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にぶんのいち~異世界転移は気楽じゃない~  作者: マオミアーミー
【オリンのばあい】
8/12

それは、にちじょうによくあるぼうかん

油の臭いがする。

人の脂や汗も混じっている。

この空間全体に特殊な臭いが充満していた。


「やだー、いやですー!」

「だーかーらっ、早くしてって!」

「いやーだー!」


手を止め、ミリイはそちらを見やった。


黄色い服を着たハリネズミに連れられ、女の子が泣きわめいている。

ボブカットの、少し肌の浅黒い、それでいてオリエンタル?といったか、カザトがそう言ってた気がする、その雰囲気がピッタリだ。

25歳くらいだろうか、艶のある顔をしているが、と。


ミリイはため息を吐いた。


いくら『アウター』でも可哀想だな、そう思う。

いきなりこの『世界』に来て、その戦争に駆り出されるのだから。


ここは兵器庫、格納庫である。

鉄の脚立やら足場がそこいらと組まれ、人型戦闘機がそこいら中に並んでいる。

或いは解体されていたり、或いは修理されていたり、或いは出撃の準備をしていたりする。


人型戦闘機。

丸型を基本とした、人型を模した戦闘機である。

顔と腕以外が大体球状なのは、アキレマの『人形』からの攻撃をその表面にすべらせて回避するためである。

基本的にダークカラーの機体が並んでいるのは、量産機であるのと共に、エースが乗る機体以外の塗料代を浮かせるためである。

まとめて買えば、業者に安くして貰えるからだ。


それが、とてつもなく大きな倉庫に並んでいるのは圧巻だろう。

中学校のグラウンド、それの20倍の広さはあるハズである。

しかも、3つある倉庫のうちの、ここはそのひとつだ。


夢操式戦闘機専用格納庫。


人型戦闘機の操縦タイプが3つあるうちのひとつ、その夢操式専用の兵器庫なのだ。


つまり、あの女の子は夢操式に適したタイプの人間という事だ。

夢操式は、いわゆるレアである。

人間の3%しか適合者は居ないと言われている。

それは、操縦方法が特殊なせいなのだが、なんと、『アウター』に限っては、その適合率が15%にまではね上がるのだ。


しかし、とミリイはその細長い瞳を閉じる。

やや、離れ目をしているため、神秘的な感じを受けるだろう。

ショートにしているため、男の子のように見えるかもしれないが、それはまだ自分が二十歳そこそこだからだろう。


やはり、可哀想だ。


「フジ!フジ・ナナ、いい加減にしろ!」


カザトの叱責を受けながら、彼女、フジ・ナナはずるずると引きずられていく。


「いやですー!もー!」


泣きわめくのも仕方がないな。

ミリイはそう思った。


フジ・ナナ。

同じ女だから感情移入したのか?

そんな事じゃあないだろう。

単純に、妙齢(みょうれい)の子なら、いきなり戦えと言われても無理がある。

ましてや、武道やなんやとは違って、戦闘機に乗っての戦いである。

そんなもの、喜んでやる女の子など普通じゃあない。


水筒にあるジュースを傾け、ノドを鳴らすと、ミリイはまた観察を続ける事にした。

ブドウの香りがふうわりと辺りに漂った。


と、ミリイは気になり、立ち上がると、カザトの方へと歩いていった。


「カザトさん、ちょっと」

「いーやーでーすぅ!」

「ミリイ、どうした?」

「いやだぁ!」

「あのですね」

「いぃやあ!」

「いや、お前ちょっと黙れ」


カザトがフジ・ナナのほっぺたを掴む。

彼女が黙ったのを確認すると、ミリイは続けた。


「今日って、出動ですっけ?予定では休みだったような気がするんですけど。というか、しばらく出動無かったような」

「ああ、それなら返上だ。夢操式の新人が見つかったからな、今日から数日は哨戒と訓練だ。休みはそれから連休でもらうさ」

「なるほど、そういう事だったんですね、解りました。ありがとうございます」

「いや、構わんよ。こちらこそ、整備いつもありがとね」


その言葉に少し衝撃を受け、ミリイはぽかんとした。


「んじゃ、整備頑張ってね。俺はコイツを連れてくから」

「えーん…」


涙目のフジ・ナナのほっぺたを掴みながら、カザトは去っていった。

兵器庫の油の中、爽やかなシトラス系の香りが残った。

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