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にぶんのいち~異世界転移は気楽じゃない~  作者: マオミアーミー
【ヒロトのばあい】
1/12

異世界。 扉。 雷。 事故。 召喚。 きっかけなんて無い。気づけばそこはいつもと違う世界。そうなるだけ。そこに紛れ込むのは避けられない。 ただ、それだけ

目を開けた。


ヒロトはパチパチとまぶたを動かし、周りを確認する。


「なんかおかしくね?」

「あん?何がだよ?」


隣に居る男、マサユキがこちらを向いた。


身長は165くらい、体重は…解らないが、俺とあまり変わらないと思う。

プリンになった長めの金髪をした普通の少年。

俺の友達。

年齢が同じ17になったか、なってないか、そんなんは覚えていない。


「この辺さ、こんなんだっけ?」

「おん?…そういやマジでなんかおかしいかもしんねえな」


マサユキはキョロキョロとし、俺も同じようにキョロキョロした。


いつもの街なんだけど、何か変だった。


東京の下町。

タバコ屋裏の公園。

暗くなりかけた、いわゆる夕方。

いつものたまり場だ。


「なに?なんか変じゃね?」

「いや、なにっつわれてもよぉ」


マサユキに適当に答えながら、辺りをゆっくり見る。

何十秒もかけ、確認する。


「…ああ」

「ああ、って、なんか解ったのか、ヒロト?」

「解ったかどうか解んねーけどよ、マサユキ、この道じゃね?道がなんかおかしくね?」


言って、俺は道を指差した。


ボロい家やビルに囲われたようにあるこの公園。

勿論周りに川が無いんだからそこには建物との間に道がある。

その道幅がなんか広い。

大きい?っていうのかこの場合。


「なんかやたら広くね?」

「…うーん、確かにそう言われたらそうかもしんねえな、ヒロトお前、頭よくね?」


ここの道は車がすれ違えるかどうか、それくらいの広さしかなかったハズ。

それが、今見る感じ、トラックがすれ違うのも出来るんじゃないかって思うくらいに広い。


後は特に変わらなく思えた。

いつもの町並み、いつもの公園、いつもの夕方。

だけどそれは明らかにおかしかった。

ここはいつもと違う。

なんのきっかけも無かった。


俺とマサユキが今居るこの町は何かおかしい。


そうだな、異世界、そう言うんだっけ。

そんな感じだ。


「つかさ」

「あん?」


マサユキに振り向く俺。


「んな事よりもタバコ、吸いたくね?」

「あ…そういやそうだわ、学校フケてから吸ってねえもんな、そーいや」


勿論、俺達の年齢ではタバコを吸ってはいけない。

だが、そんな事どうでもいい。

大人が勝手に決めたルールだ。


ダサい格好で偉そうな事ばっか言ってるような大人になんて、そんなヤツらが決めたルールなんて守ってやる気はなかった。


俺もマサユキも、先輩達と付き合ってそう思うようになった。


いわゆる、不良とかヤンキーみたく呼ばれる俺らだけど、真面目に勉強してる同級生みたいにはなりたくないし、あんなダサい見た目のヤツらとなんて一緒に居るのもイヤだ。


「んじゃマサユキ、お前のおごりな、俺はいつものセッタで」

「ああん?なんで俺がお前におごんなきゃなんねーんだよ」

「お前昨日他の学校のヤツからカツアゲして5000円だか儲けたっつってたじゃんか、そんくらいいいだろ?」


俺の言葉に、仕方ないな、という表情をし、マサユキは財布を取り出した。


高校生という身分には不釣り合いのブランド財布。

コレは確か、俺と一緒にカツアゲしたサラリーマンの彼女からパクったもののハズである。


「セブンスターね、はいはい、解りましたよ」

「ごちでーす」


財布を片手に歩くマサユキに俺はついていった。

いつもより広く感じる道。

いつもより広い道。


すぐ近くにあるタバコ屋は、昔から俺達みたいなヤンキーが利用している所だ。

駄菓子も売っているし、この店のばあちゃんは先輩達が同じようにお世話になっていたという。


普段はババアやジジイには態度悪い俺達も、ここのばあちゃんにだけは別だった。


「言っとくけど、一箱だけだからな?」

「わーってるって、ケチ臭いな」


スタスタと歩くマサユキが角を曲がろうとしている。


タバコ屋の入口は曲がってすぐにあり、今俺達が歩いてる横は入口の替わりにタバコの自販機が裏口近くに並んでいる。

