それは、にちじょうによくあるしごと
「この装備、なんでここに運搬するんです?戦争用の火薬装備なんて貴重なもの、というか、危険なものをわざわざあなたの倉庫に」
ソニー・ブイヨンと言ったか、目の前の男を私は観察した。
坊主頭をした、ガタイの良い男である。
彼自身の自信の表れか、腕まくりをされたTシャツからは、二本の丸太のような腕が延びている。
豪腕、そう言うに値するだろう。
トラックのドライバーとしてよく見かける顔馴染みというヤツだった。
「…」
彼は無言、こちらを見たまま腕組みをしている。
運搬は終わったが、搬入はまだしていない。
彼は、こちらの言葉を待っているようだった。
仕方なく、私は口を開く、白ヒゲの生えた唇とアゴをゆっくりと動かし。
「この」
と、右手を振って示す。
兵器庫のひとつ。
ここはその中でも、特別な部類である。
隊長以上の人間の、それも一部にしか認められていない、半私設の兵器庫なのだ。
主に、実験やピーキーな調整、騒音問題などの兼ね合いで、それが認められるかが決まる。
そして、ここはその中のひとつ、実験を主にしている私設兵器庫だった。
「一番奥に装備を搬入してくれ。奥にある私のビルドッドの手前にな。ああ、気を付けてやってくれよ、私の機体に傷が付くのもそうだが、火薬が反応したら困る」
「了解です。万が一にも火薬が爆発するとは思いませんがね」
コンテナが徐々に開き、中身が見える。
黒々と光る、殺意を剥き出しにした造形物。
私は、それに感動さえ覚えていた。
普段は見かける事など決してないものだ。
私のような特別な位の者でも、だ。
「そうです。読み上げ確認をしないとですね」
「ああ、頼む」
「えーと…積み荷は、っと。三連装ロケットポッドが二つ、光晶式エネルギー砲三型が二つ、光晶式拡散エネルギー砲一型が二つ、光晶式エネルギー剣がひとつ、爆炸の盾二型が二つ、追尾式ミサイルバッグが二つ…と、以上で間違いないです?」
「ああ、間違いないよ、ありがとう」
「しかし、コレ」
ブイヨンは搬入作業に付きつつも話を続ける。
「一体、何に使うんです?まさか、アキレマに単独戦争でも仕掛けるワケはないでしょうし」
笑う彼に、私はニヤリとして見せた。
「戦争をするのだよ」
ガタン!
搬入の音にそれはかき消された。
ブイヨンが聞き返す。
「はい?何をするですって?」
「我々は常にアキレマと牽制しあっている。戦争だよ、だからさ」
と、私はビルドッドの方に歩きながら。
「常に装備の調整はしておかなければならない。だろう?」
「そうですね。だからですか、こんな大袈裟な搬入は」
「そうだ。でなければ、認められはしないだろう?上も色々とうるさいからな、ワシもそうは簡単に動けないのだよ」
「…ふーむ。まあ、あなたやそれ以上のお偉いさんのやる事は俺達には解らんものですからね。深く聞いても理解も出来ないですよ」
「餅は餅屋。お互い様だよ、私にだって、お前さん達がするような作業は出来ない。そういうものよ」
では、と、私はブイヨンに手を振り、ビルドッドの方へ向かっていった。
人型戦闘機・操縦式。
翼を開いた鳥のようなその形の顔を見上げ、ヒゲを触る。
緑色を基調にし、白のラインが入った塗装をされている。
当然のように、それはエースが乗る機体であった。
私は近くにあった机に近づくと、椅子に座った。
搬入される武器達を眺めながら、またヒゲに触れる。
姿が見える。
私にはその姿が見える。
戦争用の装備をした機体、それが二機そこに完成した姿が。
掲示板に貼られた予定を眺める。
大丈夫だ。
「その日」には厄介な名のある強者達の出動予定は入っていない。
もし、気づかれたとしても問題ないハズだ。
普通のエース程度であれば、私達の驚異にはならない。
机の上で腕を組み、アゴを乗せる。
後は待つだけだ。
その日を。