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春の物語  作者: はろくま
第一章
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5話 ヨシオとケイコとケイ その2

 恵が生まれた時に義男の頭の中では子供が生まれるということは頭では理解できていなかった。が、本能というか体の奥底から溢れだす喜びを抑えることが出来なかった。


 幸せであった。

恵はすくすくと育ち1歳になっていた。

子供を守り育てるということを思考として考えるようになっていた。


心に決めていた。

2人を守り続ける。


 そんな矢先、山が一変した。

恵子と2人で現場に恵を連れて、日課の伐採作業を行っていた。

異変に最初に気づいたのは恵であった。

 いつもは大人しく木で作った恵用のベッドの中で寝ているのだが、その時の直前に今まで聞いたことが無いほどの音量の声で泣いた。

 「どうしたの?恵ちゃん。ママはここですよー」

すっかりママとなっていた恵子があやすが泣き止む気配無し。

「どうしたんだろ?」

義男は確信が会ったわけでは無いが、山の変化に気づいてた。

「小屋に戻ろう」

「え?なんで?」

「おかしい」

「ん?恵が?」

「いや・・・」


 その時、やはり春田が感じたように数百羽の鳥が同時に泣き叫んだような声が響き、続いて山の変化が始まった。

「!」

「!」


 山のところどころから様々な色の半透明の石が盛り上がり、まるで太陽の表面でうねる炎のように石の龍が生まれては消えていくのを繰り返した。

通常ならば自力では立っていることさえできないこの状況で、さすがこの2人は飛んでくる石からベビーベッドを守り、暴れる地面からベッドを救い上げていた。

 山の表面は石の龍が生まれては消えて、龍が生まれない場所はさながら山肌全体が岩や石で作られた巨大なシュレッダーのように動いていた。

シュレッダーの粉砕歯の上をベッドを抱えた恵子が歯から歯の上へ飛び移りその横で義男が飛んでくる石から2人を守っていた。

 しかし恵子が飛び移ったその歯が今度は龍の頭となって、大きく盛り上がると義男にも成す術なく下に取り残された。

恵子と恵を頭の先に乗せた龍は大きく盛り上がると今度は山肌に向かって下降を始めた。

 遠目では良く確認できないがどうやら龍の先の部分に覆われてるように見えた。

「食われた!!」

走った。

走った。

走った。

走った。

走った。

 当たる石、当たる岩、関係なく一直線で龍の頭が潜ると思われる場所へ全速力で走った。

守ると誓った。

 それが目の前で石の龍に食われた。

そして自分の手に届かないところに潜ろうとしている。

許せなかった。

絶対に受け入れることができないことであった。

怒りにまかせ走った。

どのくらい走ったか、

ようやく龍の頭が見えた。

半透明の薄いスモークグレー色の龍の頭の先の中に見えた。

確かに2人は居る。

ベビーベッドはすでに無く、恵子が直接に恵を抱えていた。


 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 山の叫びにに負けないくらいの音量で、生まれてから初めて叫んだ。

感情が爆発したように感じた。

 届く!間に合う!龍の頭が地面に潜りこむ瞬間、地面と2人が囚われている頭とのその間に飛び込み、そのまま一緒に地中へと潜っていった。

 


 本来、義男は選ばれて居なかった。選ばれたのは恵と恵子で2人は囚われたときに石の部分が2人を受け入れるようにその形状で凹んだ。

 石が地中に潜っていく間、すでに光が届かずはっきりとは見えないが足掻いてもがいて、2人がいると感じる場所へたどり着いていた。

 岩と岩とに押される形で地中を進むわけだから普通ならば、いくら義男の強靭な体でもばらばらになりあっという間に圧縮死していたであろうが、2人が覆われている箇所に強引に割り込んだために本来は選ばれ無かったはずの義男も飛び込みで選ばれた形となった。

 こうして世界規模で見ても稀有な親子3人が同じ場所で取り込まれるという事態となった。



 そこから3年、義男は石の中で生きた。すぐ横には2人を感じることができたし、石から属性能力の付与を行われていたが、元々、深く考える性質ではないので、2人が自分と同じように生きていると感じられることで、深く安堵していた。


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