タバコ自販機はタスポ?ってカードがあれば買えるんだけど、一度先輩から借りたのを無くしてしまったので使えない。


まあ、タバコ屋のばあちゃんが売ってくれるからここで買えばいいんだけど。


「?」


と、俺はマサユキを見て不思議そうな顔をした、と思う。


角を曲がろうとしたマサユキが突然動きを止めたからだ。


ピタリ、と、まるでリモコンのストップボタンを押されたみたいに。


「?…何止まってんだよお前」


笑いながら、俺はマサユキに近づいた。


マサユキは、道に差し掛かった辺りで止まっていたが、すぐこちらに振り向いた。


「んだよ?」

「ア…アレ、なんだ?ちょっとお前も早く来いってヒロト、なんか変なんがいる」


変な事をいきなり言う。

この辺に居るのなんて、野良猫くらいしかあり得ないだろう。

野良犬は昭和?とかその辺には結構沢山居たみたいに漫画とかドラマで見た気はするけど、平成の今、この町で見掛けた事は一度も無かった。


「んだよ、野良犬でも見つけたのか?」

「良いから来いってば」


手招きするマサユキだったが、その声は小さい。


その動物だか生き物が逃げないよう気にしてるんだろう。

というなら、本当になんかそこに居るんだろうな。


俺は思いながら、でも別に急がずにマサユキの方へと近づいて。


近づいていった、その時。


いや、近づこうと数歩も進んでいなかった。


「ひゅえっ!?」


『ドン!』


マサユキが変な声を出した。


いきなり氷水でもかけたらそんな声を出したりしそうだな、とは思う。


そして、次いで聞こえた音。


車に人間がぶつかられたならそんな音がしそうだな、とは思う。


「ひっ…ヒロ……ふゅっ…」


ヒロトは完全に固まっていた。


目の前の事がよく解らなかったからだ。


目の前には、確かにマサユキが言ったように何かが居た。


動物、生き物、どちらで言えばいいのか解らない。


それは、サイみたいな体の形をしていた。

だが、体はバイソン?だかバッファロー?だかみたいになんか汚い毛、コケみたいな緑色をした汚く臭そうな長い毛が生えている。

大きさは軽自動車のワゴンタイプくらいか、それよりも体は少し長く見える。

そして、どうやら目の前の『アレ』には角かなんかが生えてるというのも解った。


「ヒロト…ヒロ…なんっ…コレっ…」


いきなり現れた『それ』にマサユキは体当たりを食らい、でも吹っ飛んでいない。


口をパクパクさせたマサユキの体は『それ』の頭の部分にくっついたままだ。


だから多分、角かなんかが刺さってる。

血まみれのマサユキのその腹に。


今。


俺が考えている今も。

その角がマサユキの体から血を外にどろどろと流し続けていた。


「たっ……て…て…ひ…っ」


マサユキのうめき声。

それが何を言いたいのかなんてすぐ解った。


そして俺は。


「ふああああああっっ!!」


裏返った声で絶叫し。


そして。


全力を出した。


ワケが解らない状況。

震える体。

モタモタとする足。

だが、何をしなければならないか。


俺は一瞬しか迷わなかった。


マサユキは助けを求めている。


友達である俺に。

明らかに死にそうな声で俺の名を。


だから俺は。


「う、うわあああああああ!」


女みたいに情けなく高い声を出しながら。


俺は全力で走り出した。

『それ』とは別の方向へ。


「…っ…………た……」


振り絞ったようなマサユキの泣き声が聞こえてきた気がする。


だが、構わなかった。


意味が解らない。


ワケが解らない。


何もかも解らない。


ただひとつだけ解った。


俺も殺される。


ここは動物園でもない。

そんな所に見た事もない動物?が居る。

それがどんだけヤバいか解る。

確か、ダチョウやシマウマにだって人間が殺される事があるハズだ。

なにかのテレビで見た気がする。


マサユキは助けられない。

マサユキには悪いと思う。

だけど無理だ。


『アレ』を相手にしてマサユキを助ける事なんて無理だ。


ビビった足がまともに動かない。

正座してから立ち上がった時みたいに変にフラフラとする。

自分が見ている世界がやたらと狭くも感じる。


ピンチだ。


死ぬんじゃないか。


俺もマサユキみたいに『アレ』に襲われたら助からないんじゃないか?


