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エピソードFAINAL

 エピソードFINAL 迷宮探索部の新たなる活動


 全てが元通りになった次の日、俺は朝の通学路を歩いていた。道には制服を着た生徒たちがたくさん歩いている。

 俺も自転車に乗れば早く学園に行けるのだが、今日くらいはのんびりと歩いて学園に行きたかった。

 ちなみに家ではちゃんと母親の作った朝食を食べてきた。でも、無性にエルシアの作る料理が恋しくなるのだ。

 やっぱり、色んな意味でエルシアの料理に勝るものはないと思う。

 いずれにせよ、迷宮がなくなったと言うことはエルシアにはもう会えないと言うことだ。ナッツとの再会も叶わないし、それは辛い。

 せめてエルシアに対しては別れの挨拶くらい済ませておきたかったんだけど。そんなことを思いながら、俺はサンクフォード学園の校門を潜る。

 こうして校門を出入りできるようになったことには心の底から安堵しているのだ。でも、また学園の外に出られなくなったら、という恐怖はある。

 ま、今日は放課後になったら、本屋にでも行こうかな。久しぶりに新刊のラノベを買いたいし。

 いや、ここはルークのゲーセンに付き合うのが先かもしれない。あいつには随分と気を遣わせてしまったからな。

 とにかく、俺は戻ってきた日常のありがたさを感じつつ、季節の移り目を感じさせる青空を視界に納めながら教室へと向かった。


「よっ、ルーク」


 俺は下駄箱の前にいたルークに声をかける。すると、ルークは大きく目を見開いて、俺の顔をまじまじと見た。


「ロディじゃないか。何だか、お前から声をかけられたのは久しぶりな気がするな。はっきり言って、懐かしさすら感じるぞ」


 ルークはオーバーなリアクションをする。


「そうか?俺はこれといって意識はしてなかったけど」


 迷宮が存在していた間は、意識する心の余裕もなかったからな。でも、今は平静そのものだ。


「まあ、そういう鈍感なところはお前らしいな。だけど、今日のお前は本当に良い顔をしてるし、まるで、何か大きなことから開放されたみたいだ」


 ルークは頬の辺りをボリボリと掻きながら言葉を続ける。


「一体、何があったんだ?」


 ルークの目にあったのは純粋な好奇心だった。


「それは秘密だ。ただ、俺も部活を通して、人間的に大きく成長できたんだよ」


 俺は果たしてルークに真実を語る日は来るのだろうかと思いながら口を開く。


「まっ、本当に開放されたような気分になるためには、中間テストを乗り切らなきゃ駄目だろ。俺も親からは良い点数を取ったら、小遣いを増やしてくれるって言われてるし」


 そう言って、俺は久しぶりに家に帰った俺を出迎えた親の顔を思い出す。

 まあ、親も俺がいない間は寂しい思いをしていたらしいし、だから、そんな言葉も出て来るのだ。


「違いない。俺もお前の良い顔に免じて、深くは追求しないことにしてやるぜ」


 ルークも俺に合わせるようにニヤリと笑う。


「それはそうと今日は久しぶりにゲーセンにでも行かないか?昨日、臨時の小遣いも貰ったし、思う存分、付き合ってやるぞ」


 俺は心が弾むのを感じながらそう言っていた。それを受け、ルークはきょとんとしたが、すぐに歓喜の笑みを浮かべた顔をする。


「よっしゃ。やっぱ、そうこなくちゃ面白くないよな。お前が部活をやり始めてから、一緒に帰ったこともなかったし、正直、物足りなかったんだ」


 なら、ルークには悪いことをしたな。


「そうだったな。ま、今までの埋め合わせは今日してやるから、お前もそのつもりでいろよ」


 久しぶりのゲーセンだし、とことん楽しもう。


「おう」


 ルークは胸を反らしながら返事をした。


                   ☆

 

 昼休みになると、俺はルークと学食でチキンソテーを食べる。それから、図書室に本を借りに行こうとしたが、急にスマフォが振動した。

 俺は何となく嫌な予感がしたが、スマフォをポケットから取り出す。届いていたメールはジェイク会長からのものだった。

 しかも、今から生徒会室に来て欲しいと書いてあったので、俺は逸る気持ちを胸に生徒会室へと足を向ける。

 そして、生徒会室に足を踏み入れると、そこにはジェイク会長と迷宮探索部の部員が全員いた。

 どこかバツが悪そうな顔をしたベティーやマクミラン先生もいる。俺は何事かと思い、ジェイク会長の顔をまじまじと見た。


「何の用ですか、会長?」


 俺は寒気を感じながら尋ねた。生徒会室に漂う空気もどこかピリピリしているし、何を告げられるか怖い。


「迷宮が復活した」


 会長は真っ直ぐ俺の顔を見据えながら言った。


「冗談でしょ?」


 俺は目を白黒させる。恐れていた悪夢がまた襲いかかってきたのだ。今度は誰が黒幕なんだ?


