それは、にちじょうによくあるうれい
「しっかし、今回もワケはなかったですね、隊長」
「そうだな」
灰色の機体の前面をはね上げ、銀色に輝く機体に乗った銀髪の男、ヒューイ・フレディに声をかける。
鏡面仕上げに近いほど磨きこまれたメタリックシルバー、そんな目立つ機体に乗れるというのは、それだけ敵のヘイトを集めながらも、それでいて生き残れるという自信の表れである。
また、目立つ事により、他の隊員を自然とかばう形にもなっているのだ。
その機体に掛かる塗料や人材、技術は自分のものとは遥かに違う金額のハズだが、それを許されている。
それだけの働きを出来ているからだ。
それだけの強さを持ち得ているからだ。
ヒューイは、彼の機体、ラマファーから身を乗り出し、タバコに火を点けた。
機体から出ると、近くの木に背中を預け、どっしりと座り込む。
正直、スタイリッシュだと、ルジュースは思った。
人型戦闘機の稼働効率は137とかだったか、それがまずスゴい。
エースである120に届くのさえ、かなり大変だというのに、更に頭抜けているからだ。
自分の機体、そして、同じ隊員のアビロードもまだエースではない。
稼働効率はどちらも110を超えたくらいである。
中途半端だ。
機体に名前を付ける事も許されない。
自分が使いたい、自分に合った特殊な装備をねだる事も出来ない。
まず、その装備さえ浮かばない。
中途半端だ。
「飯食っちゃいますよ」
言いながら、アビロードが缶詰めを開ける。
ルジュースも、それにならい、機体を降りると缶詰めを開けた。
今日の缶詰めはミネストローネだ。
冷めて美味くもないそれを、カチカチのバゲットと一緒にぐしぐしとノドに流し込んでいく。
タバコを吸い終え、ヒューイも缶詰めとバゲットを取り出し始めた。
空は暗い。
夜空には星が輝く。
自分達の周りが微妙に明るいのは、光晶ランタンのお陰である。
火を焚くような危険性もなければ、蒸気機関のように大量の燃料も要らない。
こうしょう。
光晶。
光をエネルギーとして貯めておける鉱石。
我がフィリオウルと、そしてアキレマがたもとを分かち、戦争になるに至った最大の理由。
『アウター』に聞いた話によると、それにより我々の『世界』は何段階もはね上がった進歩を遂げているらしかった。
『アウター』は昔から居る。
今の『アウター』でそれを知る有名な者はあの男くらいだろう。
オールバックに撫で付けた銀髪を美しく飾る隊長とは異なる、フィリオウルでも重大な位置に居るあの黄色い男だ。
他は、既にロートルになっているか、或いは戦争で沈んでいっている。
若さだけを保持し続けられる『アウター』に、ロートルという言葉が適しているのかは解らなかったが、それでも精神的に疲弊する者は出てくる。
病で気を違えたものや、全てに嫌気が差したもの。
彼らは蓄えた財産で隠居生活に入り、軍部年金を貰いながら薬を貰い続ける。
まるでゾンビのように。
そして、限界が来た時、彼らは自ら命を絶つのだった。
「今日は大丈夫そうだな。オニもノーマル型しか出ないし、多分、そう強力な『人形』も配備されていない」
「そうですね。では、後続の車両に連絡入れときますよ」
ヒューイとアビロードの言葉を聞きながら、ルジュースは光晶ランタンの淡い光を見つめていた