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にぶんのいち~異世界転移は気楽じゃない~  作者: マオミアーミー
【ユリアのばあい】
10/12

それは、にちじょうによくあるうかつさ

「良いね、こんな感じで良いか」


ユリアは、ポンポンと肩を叩いた。

流石に疲れもするだろう、六時間もパソコンの前でにらめっこをしていたのならば。


目薬を差し、眼球マッサージもする。


一人しか居ない部屋である。

何台もパソコンはあるし、椅子やら机も当然完備されているが、今はユリア一人しか居ない。


「ふうーっ…」


大きなため息を吐く。


目の前に並んでいるのは、画面に表示されているのは、部隊展開図である。


この大陸には、小国を含め、アキレマと我がフィリオウルがある。

昔は同じ国だったらしいが、ある事をきっかけにそれが分断され、国としても独立国家になったのだ。


『緑の海』


それは人知を超えた『存在』だった。


元より、大陸中部には遺跡が多く点在していたのだが、その中のどれか、としか噂されていない。

何者かがスイッチを入れてしまったのかも解らない。

ある日、突然それが現れ、一週間もしないうちに大陸の真ん中を横切りにしたのだ。

首都を含む、街の中心部から。


それは、謎の植物である。

害は無かった。

ただ、それは毒物としての意味である。

大陸の北部と南部にどら焼きのように分断されたままになったのは、その植物の異常な成長性のせいであった。

それは、樹木も含め数種類存在していたが、刈っても翌日には数センチにまで成長してしまうのだ。

成長する大きさには限界があるようだが、その異常すぎる成長速度に追い付ける草刈り機など存在しなかった。


やがて、二つの大国となったアキレマとフィリオウルだったが、それぞれが諦めなかったものは共通していた。

技術の追求である。

大陸中央部に位置した首都に残ったデータや技術、機械。

或いは、遺跡にあるであろう財宝やら未知の存在、技術。


お互いはそれを互いに求め、毎日草踏みも兼ねた哨戒を行っている。

『緑の海』がいくら異常な存在とはいえ、そこに獣道を作る事くらいは出来たのだ。

ただし、『緑の海』はあまりにも広大すぎるため、フィリオウル側では遅々としてその作業が進んでいない状況である。


恐らくは、アキレマ側でも。


と、ユリアは背中を椅子に合わせて背伸びした。


分断された際、技術者の体系が住む位置で別れていたため、我がフィリオウルは機械技術において、圧倒的にアキレマに差をつけている。

アキレマが哨戒、侵略に放っている『人形』のオニの攻撃も、人型戦闘機には基本的には効かない。

だが、亜種である、オニコンボウの持つこん棒であればそうもいかなかった。

そして、アキレマには。


「『九大使徒(くだいしと)』か…」


と、モニタを眺める。


『九大使徒』

アキレマ教における、司教達の事である。

または、精鋭戦闘集団の。


彼らは特別な、非常に特別な存在である。

アキレマのバイオテクノロジーでは難しい、乗り降り可能な機体を操ったりもするらしい。

そのチカラは、強力無比である。

らしい、としたのは、その存在全てをこちらで確認出来ているワケではないからだ。

ただ、確認出来た機体がある、そういう事でしかない。

こちらの将兵クラスの機体の情報をアキレマが恐らく把握出来ていないのと同じなのだ。


ちなみにだが、『九大使徒』は九人ではない。

アキレマ教の概念である『九大(くだい)』、それを体現する者達の総称なのだ。

『九大』とは、死、絶望、復活、希望、飛翔、力とかなんだったか、記憶にあるのはそんなところだ。


「……」


ユリアは無言でモニタを見つめる。

様々な情報がそこにある。

今見ているのは、先のように『緑の海』の哨戒状況とこちらの機体の状況だ。


アキレマとフィリオウル、互いが手探りであるため、獣道は貫通したりしていなかったりする。

どら焼きに上下から指を突っ込んでいるようなものだ。


「うーん、と…うん?」


ユリアは手を止めた。

何かがおかしい。

よく画面を見つめる。

しばらくし、解った。

機体の待機状態がおかしいのだ。

通常、哨戒(しょうかい)は将兵クラスが一人と他数名で向かう。

もし、『九大使徒』に、或いは、強力な『人形』に出会っても対策出来るようにするためだ。

だが、おかしいのがある。


カメラを切り替え、それを確認する。

明らかにオーバーウェイトの機体がある。

貴重なミサイルや光晶式の砲台を積み込んだものが、それも二機もだ。


コレでは、まるで戦争に挑むのも同じである。

何をやっているのだ?

この二機は、しかも操者は。


椅子を滑らせ、ユリアは電話に手をかけた。


ぎぃぃ。


扉が開いた。

訪問者の顔を見て、ユリアは顔をこわばらせた。

彼は、この男は。


「気づいちゃうほど優秀なら、それが不幸だって事もあるよねえ。思った通り…というか、思ったより早く来て正解だったよ。まさに間一髪だった」


彼は、ゆっくりこちらに近づいてくる。

恐怖で悲鳴が出ない。


やがて、その口から声が漏れる事はもう二度となくなっていた。

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