私たちは、
「ありがとう。私が私でいられたのはゆっこのおかげだ」
豚饅頭の家に遊びに行って第一声がそれであった。
夏休みになり、最後の文化祭の準備でみんな受験勉強どころではない。私は文化祭の準備どころでないぐらい豚饅頭のことを気にしていた。
「そんなことないよ、私は何も全然」
「いや、今のこうやって私のもとにいてくれる。ゆっこは優しい子なんだよ」
「でへへ」
「ふにゃ」
「ところで文化祭の準備には」
「いかない」
「ですよね」
「ゆっこ何かすんの?」
「小道具」
「じゃあ本番も見に行かなくていいや」
嘘でも役者やると言っておけば良かったか。
「大学はどうするの、そろそろ学校行かないと」おそるおそる聞いてみた。
「わたし、ニートになる!」
ブフ、とジュースを少し吹いてしまった。口の脇からオレンジ色の液体が漏れる。
「ほんとうに?」
「ほんとうだよ。そしてわたしは三崎とけっこんする!」
ブファ、とジュースを吹き出してしまった。豚饅頭にオレンジ色の液体がかかる。
「はやくないかい」
「まぁね、でもお母さんには迷惑かけたくないし、一人立ちしないと」
「いや、でも」
「今からバイトしてたくさんお金稼ぐんだ。そういや明日喫茶店のバイトの面接」
「まじか」
「親友のゆっこにだけ特別に教えてあげたんだからね」
豚饅頭が大分遠くに行ってしまった気がした。私はまぁまぁの大学に行ってあとはその後考えましょう、と思っていた。進路は大きく違えど将来像がしっかりできている豚饅頭は同い年とは思えない。
後日同じく小道具の三崎にその話をしたら「オフレコで」としか言わなかった。なんとなく嬉しそうでもあった。
帰りに私は一人でカラオケに行った。「10代女子におススメの曲」で出てきた曲を入れ、
「あーーー」
ただそう唸っていた。




