それは、にちじょうによくあるかんり
「もう一度確認しますが、車両牽引はヨコユイさん、荷台にはカザトさんとフジさん、という事で大丈夫ですか?」
「ああ、問題ないからそれでお願いします」
「ヨコユイさんの桜舞とカザトさんの滅空、共に基本ノーマル仕様、滅空にだけ盾二型シルブレッドを装備、他は荷台に積んでおきますね」
「うーい、お願いね」
コンテナが、上から大きく左右に開く。
トラックの車両にあたる先頭部分には桜舞が着座していた。
通常車両をつける場合もあるが、基本的に哨戒任務やら初心者研修では、人型戦闘機をタイヤの上に鎮座させ、ガードゲートを両肩に固定し、車両コントロールをしている。
理由はといえば、単純に危険度への対策である。
有事の際、通常車両では戦えない。
だが、それが人型戦闘機であれば、緊急時にパージし、荷台と切り離せる。
つまり、牽引機をセットする事で、緊急時、一機分の戦力を確保できるのだ。
そのため、通常車両は国内の物資の運搬くらいにしか使われていないのが現状だった。
「滅空と試験機の搬入お願いしまーす」
ヘッドセットでそう指示しながら、オリンは周りを確認した。
試験機というのは、初心者用のフラットな調整をされた機体である。
初心者が戦闘の危険さを認識できるように、滑りやすいカラーコーティングはされていない。
それは、地金のまま、切り張りされた装甲がパッチワークのような見た目をしている事から、パッチワークと呼ばれる事が多い。
ついで、荷台に積み込まれるのはカザトの機体である滅空だ。
フラットブラックに塗られたそれは、カザトの『世界』で使われているという漢字というものから二つ、滅と空という文字を肩に彫り込んであり、その部分と手首と首回りだけは黄色く塗装されていた。
コレだけ独特の意匠を許されているというのは、カザトがそれだけの戦果をあげた、それだけの名将であるという証拠だった。
竜型。
カザトのも含め、ほとんどがそうだが。
と、オリンは荷台に乗り込み、武装の予備をチェックし始めた。
人型戦闘機・竜型。
夢操式はほとんどがこのタイプである。
文字通り、竜のような顔をし、その額というかど真ん中に光晶が装備されている。
光晶というのは、誰もが知るように、蒸気機関の次の文化革命の発端である。
太陽光にあてる事で、熱量を貯える事が出来るそれは、『世界』のほぼ全てを変えていった。
『緑の海』事変の少し前に発見されたらしいその新しいエネルギー源は、遺跡や、それと同じ年代辺りの地層でよく見つかった。
人型戦闘機の原動力であるのも間違いない。
実際、全ての人型戦闘機の顔面、肩の上、両腕に光晶は装備されていた。
貯えたエネルギーとしてではなく、日光にあたりさえすれば、その発するエネルギーよりも多くのエネルギーを取り込めるからだ。
そのため、蒸気機関の時代と違い、デッドウエイトにもなりかねないエネルギー材を積む必要もなく、そして、下手したら永久的に動き続けられるのだ。
中の人間は違うんだけどね、オリンはチェックを終え、立ち上がった。
問題は唯一、資源であるその光晶自体が文化の発展に伴い、足りなくなり始めた事だ。
そして、人型戦闘機は、と、トラックの荷台が閉じるのを見ながら。
その表面にも、人型戦闘機と同じように光晶が剥き出しになっている。
唯一ではなかったな、とオリンはため息を吐く。
アキレマとの戦争の理由もコレだ。
遺跡の中、或いは、遺跡周りの採掘作業という競争であり、戦争。
「オリンちゃーん」
「あ、はーい」
呼ばれ、オリンはヨコユイの方へ向かった。
「私のはこのままで良いから、もう初心者訓練出ちゃうけど大丈夫?」
「はい、って、カザトさんは?一応、カザトさんから」
「あそこ」
ヨコユイが指したのは荷台である。
閉まったその中にもう居るという事だろう。
荷台はただの荷台ではなかった。
食事スペースやトイレ、仮眠室もある、キャンプカーを巨大にしたようなものである。
あの男の事だ、喫煙禁止のここに嫌気を差し、中でタバコでも吸ってるに違いない。
いや、絶対に間違いない。
ふと、顔を戻す。
ヨコユイの機体は桜舞。
文字通り、桜色に染められている機体である。
差し色として、各部に緑色が見える。
カザト達の夢操式と異なるため、頭部も形が大きく変わっている。
人型戦闘機・鳥型。
操縦式の人型戦闘機である。
鳥型、というのは顔の形が、翼を広げた鳥のようだからである。
各操縦タイプによって顔が違うのは、単純に整備での間違いを無くすためである。
場合により、その顔はカスタムされていたりするが、カザトとヨコユイの機体もカスタムされている。
そして、操縦式の操縦は非常に難易度が高いのだが、彼女はその中でもトップだった。
文字通り、全ての操縦式人型戦闘機乗りでトップである。
ヨコヤマ・ユイ。
通称ヨコユイ。
緩くウェーブのかかった長い髪をした、色素の薄い女の子。
文句なしの美人だ。
ヨコユイと呼ばれるのは、ユイ・カザトのユイと名前がかぶるからである。
その彼女が叩き出した戦闘効率の数値は。
「カザトなら、大丈夫、いつもの事だから。だから、私承認にする形、って事でここはどうか」
手を合わせられ、ふぅ、とオリンは息を吐く。
「ヨコユイさんもカザトさんに言っておいて下さいよ、なんかあったら…まあ、なんもないでしょうけど、怒られるのは私なんですから」
「解ってる解ってる、ありがとね」
手を振り、ヨコユイは桜舞に乗り込んだ。
「初心者研修だけじゃなく、哨戒も兼ねてるんですから、本当は四人以上の部隊じゃないとダメなんですからね?」
「はいはーい」
オリンを適当にあしらうと、ヨコユイは人型戦闘機に乗り込んだ。
ぶるん、とエンジンの動く音がする。