越えていき、
季節は夏、秋を経た。冬のとある日のことだ。私は豚饅頭と買い物をしていた。
「もうだいぶ遅くなったよ、早く帰ろう」
「あのさ、この近くで三崎がバイトしてるんだ」
「そうなの?なにしてんの?」
「レジ打ちだね。ひやかしたい」
「レジ打ちを冷かしてもなぁ。別に良いけど寒いから急ぐよ」
「ふにゃ」
「直井じゃねぇか」
いきなり後ろから声をかけられたので驚いた。
振り返ると田中が立っている。こいつは私の行く先々にいるがストーカーでもしているのだろうか。
「さっき見かけたから後ろからつけてた」
ストーカーでもしていたようだ。
「隣にいるのは桜庭か。相変わらず可愛いな」
「久しぶり。別に興味ないけど」
「てめぇら二人揃って俺に冷たいよな。俺が何したっていうんだ」
「いや、私を飲み会に連れてって散々な目に遭わせたじゃん」
「なんのことだそりゃ」
田中はきょとんとする。豚饅頭は黙ったままだ。
「えー忘れたの?高校の時より馬鹿になったんじゃないの」
「俺はそんなことしてない。それより金貨してくんない?」
「嫌に決まってるじゃん」
その刹那、田中が急に私たちの方へ迫ってくる。豚饅頭は私を引っ張って後ろへ下がったが、田中は私のハンドバックを掴み、奪い取る。
「ちょ」
そのまま田中は走り去る。しかしそこまで速くない。
「ゆっこ、追いかけるよ」
「え」
「あんなやつにバッグとられたまんまじゃ気色悪いでしょ」
「そりゃ」
「決まり。なんかあいつ足遅いからすぐに捕まえてやる」
路地をいくつか曲がったところで田中をあっさり追いつめた。
「ゆっこのなんだから返しなさいよ」
私は息を切らし、喋れない。弓道という競技は走り込みをしないのだ。
「よようやく人気が無いところへお前らを連れてこれた」
「は?」
「お前ら、俺を助けてくれないか」
田中が一歩私たちの方へ踏み出すが豚饅頭は一歩も下がらない。
「どういうこと」
「これだよ」
田中は自分のポケットに手を突っ込み、注射器を取り出す。
「あんた…もしかして」
「溝口」
私はようやく声を出す。もしかして、だ。
「みぞぐち?だれだそりゃ」
「…」
豚饅頭は無言で私の顔を見る。
『まずい』と豚饅頭は言っている。私だって大分まずい状況に立たされていることに気付いた。
「これなしじゃあもう俺はダメなんだよ。頼むよ、もうきらしちまってやべぇんだ。早くこいつがほしい」
「分かった、協力する」
「お前本当に言ってるのか」
「豚饅頭本当に言ってるの」
「本当に言ってる。友達に持ってる人いてさ、ちょっと電話してみるよ」
「ありがてぇな」
豚饅頭は携帯を取り出し電話番号を打ち込む。
明らかに打った番号が短い。私は察し、田中の方を見る。
田中はにやにやしながらこちらを見ている。今気づいたがもう一月だというのにやけに薄着だ。というかやけに服が汚い。
「お前らには悪いことをしたと思ってる」
突然田中が大声で話し始める。
少し離れて“友達”に電話している豚饅頭にも聞こえたらしく、ぎょっとしている。
「高校のときは悪かった。俺は金魚のフンだったもんでよ、力が無かった。すまねぇ」
電話を終えた豚饅頭が私の隣へやってくる。
田中は不自然なくらい大きな声で昔のことを謝り続ける。
「謝っても済むことじゃねぇけど、気になっていたんだ。俺の気持ち的な問題ってやつだ、、、」




