15.臨海&林間学校【初日】その3
「姫ちゃんはあの娘の事が知りたいんやろ?」
「ま、まあ。そうですわね。清歌があれだけ嫌がっていたのですし」
「ふぅん、名前を呼び捨てねぇ?」
「そ、そういうおふざけは無しです!」
途端にマノンは、ニヤニヤとした表情から、私の右腕、河瀬マノンの顔にキリッと切り替わると、清歌に許可をとったうえで順に話し始めた。
バスもゆっくりと動き出した。
「あの娘、理純智良ちゃんっていうんやけれどな、まあ、一言で言えば変態、やろか」
「変態……?」
私は眉を潜める。
「そそ。清ちゃんのことを追っかけてる、痴女やね」
「せ、先輩……言い過ぎじゃ……」
「でも、清ちゃん、色々見せつけられたんやろ? おぱんつとかおぱんつとかおぱんつとか」
この時既に、いつものマノンに戻っていた。
「うぅ……」
「清ちゃん、いい子過ぎるんよ。優しくて、物静かでクラス委員。それだから隠れファンクラブが出来ても不思議じゃないんよ」
「ええっ!?」
清歌にファンクラブ……?
「もちろん姫ちゃんほどの規模はないで? せいぜいやっと二桁やね」
「ええっ、私にもあるの!?」
「当たり前やろ。……もしかして知らなかったんかいな?」
「え、ええ」
私にファンクラブ!?
「姫ちゃんのファンクラブは、学園一会員数の多いファンクラブやで。400人は軽くおるな?」
400!?
「先生の何人かもファンクラブに入ってるらしいで?」
先生まで!?
「ちなみにそのファンクラブ作ったのうちや」
マノンー!?
「初めて会った時にピンと来たんよ。これはイケるって。それでな、姫ちゃんのおかげで、毎月小銭がガッポガッポ――って、待った待った! ほんま冗談だから、な? 入会金年会費無料、お金も何も取ってないから! だからその手の傘、仕舞おうや!?」
……ふう。全く。
私は手にした日傘を下ろして鞄の中に戻す。
「マノン、世の中にはねえ、言ってもいい冗談と、言ってはいけない冗談というものがあって――」
「あー、はいはいはいはい、わーかりましたー」
「人の話はきちんと聞きなさい!」
「もうその話、耳にタコができるほど聞いたんやけど」
「それはマノンが自分の行いを正さないからです!」
私たちはいつものように睨みあう。
「あ、あわわ、先輩たち、やめてくださいぃ!」
清歌の慌てた様子の声に我に返る。ふと周りを見ると、同じ車両にいたほとんどの生徒がこちらを見ていた。私ったら! は、はずかしい……っ!
「……っ~! こ、こほん。ともかく、気を付けなさい! いくらマノンでも許さない事もあるわよ」
「ほほう、清ちゃんの注意ならすぐに了解する、と。あんたら結構――っ、ご、ごめんって、分かったから!」
私は再び鞄から日傘を取り出しながら、冷たい目差しでマノンをじっとみつめる。
「本当に?」
「本当本当! 信じて、な?」
「……はぁ。まったく」
私はおでこに手を当てると、やれやれとため息をついた。