公園入口のポール。

黄色い塗装が剥げた鉄で出来たそれを掴むと、スピードをなるべく落とさないよう、腕力を使って体を公園に引き入れる。

車が入らないようにする物だ。

『アレ』が1メートルくらいジャンプしない限りはポールに引っ掛って入って来られないだろう。

まあ、サイや牛がジャンプするなんてのは俺は知らないが、出来ないと思う。



公園に入る瞬間。


感覚か本能か、自然に道の向こうに居る『それ』を振り向いて確認してしまう。


まさにその通りだ。

悪い予感しかしなかった。


まさにその通りだ。

マサユキの体を捨て、『それ』がこちらへと走って来ているのが見えた。


ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい。


ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい。



一瞬だけ立ち止まり、俺は辺りを確認した。


公園の中にあるものである。


ブランコ。

小さいすべり台。

ベンチ。

噴水みたいに出る水飲み場。

砂場。

トイレ。


頭をぐるぐると考えが回る。


どうしたらいい?


どうしたら逃げられる?


ブランコを『アレ』が来たら当てて攻撃するか?


意味がない。


多分効かない。


すべり台に乗ってやりすごすか?


ダメだ。


あの高さじゃ、すべる方から登ろうとされただけで多分体当たりを食らうし、何よりそんなに頑丈じゃあないように見える。


ポリが来るまで待ってられないだろう。


アイツらは俺らみたいのをすぐ補導しにくるクセしやがって、こういう大事な時には来ない。


考えながらも、時間が無いのは解っていた。


あそこだ。

あそこしかない。


地面を蹴り、砂を撒き散らしながら、俺は全力でそこを目指した。


俺が助かるのは多分そこしかない。

全力で目指すのは。


そう。


トイレだ。


『びぃぃぃいんんん…』


響き渡る音に俺はまた振り返る。

入口のポール、そこに『それ』が体当たりをしていた。


やっぱりだ。


「やっぱりジャンプなんて」


言葉が詰まる。


少し後ろに下がり、『それ』が助走をつけて。


「…っじかよ!?」


観察なんてしてる場合じゃなかった。


ジャンプしてポールを越えてきた『それ』が血まみれの角をこちらに向けてうなりをあげている。

何故だか俺を『狙って』いるみたいだ。


俺は何もしていないのに。


俺は何もしてないのに。


数秒し、俺はトイレへ駆け込んでいた。


『アレ』が俺に追い付くよりも早く。


トイレの入口はそう狭くはなかったが、男子女子と別れる道が出来ている。


L字になったそこに『それ』は挟まった。


『ぶぉぉおおん!』


鼻息と酷い臭い、血と動物園の混ざったような強い臭いがする。


「んでだっ!なんで繋がんねえんだよ!クソ野郎っ!」


スマホの電波が何故か立っていない。


普段はうっとうしいだけのポリ、銃を持ってるアイツらなら、俺を助けようと『コレ』を撃てるだろう。


ギシギシと、体を壁にこすらせながら、『それ』が徐々に男子トイレのスペースに入りつつある。


背中をベッタリと一番奥の壁につけている俺に迫りつつあるのだ。


「っ!?」


しかねえ。


俺はすぐに判断した。


『それ』は2メートルくらい前まで迫っている。


背中にあった小さな窓、そこから出るしかない。


「っ!」


舌打ちをする。


窓は斜めにしか開かない、斜めまでしか開かない造りになっている。

試したが、その隙間から出るのはどうしても無理だった。


「クッソがっ!」


ポケットに手を突っ込み、それを取り出す。

銀色のジッポー。

先輩から貰った物だから多少サビている。


俺はそれを握りしめ、ハンマーのようにして窓に叩きつけた。


『ガインッ!』


まだだ。


『ガインッ!』


まだ。


もっと強く。


『ガシャァン!』


ガラスが割れ、飛び散る。


「ってえなクソがっ」


跳ね返りで腕にガラスが刺さった。

考える間も惜しんでそれをすぐに抜く。


痛さに構っている時間が無い。


窓枠に残ったガラスもバリバリとジッポーで砕き、剥がす。


振り向く。


『ぶぉぉお!』


『それ』はまだ大丈夫だ。


俺は間に合った。


窓から体を滑るように出す。


「あぃっ!?」


バランスを崩し、地面に叩きつけられた。


血と泥に体と服がまみれている。

腕と体が痛い。

早く病院に行きたい。


だが、今は後だ。


俺はトイレの裏をぐるっと回りこみ、そのまま公園の外を目指す。


取りあえず大人だ。

誰か大人に知らせないとヤバい。


『あんなの』が町に居るんなら、鉄砲を持った狩りの人やポリ、動物園の人、自衛隊とか、そんなのが絶対に居るハズだ。


なら、それに助けて貰わなきゃヤバい。


実際、マサユキは。


「…………」


走りながら、一瞬だけ回りが白く消し飛んで見えた。


マサユキは大丈夫なのか。

今更かもしれないが、それが気になった。


死んだのか?


