10.悲しい後悔、嬉しい後悔
名前を呼びあっているうちに、清歌がいとおしくて、ついキスをしてしまった。
「……せんぱい」
「……ごめんなさい、ごめんなさい! 私ったら、急にこんなことっ! ごめんなさい!!」
せっかく仲良くなれたのに、心を開いてくれたのに、嫌われるのが嫌で、こんなことをしてしまった自分が嫌で、私は逃げ出してしまった。
……廊下を走って、走って、ひたすら走る。
現実から逃げるために。夢だと思うために。
長いながい廊下を、ひたすらひたすら走る。
「姫奏先輩!!」
「きゃっ!?」
ぎゅっ、ゴロゴロゴロ!!
突然腰のあたりを掴まれた私は、勢いあまって転がってしまう。
気づいたら、私は天井を見つめていた。そして私の上には清歌さんが馬乗りになっていた。
「はあっ、はあっ、はあっ!」
「はあ、はあ、はあ…………」
お互いに荒い呼吸を繰り返す。
息を整えようと、思いきり空気を吸ったとき、いきなり唇に封をされた。
ちゅぅぅぅぅっ!!
「……にげないで、ください。わたしは、まだなにも、言ってないです」
「きよか、どうして……」
「いつわたしが、姫奏先輩のこと、嫌いって言いましたか? 先輩にされたこと、嫌っていいましたか?」
「ぇ……?」
「わたしは先輩が大好きです! 愛してます! 先輩もわたしと同じでしょう? 胸がドキドキして、顔が熱くて、考えると幸せで……。ちがいますか!?」
「……ううん、私も、おなじ」
「だから、逃げないでください。ずっと傍にいてくれるって言ったの、先輩でしょう? だから、ずっと、ずっとそばにいてよぉ……!」
ぼろぼろと泣き出す清歌。それにつられて、私も清歌に言われたことが嬉しくて、幸せで、泣き出してしまった。
「ふぇぇぇっ、きよか、きよかぁ。ぐすっ、だいすき。だいすきぃ!」
「わたしも、せんぱいがすき、すき! だいすきぃ!」
そう言うと、私たちはぎゅっと抱き締めあって、しばらくの間ずっと、泣いていた。