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センメンキ・ラヴ  作者: プリティーお魚
大学一年生
22/24

越えていき、

季節は夏、秋を経た。冬のとある日のことだ。私は豚饅頭と買い物をしていた。


「もうだいぶ遅くなったよ、早く帰ろう」

「あのさ、この近くで三崎がバイトしてるんだ」

「そうなの?なにしてんの?」

「レジ打ちだね。ひやかしたい」

「レジ打ちを冷かしてもなぁ。別に良いけど寒いから急ぐよ」

「ふにゃ」

「直井じゃねぇか」


いきなり後ろから声をかけられたので驚いた。

振り返ると田中が立っている。こいつは私の行く先々にいるがストーカーでもしているのだろうか。

「さっき見かけたから後ろからつけてた」

ストーカーでもしていたようだ。

「隣にいるのは桜庭か。相変わらず可愛いな」

「久しぶり。別に興味ないけど」

「てめぇら二人揃って俺に冷たいよな。俺が何したっていうんだ」

「いや、私を飲み会に連れてって散々な目に遭わせたじゃん」

「なんのことだそりゃ」

田中はきょとんとする。豚饅頭は黙ったままだ。

「えー忘れたの?高校の時より馬鹿になったんじゃないの」

「俺はそんなことしてない。それより金貨してくんない?」

「嫌に決まってるじゃん」

その刹那、田中が急に私たちの方へ迫ってくる。豚饅頭は私を引っ張って後ろへ下がったが、田中は私のハンドバックを掴み、奪い取る。

「ちょ」

そのまま田中は走り去る。しかしそこまで速くない。

「ゆっこ、追いかけるよ」

「え」

「あんなやつにバッグとられたまんまじゃ気色悪いでしょ」

「そりゃ」

「決まり。なんかあいつ足遅いからすぐに捕まえてやる」

路地をいくつか曲がったところで田中をあっさり追いつめた。

「ゆっこのなんだから返しなさいよ」

私は息を切らし、喋れない。弓道という競技は走り込みをしないのだ。

「よようやく人気が無いところへお前らを連れてこれた」

「は?」

「お前ら、俺を助けてくれないか」

田中が一歩私たちの方へ踏み出すが豚饅頭は一歩も下がらない。

「どういうこと」

「これだよ」

田中は自分のポケットに手を突っ込み、注射器を取り出す。

「あんた…もしかして」

「溝口」

私はようやく声を出す。もしかして、だ。

「みぞぐち?だれだそりゃ」

「…」

豚饅頭は無言で私の顔を見る。

『まずい』と豚饅頭は言っている。私だって大分まずい状況に立たされていることに気付いた。

「これなしじゃあもう俺はダメなんだよ。頼むよ、もうきらしちまってやべぇんだ。早くこいつがほしい」

「分かった、協力する」

「お前本当に言ってるのか」

「豚饅頭本当に言ってるの」

「本当に言ってる。友達に持ってる人いてさ、ちょっと電話してみるよ」

「ありがてぇな」

豚饅頭は携帯を取り出し電話番号を打ち込む。

明らかに打った番号が短い。私は察し、田中の方を見る。

田中はにやにやしながらこちらを見ている。今気づいたがもう一月だというのにやけに薄着だ。というかやけに服が汚い。

「お前らには悪いことをしたと思ってる」

突然田中が大声で話し始める。

少し離れて“友達”に電話している豚饅頭にも聞こえたらしく、ぎょっとしている。

「高校のときは悪かった。俺は金魚のフンだったもんでよ、力が無かった。すまねぇ」

電話を終えた豚饅頭が私の隣へやってくる。

田中は不自然なくらい大きな声で昔のことを謝り続ける。

「謝っても済むことじゃねぇけど、気になっていたんだ。俺の気持ち的な問題ってやつだ、、、」



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