其の壱 行くへも知らぬ
新シリーズです
面白く読んで頂けたら光栄です
人間界とは別に、天界というものが存在していて、人間界のさまざまなことの管理をしている。
祈りを統べる白秋、人ならざらん者を統べる朱菊、人の生死を統べる萩、己の殺めを統べる黒蘭、そして全ての人間の歩みを統べる瑠星
これらの組織があって、人間は生きていけるのだ。
黒蘭部署
署長室にて、
「何で!何で日向さんが出てきたんですか!アイツはオレの担当だったはずです!」
「まあ室坂、少し落ち着け、俺、今書類書いてるから、」
黒髪の男に怒鳴っている色素の薄い髪の男は室坂光、そしてそれを困ったように笑いながら聞いてるのは日向文哉、日向は部屋にある大きな机に向かって書類をまとめている。
「何で…「室坂、静かにって言っただろ?」
書類を書き終えた日向は立ち上がり騒がしくしていた室坂をじぃ…と睨み付ける、普段は怒らない彼がきかせた睨みは室坂を黙らせるのには十分だった。
「だったらさ、こっちも聞かせろよ、なんで何時も仕事が出たら直ぐこなすお前が、期限ギリギリまで、この……春日君を処分しなかったんだ?」
「っ……」
「俺じゃなくとも、普通の人間なら…ああ俺らは人間じゃないか、普通の奴なら、処分出来ないなにかがあるんだろうな、って思うだろ。」
だから俺が片付けた、室坂に反論をさせることなく日向はそう言った。
「それとも、なんだ室坂、春日クンに惚れてたんか?」
「!ふざけんな、…オレは、」
「その反応からすると図星か、でも可哀想だな、オーバードラックにしろ首吊りにしろ、遺体を損傷させずに自殺する方法はいくらでもあるのに、お前がギリギリまで延ばすから電車に轢かれて、下半身切断なんて、可哀想な死にかたさせて、なぁ?」
そう言いながら日向は書類の近くに置かれていた地元新聞を眺める。
そのページには○×線で飛び込み事故、高校生が自殺か、とあった。
(そんな死にかたにしたのはアンタだろ!)
室坂は思わず口に出そうになった言葉をつぐんだ。
「…失礼しました。」室坂が部屋を出ていこうとすると、日向に呼び止められた。
「あと室坂、俺だからいいけど、上司への言葉遣いには気を付けろよ」
室坂はその言葉に「善処します」とだけ答え部屋を後にした。
室坂は苦い顔のまま黒蘭部署を出て本部の中央ホールを歩いていた。当然だが本部ともなると、黒蘭の人間だけではなく白秋、朱菊、萩、あと殆ど見当たらないが瑠星の姿も見える。
食堂にでも向かおう、そう思いながらふらふら歩いていると、室坂に黒い姿が近づいてきた。その姿は室坂に気づかれることなく後ろにピッタリとくっつくと右手で肩をポンポンと叩き、その後手の人差し指を室坂の顔へと向けた。それに気づかない室坂は叩かれた右肩の方へと顔を向ける。
ぷに、室坂の右頬に指が刺さり、ようやく室坂は自分の背後にいた存在に気づいた。
「やーいやーい引っ掛かった引っ掛かったー!!」
「テメー麟!いきなりやるんじゃねーよ!」
「いきなりやらないと意味がないだろ?光はいつも僕に膝かっくんするんだからおあいこ!」
室坂に近寄り、引っかけをしたのはシスター服を身に纏った萩部署の曽根麟、室坂の幼なじみである。
「光、どこに行くんだ?」
「食堂、お前も付いてくるか?」
「なら、僕も付いてってやるよ」
「上から目線うぜえ」
そんな他愛ない会話を交わしながら二人は食堂に向かった。
昼のピークも過ぎた時間だったので二人はすぐに空いたテーブルを見つけることができた。
二人とも席について暫くは自分の頼んだメニューを食べるのに夢中だったが、曽根の言った「光、なにかあったのか?」の言葉で会話は始まった。
「なにかって、なにがだよ?」
「んー何て言うか、変、何か…寂しそうに見えるから」
やっぱりコイツには敵わない、室坂はそう思った。どんなときでも自分の気持ちにいち早く気づいてくれるのは目の前にいる麟だったと思い出した。暫く会っていなかったこともあって忘れていたらしい。
「……あーやっぱお前には気付かれんのな、仕事のことでな、ちょっと」
「上司からのパワハラとか?」
「ちげーよ、今日処分した人間のことで、オレがどうしてもその人間を処分出来ずにいたら上司が処分しちまって……って麟、どうした?」
室坂が話してた途中からずっと曽根はなにかを考えているような顔をしていた、そして恐る恐る室坂に尋ねた。
「もしかして…春日君?」
「そうだけど……何でしってんだ?」
「聖母の遣いとして担当の人間の名前を知ってるのはジョーシキ!これ萩のポリシー!…あー!だから担当から消えてたんだ…」
曽根はビシッ!と室坂に指を差しながら言うとしんみりと自分の担当の人間が書かれているのであろうファイルを取り出して、きっと春日蒼の文字が書かれていたのであろう所を何度もさすっていた。
「……悪かったな、お前の担当を処分しちまって、」
「はあ?なーに言ってんだ!?バカ光、僕と光の担当がダブったのは偶然、ましてや瑠星が春日君を自殺するようにしたのも偶然、そんな偶然の責任を光はとるのか?バカみたいだろ。」
「……そっか、バカみてーだな」
「まあ、光は元々バカだけど、」
言ったなテメー!と、子供のような小さな言い合いが始まった。
暫くたって、二人とも言い合うことがなくなったあと、
「やっと笑った、光はそうやってバカみたいに笑ってる方が似合ってる」
「バカバカうるせーよ!……でもありがとな、」
「解決したならそれでいいよ、僕は先に行くね、早速、春日君の分の空きが埋まったから、新しい命の誕生に立ち会ってくる」
「へいへい」
ありがとなー、という室坂の声を聞くと曽根は嬉しそうに、
どういたしましてー!