「冗談などではない。俺がデモットに頼んで復活させて貰ったんだ。これでローグライト君たちだけでなく、俺やベティー君も迷宮に入ることができる」


 ジェイク会長は、いつもは畏まっている顔で笑みを広げると言葉を続ける。


「もちろん、学園から出られなくなるという制約はなしだ」


 ジェイク会長は付け加えるように言った。それを聞き、俺は安堵すると同時に、沸き立つようなものも感じていた。


「私は止めたんだけどね。でも、ジェイク君はどうしても迷宮に足を踏み入れなければ気がすまないんだそうだ。ま、私だって迷宮の中が、どんな風になっているかこの目で見たくないと言ったら嘘になるが」


 マクミラン先生は大仰に肩を竦める。


「これは単なる俺の我が儘だ。だからこそ、君たちを巻き込むつもりはない。だが、あれだけのことがあった後だ。迷宮が復活したことは、きちんと伝えておかなければならないと思ってな」


 ジェイク会長は滑らかな声でそう説明する。こう真摯な態度を取られると俺も何も言えなくなる。


「そうですか」


 まあ、学園から出られるなら、俺たちが困ることはないけど。


「とにかく、君たちは俺のことなど気にせず、普通の生活をしてくれて構わない。迷宮探索部の部室も、そのまま自由に使ってくれて良いし」


 ジェイク会長はそう言ったが、迷宮が復活したと聞いて気にするなと言う方が無理があるだろう。

 俺としても迷宮への未練は綺麗さっぱりと断ち切りたかったのに。


「だから、今は俺の好きにさせてくれ」


 そう言って、ジェイク会長は俺たちに向かって頭を下げた。これには俺もやれやれと大息を吐くしかない。


「分かりました。ただし、会長が迷宮に入るには条件があります」


 俺は生真面目な顔で言った。


「聞こう」


 ジェイク会長も一歩も退かない。


「迷宮探索部に入ってください。そして、迷宮の探索では、必要とあればいつでも俺たちの協力を仰いでください。それが俺の提示する条件です」


 俺は淀みなく言うと、みんなの方を振り向く。


「みんなも、それで良いだろ?」


 俺はどこか呆れたように笑っているみんなを見た。


「うん。会長が一緒にいてくれるなら迷宮の制覇も夢じゃなくなるし、僕がそれを阻む理由はないよ」


 レクスの言葉には何の含みもなかった。


「私も。しっかり者の会長には迷宮探索部の部長も務めて貰いたいくらいだし、期待しちゃうな」


 アンジェリカの言った通り、迷宮探索部には部長がいない。一応、俺がリーダーみたいな形になってるけど、その座を明け渡すことに抵抗はないし。


「アタシも会長が迷宮探索部に入るのは賛成よ。でも、その代わり部費はもっと増やしてよね」


 エレインは悪戯っぽく笑った。


「会長が決めたことなら、私がとやかく言うつもりはないわ。私たちも会長には散々、お世話になったし、今度は私たちが協力する番ね」


 イリーナはどこまでもストレートな物言いをする。

 そうだよな、会長が俺たちのためにしてくれたことを考えれば文句なんて言えた義理じゃないよな。


「ありがとう。そういうことなら、俺もローグライト君が提示した条件を受け入れる。これからは部員同士、協力し合おう」


 そう言うと、ジェイク会長はほっとしたように口元を綻ばせた。ジェイク会長も、こんな笑い方ができるんだな。

 そう思っていると、ベティーが今までには決して見せなかった力強い声を発する。


「私も今度は勇気を出して、みなさんの役に立って見せます。どうか、償う機会を私に与えてください」


 ベティーもジェイク会長に習うように頭を下げる。償いなど、誰も求めてないのはベティーも知っているはずだ。

 だが、ベティーも自分なりの筋を通したいのだろう。もちろん、そんなベティーの言葉に異議を唱える者は誰もいなかった。


「よし、そういうことなら、みんなで協力して迷宮を制覇してやろうじゃないか。その方がこれからの学園生活も楽しくなりそうだしな」


 俺はみんなの心を一つに纏めるように言った。それを聞いた、みんなもいつになく良い顔をして笑っていたし。

 こうして、サンクフォード学園・迷宮探索部の活動が新たなメンバーを加えて、再開されることになったのだった。



(終わり)


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