いや、そんなワケはない。

昨日まで、さっきまで普通につるんでいた俺の連れだ、友達だ。


それが。


それが死ぬワケなんてない。


ダッシュする体は勝手にそちら側に向かっていた。


確認したい。


マサユキが大丈夫かどうか。


グロい事になってるのは解るけど、生きているかどうかだけでも確認しなきゃあならない。


何故だか俺はそんな義務感?とかいうのにかられていた。


ハアハアと。


息が乱れる。


走っているからだけじゃない。

こんな状況に自分が居る意味が解らない。

その焦りがもちろん大きい。

疲れももちろんあった。


公園をダッシュで抜け、道路に出たところで止まり、息を整える。


汗だくのシャツが張り付いて気持ち悪かった。

トイレの窓から地面に落ちた事で身体中が泥まみれにもなっている。

早くシャワーも浴びたい。


20秒くらいか。


まだハアハアと息はしているが、俺は動き出した。


ゆっくりと。


タバコ屋の辺り。


そこに転がったマサユキのとこへと。



しばらくし。


「……なんっ…て、なんで……」


マサユキの前で俺は立ち止まった。


座る事もしない。


『こんなもの』は今まで見た事がない。


血まみれの死体。


「…っ!…」


ダッシュした疲れもあったせいか、俺はマサユキから顔をそらし、その場で盛大にゲロを吐き出した。


「…っ…ふっ……ふーっ…」


ツバを吐き出し、口元を腕でぬぐう。


マサユキは完全に死んでいる。

少なくとも俺にはそう見えた。


『アレ』の角で刺されたせいで、腹は破れ血と『中身』がどろどろとこぼれている。


ポコポコという音がたまにするのは、血の中?に混じった空気の泡が弾けるからみたいだ。


もうマサユキはダメだ。


もう『コレ』はどうしようもない。


判断した。


俺は小走りで動き出した。

マサユキには悪いが仕方ないんだ。


タバコ屋の横を抜け、そのまま先にある大通りを目指し。


目指す。


目指すつもりだった。


だが、俺の前に広がった景色はそうじゃあなかった。


大通りと商店街がある見えるハズなのに。

見える位置に居るハズなのに。


「どう……なんだよ……なんなんだよ…」


そこは河川敷だった。


意味が解らない。


今居る場所が解らない。


振り返り、タバコ屋を確認するが、それはやはり見知ったいつものタバコ屋だ。

それにこの辺りで工事なんてしてたのは知らない。


いきなり商店街が潰れるワケなんてないし、地震で崩れたりしたなら俺だってそれを解るハズだ。


そして。


『ド…スン……ド…スン』


イヤな予感がまたする。


そう、その予感が絶対に当たってるのが解る。


『ド…スン』


そう。


俺の目の前にまた別の『なにか』が現れたのだ。


夕方の闇を背負っているそれは、丸かった。


丸い体、丸い肩、丸い足。

丸に丸を何個もつけた、そんなシルエットをしている。


ただ、その目が、目だと思うそれがひとつだけこちらに向いて緑に光っている。


「ふわああああ!?」


ヒロトは走った。


そいつとは逆向きに。


自分の叫びが辺りの音を消す。


後ろに居る『アレ』の足音も聞こえない。


全力を出したヒロトはすぐにマサユキの辺りまで来た。


踏まないように気を付けながらタバコ屋の角を公園の方へと曲がり。


「!……」


『それ』に出会った。


トイレから出てきたのだろう。

体の左右が木くずやコンクリートにすれて汚れているように見えた。


立ち尽くすヒロト。


いや、すぐにぺたりとしりもちをついた。


もう疲れた。


もう疲れて走れない。


もうダメだ。


解った。


ここが何かは解らない。


この異世界がなんなのかは解らない。


ただ、俺はここで。

ここで。


「えわああああ!!」


絶叫する。


しりもちをついたまま手で下がるヒロトの片足、その足首を『それ』が踏み潰した。


