28. 臨海&林間学校【2日目、3日目】その5
『それでは最後に、元生徒会長・五行姫奏さんとパートナーの御津清歌さんに、肝試し開始式のラストを飾る出発式を行って頂きます!』
という言葉と共に、私はにこやかに周りの生徒たちに手を振りながら清歌を伴って前に出ると、智恵から受け取ったマイクに向かう。
「皆さん、こんばんは。元生徒会長の五行姫奏です。今日は、智恵さんに無理を言われて出発式を行うことになりました」
私の言葉にくすっと笑う生徒たち。そして
「もうっ、ノリノリで引き受けてくれたじゃないですか!」
と声を大にして反論する智恵。そんなやり取りをして、私が出てきた事で固くなっていた空気が少し和らぐ。
「はいはい。……こほん、さて、この宿泊行事で毎年1,2を争う大人気イベント、肝試しの始まりな訳ですが、その前に私から二つだけ、お話があります」
声のトーンを切り替えて真面目な話をはじめる。それを感じ取ったのか生徒たちもざわめきを抑えると、壇上に立つ私を見つめてきた。
「まずひとつ目、智恵から聞いているかとは思いますが、羽目をはずしすぎないこと。嫌がったり、怖がったりしているパートナーに無理矢理することがないよう、しっかりと了解を取り合いましょう。自分の気持ちも大事ですけど、相手の気持ちも同じくらい大切です。それを覚えておきなさい」
頷く上級生と軽く首を捻る下級生。
直接な表現で言わないのは、肝試しでいちゃいちゃちゅっちゅするのが公式にはしてはいけないから。だから私もそうだけどみんなわざと誤魔化した事を言っている。上級生なら意味は分かると思うけど、まだ何も知らない下級生のための配慮だ。
「二つ目、パートナーとしっかりと手を繋いで行ってくること。……こんな風に。わかりましたか?」
私の後ろに隠れるようにしていた清歌を片手で私の隣に連れ出すと、清歌と恋人繋ぎをして、生徒たちに見せつけるように空高くあげる。頬を真っ赤にして恥ずかしそうに俯く清歌。
どよめく声、黄色い歓声、それぞれ聞こえたけれど気にしないで暫くしておろす。そして、一礼すると手を繋いだまま降りてスタート地点に立つと、ある程度は知っていたであろう智恵のあまり驚きのない声で見送られると、闇のせいでより鬱蒼と感じられる肝試しコースに足を踏み入れた。
そして少し歩いてコースから逸れると、私は秘密の場所へと清歌を導いていった。