3.憧れの先輩
清歌視点が続きます。
わたしが出てきたことに気がついたのか、そっと顔をあげる五行先輩。そんなひとつひとつの動作も、洗練されたように美しく、可愛らしかった。
「……あっ! お姉さま、じゃなくて五行先輩……。どうしてここに……」
つい言葉を発してしまった。すると五行先輩はそっと眉を潜めた。そんな顔もとっても可愛らしくて……じゃなくて!!
「す、すみません、すみませんっ!」
まともに会うのは初めてなのに、何か悪いことをしてしまったのではないか、失礼なことをしてしまったのではないかと焦って、ひたすら頭を下げる。
と、五行先輩が、凛とした澄んだ綺麗な声で聞いてきた。
「あなた、確か1年5組のクラス委員の……御津さん、だったかしら?」
「は、はいっ! 御津清歌です! すみません、わたしっ……!」
名前、覚えていてくれたんだ……。あの五行先輩に……。今の自分の立場を忘れ、ぽーっとしてしまう。わたしの名前を呼んでくれただけなのに、五行先輩に呼ばれただけなのに、こんなに嬉しいだなんて。
「いいのよ。……ところで、どうして泣いていたの? 何か悲しい事でもあったのかしら?」
五行先輩の言葉を聞いて、ドキッとする。
……もしかして、泣いてるところ、聞かれてた?
「い、いえっ! 先輩のお手を煩わせるわけにはいきません! わ、わたしは……大丈夫です…………」
恥ずかしい。憧れの先輩に、泣いてるところを聞かれてしまった。
私は耐えきれず、走り出してしまった。
「すみませんっ、すみません!」