27. 臨海&林間学校【2日目、3日目】その4
山登りの後は冷たい海で汗を流す。ひんやりとした海水は、火照った身体を冷やしてくれる。姫奏と一緒に泳いだり、マノン先輩たちとも色々な事をして遊んだ。
その日の夜は先月から生徒会でこっそりと進めてきた企画、肝試し。今日の昼間に係の生徒が海や山に行っている生徒にバレないようにこっそりと設置した仕掛けが山ほどある、宿舎の裏手の雑木林の散歩道がコースだ。
一緒にいきたい人がいる人はペアで、特にそういう人がいない場合はくじで二人組をつくって回ることになる。希望者のみの参加なのだけれど姫奏曰く毎年ほぼ全員が参加しているらしい。普通に歩けば五分ほどの散歩道だけれど、ペアに与えられた懐中電灯一つだけで薄暗く薄気味悪い道を歩くのには時間がかかり、十五分ほどかかってしまう。そういう事情もあってコースが三つ設置され、各々から二分ごとに次々と出発してゆく。コースごとに仕掛けは若干異なるものの怖さは変わらない。
無論わたしのペアは姫奏だ。ふと隣にいる姫奏をみると、前に立つ生徒会役員の説明を聞きながら軽くため息をついていた。
「……どうかしたんですか?」
「えっ? ああ、いえ、大丈夫よ。ちょっと思い出したことがあってね……」
「思い出したこと、ですか?」
「そう。清歌はこのイベントの別名を知ってるかしら?」
何故か頬を少し赤らめながら訪ねてくる。わたしは疑問におもいつつも、
「う~ん、知らないです」
と答える。すると姫奏は更に赤くなると、わたしにだけ聞こえるような小さな声で正解を教えてくれた。
「……悲鳴と嬌声の夜」
「ふえっ!?」
思いがけない名前に思わず声を大きくしてしまった。
「悲鳴と嬌声の夜、というのよ。……今智恵が口うるさく繰り返しているでしょう?」
姫奏の指差す方を見ると、確かに智恵先輩が何度も何度も、
『就寝時刻までには戻ってくるように!』
と繰り返していた。……どういうことだろう。今はまだ八時前。就寝時間の十一時には程遠いのに。全員が回りきったとしてもまだまだ時間はたっぷりと残る。
「あのね、この学校には私たちみたいなカップルが多いでしょう? だからね、こういうイベントの時にはね……その……みんな羽目を外してしまうのよ」
「あぁ……なんとなく分かったような気がします」
「ね? スタートの時には名前を確認するのにゴールではしないでホテルでする理由は分かる? ……八割を超える生徒がゴールせずに行方不明になるからなのよ」
八割……!?
「はじめは悲鳴はがり聞こえていた雑木林や近くの丘、海岸に至るまで、あちらこちらから聞こえてくる嬌声。だから悲鳴と嬌声の夜というのよ」
「…………」
わたしはあまりの驚きに声もでなかった。確かになんでゴールで名前の確認をしないんだろうとか、コースの割りには仕掛けが少ないとは思っていたけれど、みんなそういうのを気にせず甘い時間を過ごしにどこかへいってしまうからだったんだ……。
「大抵ながくそういうことをしたい人が多いだろうと、まだ明るいうちから上級生が出払って、明るいうちからまわるのはつまらないから譲ってくれたのかしら……。と勘違いした後でいく下級生が、その空気から何があるのかを察して……が毎年のサイクルよ」
「な、なるほど……。でも、先生方は何も言わないのですか?」
そう。自由にできる行事だからといっても引率の先生はもちろんいる。そういうことを知らないはずもないと思うけれど……。
「うちの先生方は大体うちの卒業生でしょう? ……だからほとんどの先生も同じことをやってたと思うの。だから何も言わず、というかむしろ先生方同士でもそういうことをしている姿を見つけたことがあるわ……」
「ひえぇ……」
まさに星花女子学園の伝統、な訳ですね……。
ふと、ということはわたしたちもするの? と思って姫奏に尋ねる。
「……もちろんわたしたちもするんですよね?」
「当たり前じゃないの」
「えと、ちなみにいつ頃出発ですか?」
「あら、言っていなかったかしら。オープニングパレードとして、誰よりも早く出発よ♪」
……今夜は相当な覚悟しておかないと、大変なことになりそうです。




