簡単なこと。わたしは過去を清算する方法を知っている。ただ実践できないだけだ。


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