やっぱり、
その後も先輩は特に活躍もなく、夏に引退した。
部内において最上級生になった私たちの代はなんとなく引き締まる。そのころサムスン君も他の同期から大幅に遅れを取りつつもようやく的前に立てるようになった。
「はい、それで10回目」豚饅頭が言ってくる。今は昼休みで、二人で弁当を食べている。
「なにが?」
「今日『先輩』って言った回数」
「随分たくさんと」
「こりゃもう完全に恋だね」
「それは今までに5回言われた」
「ゆっこ認めないんだもん」
「まぁ、恋かな」
「えっ」
「なんで驚いてるの」
「豚饅頭みたいに頭ガチガチのゆっこがついに認めるなんて。日記に書いておくね」
「もうなんだよお」
「相変わらず可愛いやつめ。私は応援するよ」
豚饅頭がやさしく私のほっぺをつまんでくる。相変わらずふにゃふにゃした子だ。
「ふへへ」
「お返しに三崎の話してあげるよ」
三崎とは同じクラスの冴えない男子の名前だ。豚饅頭と3週間ほど前から付き合っている。豚饅頭はこれで彼氏は二人目だが、なぜか二人とも冴えない。絶望的に冴えない。パッと見豚饅頭とは釣り合わないが、豚饅頭はいたって幸せそうだ。
「この前ついに下の名前で呼び合うようになっちゃってさ、私どうしよう」
豚饅頭は美人なのでよく勘違いされるが、実はかなり奥手だ。
「豚饅頭、それ付き合ったその日に踏むステップだよ」
「嘘だ」
「彼氏いたことない私でもおかしなことだと思うよ」
「本当?」
「ほんとう」
「ふにゃ」