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にぶんのいち~異世界転移は気楽じゃない~  作者: マオミアーミー
【ナギサのばあい】
6/12

それは、にちじょうからきりはなせないかくりつろん

冊子を受けとると、私はペラペラとそれをめくった。

自分と同じよう、机に横並びになった他の四人も似たような事をしている。

トム、そういったか、荒っぽいイメージの彼だけはダルそうに座っている。

バカみたいだ。

こんな状況、こんな『世界』でさえ悪ぶりたいとかね。


「では、みんなそれを…まあ、適当に読んどいてくれ。困った事とか、解らない事があれば、俺が答えるし、この建物に居る誰でもが、多分教えてくれますから」


ぷらぷらと、彼は右手を振るう。

先程から何度か見ている動きだ。

彼のクセなのだろう。

カザト…先生?の。


「えー、じゃあそれでは」


色々聞きたい事があるのは、私以外も全員だっただろう。

すぐに誰もが口を開きそうな雰囲気を出していたが、カザトは強引に話を進めていく。

面倒なのだろう。

その表情からも解る。

彼にはそんなハツラツとしたようなやる気など多分無い。


「今日やってもらってた測定訓練で、君達の今後が決まりまーす。コレからどれだけ生きられるか、どんな生活を送るのか、がね。あ、もう、みんなパッチ外して良いよ。色教えてー」


言われ、私は右手の甲を見た。

そこにはパッチが貼り付けてある。

本日、色々な運動、試験、パソコンの操作などをやったのだが、その最中ずっと貼り付けていたものである。


彼と出会った初日、検査を受けた結果、人型戦闘機?乗りの適性があると判断されたのは数日前。

その後の振り分けとやらに関係がある検査らしかった。

拒否権は無かった。

どのみち、この悪夢のような『世界』で生きていかなければならない、そんな事が出来るとはとても思えなかった。

少なくとも、知り合いさえ居ない個人、芸や技能も無い一般人の自分が、言葉も通じない中で生きていけるなどとはとても。


「人型戦闘機には、三種類の操縦方法があります。それを調べるのが今回のテスト、ってワケですね。じゃあ、みんなパッチ剥がしてみせてー」


言いながら、カザトはホワイトボードを滑らせてくる。

そこには三色の◯が書かれ、縦線でそれぞれが区切られていた。


「まず、パッチが青い人ー」

「はい、私です」

「はい、ぼ、ぼくもです」


ササキとヤハギだったか、二人が手をあげる。


「ササキ・ユージくんとヤハギ・ユキネちゃんね、了解了解」


カザトがメモを取る。


「はい、君達は人型戦闘機、その操縦式にあたります。訓練は明日から少しずつやりますが、大体一年は戦場へ出ませんし、出られません。それまではこちらの言葉を覚えつつゆったりやれます。少なくとも、一年は死なないっすね、当たりです」

「当たり…」

「…よしっ」

「で、次はー」


身体が凍るように感じた。

背筋ではなく、脊髄に氷水を流し込まれたような、圧倒的な恐怖。


『当たりです』


というセリフがあるのなら、他の二つはそれよりも悪いという事になる。

一年だけは生き延びられる、そんな程度が当たりだというのなら、他はどうだというのだ。

どれだけ過酷だというのだ。


私は自分のパッチを見た。

赤い。

イヤな予感がする。

軍事的に考えて、それが良い色であるハズがない。

ぶるぶると手が震える中、カザトはサクサクと続けた。


「はい、次ー、赤い人ー」


呼ばれた!

私はおどおどしながら手を上げる。


「…はい」

「…」


一緒に手を上げたのはトムだった。


「はいはい、ショウカワ・ナギサちゃんとトムくん、ね」


カザトは再びメモりながら。


「君達は、人型戦闘機の一体式を覚えてもらう事になります。詳しくは明日話しますが、機械を操縦するのではなく、体を動かして、それを操縦として反映するタイプっすね。大体、三ヶ月くらいで実戦に入るでしょう」

「三ヶ月!?」


叫んだのはトムだった。

私は身震いするままでいる。

たった三ヶ月?

たったの三ヶ月で『実戦』?

意味が解らない。

戦いなんて無かった日本人の私たちが、たった三ヶ月で兵士になれとでも言うの?


「そう、三ヶ月」

「お前、ふざっけんなよ、俺らは素人だぞ?それがいきなり戦争に入れるわきゃねえだろ!」


彼の言い分そのものだ。

おかしい。

こんな事はどう考えてもおかしいよ。


トムの言葉に、カザトは人差し指を彼の口に持っていった。

そして、続ける。


「フジ・ナナ。お前は黄色いんだな?」

「…」


イヤな予感が更にした。

この流れだと、そうなるだろう。


「君はむそうしきだ、夢操式、文字通り夢のように操作する、っていうね」

「…それで、それは」


どれだけ訓練がいるのだろう。

ナナちゃんの言葉はそう繋げたかったハズだ。

カザトも、予想通りにそれに繋げる。

しかし、それはあまりにも。

あまりにもだった。


「夢操式は特別でね、明日から実戦に入ってもらう事になるね。教官は俺がやるから安心して」


うああああああ。


と、机に突っ伏したナナちゃんの声が響いた。



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