6話 発掘すること
あれから15年、花泉親子だけではなく人類は逞しく生きていた。
噂話のように岩熊を倒したのは義男であった。12年前、石からこぼれ落ちた時、石の使い方や属性力の使い方を学んでいた。
いや、本能の記憶領域に記されていたというほうがこの男の場合は正しい気がする。
向かってきた岩熊に対して、力をまとわせて殴っただけであった。その一撃で凶暴な岩熊が本能において恐怖を感じた。
「藤島守さん」
「・・・・・はい」
厚手のデニム地製の茶色のつなぎ服を着ている中肉中背の男がかろうじて聞こえる声で答えた。
「藤島さんも石屋ライセンスをお持ちですね。」
「ええ。はい。」
いずれも返事の声は小さい。
この男もまた、15年前のあの日に石に飲まれた一人であった。元ソフトメーカーにおいて官公庁向けのソフト開発の現場でプログラムを書いていた。
実際にソフトを官公庁に売り込むメーカーの担当者と打ち合わせを終えて、大手町にある本社へ帰社をするために地下鉄の駅から地上へと出たところでその瞬間に会った。
この男の場合、石に呑まれてていた期間は9ヶ月と比較的に早めに開放された。期間が短かったために石を変化させるところまでは能力がつかず、その代わりに解析能力だけは一般的な石屋よりも優れていた。
解析能力が優れているのだからなにもこんな発掘屋をしなくてもみつやコミュニティの公的機関とも言える、みつや開発局等において地域開発に勤しんだほうが安定もしているし、世のためになるのだろうが、組織立って動くということが苦手であった上に従前が官公庁相手のSE職だった為に公的と言うものに対して多少アレルギーがあった。
なにより発掘屋のほうが当たればでかい。
とは居え、この発掘協会自体もコミュニティの所属であるわけであるから15年前なら地方自治体の嘱託職員のような立場ではあるわけだが。
この時代、コミュニティといっても国と言える規模でも無い限り(みつやは国と呼べるレベルである)、なんらかの利権ベースの上に成り立っている。
このコミュニティの成り立ち自体、荒川という水源を持ち、起伏の激しい山があるわけでもなく、都心に比べるまでも無いがそこそこ人口もあったから発掘が進む前からある程度は小規模のコミュニティの寄り合いが始まっていた時期に数件連続で有力な属性士が発見された結果、大発掘現場を管理統括するコミュニティとして成長した。
「では藤村さんもA班でお願いします。」
「わかりました。」
相変わらず声が小さい。
説明会が終了すると開発機構職員が班リーダーとなりそれぞれの班を率いて地下に潜っていく。
「毎度毎度、長い」
「これを受けて居ないとペナルティもあるからなぁ」
「実際にペナもらった奴いるのけ?」
「いるらしいんだわ、それが」
「なら、しゃーないわなぁ」
「行こ、とーちゃん」
「んむ」
花泉親子もA班リーダーに続いて現場に潜っていく。
それぞれの班には職員として風使い、石屋、水使いが数名随伴している。
現場の各回収ポイントや分岐点などにも配属されている。発掘現場の中でも空気の流動は必要だし、ガスの噴出しや地下水の突発的な噴出などにも対応する。
発掘される属性パワーストーンとは大きく分けると動力源とも言える石で電池のような場合と伝達媒体ともいえる場合の2種類と考えて良い。
ただし、パワーストーンから[力]を取り出すのもパワーストーンを通じて自分の[力]を伝達できるのも属性士のみで属性士が組み込まれた属性パワーストーンにアクセスして[力]を伝える処置を施すか、もしくは自分の力をパワーストーンを通じて伝達させたり、コーティングしたりするイメージだ。
発掘現場では荒削りでガンガン削っていく重機には電池式のパワーストーンが組み込まれていて、それを属性士が少しずつ調整しながら動力を取り出して重機を駆動させる。
発掘現場ではないが、地上の開発用重機等には移動用の属性士オペレーターと実際に穴を掘ったり、整地したりする部分を担当するオペレーターが別に操作する物もある。