1.涙目の天使
あまりダラダラせず、出来るだけハイスピードで飽きないように進めたいとおもいます。
夏休みのある日。新しく発足をした生徒会の様子を見に、学園の生徒会室に顔を出した帰り道、その娘をみつけた。
「……ぐすっ、わたしのせいじゃないのに。ひっく。わたしのせいじゃないのに……。ぐすっ、なんで私が責められなきゃいけないの……ふぇぇ」
お休みの日の、誰もいない静かな廊下。そこに、か細くて憂いを含んだ小さな声が響いていた。
普段なら、静かに背を向けている場面。でも、何故か私は立ち去れなかった。むしろ不思議と、かすかに聞こえる泣き声を頼りに、その声の主のもとへ廊下を歩いていた。
しばらくしてたどり着いたのは、高等部の校舎の隅の空き教室。夏休みの間に工事がされる予定のはずのその教室から、その声は聞こえてきた。
「ぐすっ。……もう行かなきゃ。こんな時間」
静かに空き教室の向かいの廊下の壁に、寄りかかりながら立ってしばらくした頃。次第に落ち着きを取り戻した声の主の女の子は、小さくため息をつくと、私がいる方ではない扉から出てきた。
出てきたのは、私より少し背の低い、可愛らしく髪の毛を右に纏めたサイドポニーの大人しそうな女の子。制服のリボンの色は紫で、一年生のよう。確かあの娘は――
「……あっ! お姉さま、じゃなくて五行先輩……。どうしてここに……」
と考えていたうちに、私のことに気付いたらしい女の子が、びっくりした様子でこちらを見つめ、そして思い出したように慌ててお辞儀をしてきた。
(……もう少し気軽に接してくれてもいいじゃありませんの)
ちょっぴり悲しくなって眉を潜める。
その様子を、自分の行いが悪かったかと勘違いさせてしまったらしく、女の子がさらに慌てた様子で何度も何度も頭を下げる。
「す、すみません、すみませんっ!」
……そんなのではないのに。
私はそっと、頭を深く下げて、少し震えながら怯える女の子に近寄る。できるだけ怖がらせないように、そっと、そっと。
「あなた、確か1年5組のクラス委員の……御津さん、だったかしら?」
名前を思い出し、驚かさないようにそっと呼びかける。
びっくりした様子で、私を見つめてくる。
「は、はいっ! 御津清歌です! すみません、わたしっ……!」
「いいのよ。……ところで、どうして泣いていたの? 何か悲しい事でもあったのかしら?」
涙目で言ってくる清歌さん。
「い、いえっ! 先輩のお手を煩わせるわけにはいきません! わ、わたしは……大丈夫です…………」
そういうと、清歌さんは駆け出してしまった。
「すみませんっ、すみません!」
私は追いかけることも出来ず、ただ走り去っていった方を見つめ、立ち尽くしていた。
……また、やっちゃった。