そうだ。

俺はここで、死ぬ。


痛みに絶叫しながら理解していた。


『それ』の次の一歩がもう片足の太ももと股間を踏み潰す。


涙とツバ、絶叫でジタバタするしか出来ない。


『それ』の顔が目の前にある。


マサユキの血で汚れた2本の角。

両目の下から生えたその武器。

獣の強い臭いがする。


もう一歩。


『それ』の足がヒロトの横腹を踏み潰した。


痛みは既になにかおかしくなっている。

自分の身体中が異常に熱い、そういう感じだった。


そして。


『ズブッ!』


刺さる音が聞こえた。

ヒロトはそれを半目で見ていた。


『ぶぉぉおおん!』


『それ』が大きく鳴き、ヒロトの体を何度か踏みながら下がる。


『それ』の額には何かが刺さっていた。


ヤリか。


『それ』の角よりも遥かに長く、そして頑丈そうな、多分鋼鉄で出来た…。


助かった?


ヒロトは振り返る。


さっきの『アレ』がそこに居た。


光の加減、焦りでさっきは解らなかったが、コレは。


「ロボッ…ト…?」


『こちらヒューイ、ツノツキヨツアシと異世界人を確認した。行動に移る』


その銀色の丸いロボットは夕焼けにオレンジを反射させていた。


『ブィィイン』


機械の音が辺りに響く。


ヒロトの後ろに居たロボットは滑るようにして動き、後退した化け物に迫った。


『ズブッ』


ロボットは、逃げ出そうとする『それ』に対し、もう一本のヤリを突き出した。

それは、身をひるがえした化け物に突き刺さり、その脇腹から大きく血を吐き出させた。


『ぶぉぉおっ!』


絶叫の中、ロボットはヤリを引き抜き、そしてまた突き刺す。


『ズブッ』


『ズブッ』


『ズブッ』


何度か繰り返される光景。


やがて聞こえなくなる化け物の声。


ヒロトは理解していた。


助かったのだ。


なんとか助かったのだ。


ロボットに乗るというのなら人間だ。


こんな丸いロボットなど見た事も聞いた事もなかったが、国が隠していた秘密兵器かなにかかもしれない。


『こちらヒューイ、殺害完了』


ロボットから声がまたする。


やはり人間だ。

名前からして外人だろう。

もしかしたら、アメリカが開発した秘密兵器なのかもしれない。

俺は安心してきていた。


そして、それと共に痛みが体に表れる。


当然だ。


下半身をグチャグチャに踏まれてしまったからだ。

見る限りでも、内臓みたいなのが飛び出したりしている。


「痛いです!」


ヒロトは叫んだ。


「助けてください!早く、早く俺を病院に!」


ロボットは死んだ化け物からヤリを引き抜き、そしてこちらを振り返った。


血塗れの、でも、優しい戦士。


そんなイメージだ。


「早く…痛みがスゴいんです、早く病院に連れてってください!」


ヒロトの叫びにロボットが近づいてくる。


よかった。


なんとかコレで死なずには済みそうだ。


マサユキには悪かったが、その分は生きてやりたいし、葬式にもちゃんと出てやる。

ヒロトは思い、安心して息を吐いた。


『ドスッ』


『モリ』は異世界人の男の顔面を貫き、スイカのように砕いた。


「こちらヒューイ、異世界人は2名確認、どちらも死亡したと判断した。後片付けと死亡確認、その他諸々は任せる。以上」


ラマファー。


返り血に汚れた銀色のそのロボットを動かしながら、ヒューイは帰投を開始した。


異世界人は今や年間数千単位で現れる。


理由は知らない。


ただ、その全ての異世界人が友好的で有効的かというとそんなワケはない。


当然だ。


頭の悪そうな死にかけの異世界人のガキにトドメを刺してやったのは情けだ。


助かるか、助かっても働けないような異端に割いてやる薬や予算などないのだから。


当然だ。

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