また一歩大人へ、
電話を終えた豚饅頭が私のそばへ寄る。
「で、そいつはいつ来るんだ?」
「もうすぐ」
豚饅頭はそっけなく言う。
その後、田中は謝罪ともいえない謝罪を繰り返し話し続ける。私たちはそれを右耳から入れ左耳から通す。
しばらくすると、近くでパトカーのサイレンが聞こえた。田中は突然おびえたような顔をする。
「あんたどうしたの、そんなおびえて」
「この音聞くとどうも怖くてよ…ん?」
田中の目に殺気が宿る。もしかして気付いたか、と思った時には遅かった。
田中が豚饅頭に飛び掛かってきた。豚饅頭は咄嗟に反応できず、押し倒される。
「てめぇ警察呼びやがったな!!協力するとか嘘ついて、俺を騙したな!」
「ちゃんとあんたのこと助けるよ」
「ふざけるな!」
田中は豚饅頭の細いのどに手をかける。私は恐怖で足が動かない。
田中はもはや言葉とも言えない言葉を喚き散らし、どんどん手に力を込めていく。田中の顔が赤くなっていくのとは対照的に豚饅頭の顔が白くなっていく。
腰が抜けた。私はその場にへたり込んでしまった。このままでは豚饅頭が死んでしまう。そう思うがどうしても体が前に行かない。
その時、すばやく田中に向かって何かが突っ込んできた。
田中は吹き飛ばされ、うぎゃあ、となさけない声を出す。
それは三崎だった。エプロンをしている。そういえば豚饅頭がこの近くでバイトをしていると言っていた。
「遅いよ」
ようやく解放された豚饅頭がまだ苦しそうに三崎に言う。
「うるさい、これでも頑張ったんだ」
「え…?」
状況がつかめない私に豚饅頭に説明する。
「警察を呼んだついでに三崎も呼んだんだ。多分三崎の方が早く来るな、て思ったし」
「なんで」
「危なそうだったから」
実際危ないところだった。三崎に突き飛ばされた田中はうずくまって動かないが、いつ動き出してくるか分からない。女二人では危険だ。
しばらくして警察がやってきた。
最後まで私たちに許さない、と叫びながらパトカーの中に入れられた。
私はそんな田中のことを見ていられなかったが豚饅頭は彼の姿をしっかりと見ていた。
「ここで捕まらないと溝口みたいなことになるよ、あいつ」
「……」
「後出しじゃんけんみたいで嫌だけどさ、嫌いではなかったよ、あいつのこと」
私には豚饅頭の言うことがいまいちよく分からなかった。