と言いながら食堂を後にした。
暑い、というのが車を降りた日田亮之助の感想であった。
高校を卒業した後大学に進学し一人暮らしを始めた日田はお盆休みに両親に会い、家の墓参りに向かった。家の墓は少し遠いので車で何時も向かっている。
車に乗ってる間はいいが、降りてからはまるで地獄のような暑さだ。そういえば今年は近年稀に見る酷暑らしい、
「…!…カ…シテ!」
(……ん?)
聞こえるのは風が木葉を揺らす音と、蝉の鳴き声、の中に何かの音が混じった、まるで人の声のような……
「亮、はぐれるわよ」
「はいはい、はぐれたりなんかしないから」
後で調べるか、そう思いながら日田は自分の家の墓へと向かった。
「父さん、俺自分で帰るから先家に向かってていいよ」
「そうか、夜には晩飯だからな、亮が帰ってくるからって母さんが張り切ってたからそれまでには帰ってこいよ。」
「わかった」
そう言って見送り、二人が乗った車が見えなくなると先ほど声が聞こえた方へと歩いていった。
完全に声を頼りに探していたが案外早く見つかりそうだ。近づけば近づくほど声の内容もしっかり聞こえてくる。
「ダシ……ココカ…、ダシテ!」
(出して?どこから、というかいったい誰だ?)
そんな疑問を浮かべるも、今更引くのも癪だ、そう思いながら日田はさらに声の方へ歩いていった。
探すこと数分、日田は声の主を探すことができた。その声の主は、とても生きているとは思えない状態だった。いや、これは幽霊か何かだろうと日田はそう思った。
声の主は外見や服装からするとまだ若く、高校生くらいの印象を受ける。上半身はきちんとあるが下半身は見当たらず、胴体の切れ目からは臓器が垂れ落ち、血が下の石畳にボタボタと落ちている。墓の敷地に見えない壁でもあるのかずっと出たそうに凄い勢いで、ガラスならもう割れてるんじゃ?というほど強く叩いていた。そしてその声の主は日田の姿を見るなり
「だして!おねがい!おれがみえるんだろ?だして!」
と必死に叫んでいた。
日田亮之助はオカルト好きである。が、オカルト現象を体験したことはなかった。実際に体験し、軽いパニック状態になった彼の対応は
「落ち着いてください、一体どうしたんですか?」
と幽霊に話し掛けることだった。
すると効果があったのか幽霊は動くのを止めた。見えない壁に叩き付けていた両手も下ろし、俯いてぽつぽつと話始めた。
「おれ、死んでこんな姿になったんだ、名前もわかんないし、何で死んだのかもわかんない、だけどおれ、誰かに会わなきゃいけなかった気がするんだ」
この幽霊、叫びながら見えない壁を叩き付けていなければ随分大人しいんだ、日田はホッと安心した。そして幽霊の言葉について考えた。
(誰かに会わなきゃいけなかった、か……)
というかどうやってそこをでるんだ?という疑問が頭に浮かんだが、日田は一先ず聞いておきたいことがあった。
「誰かに会いたい……それは自分の名前も死んだ理由もわからない、幽霊の姿になってでも、会いたいってことだよな」
「うん、あわなきゃいけないって思う、分かるんだ」
「でもその人が幽霊の視えない人間だったら、何も伝えられない、何も出来ない、それでもここからでたいのか?」
日田がそう聞くと、幽霊はそれは考えてなかった、といわんばかりにオロオロしはじめた。どうやら完全にそのことは頭になかったようだった。
暫くたった後、幽霊は日田の方を向くと、
「それでもいい、きっとその人に会えたらおれ、多分満足できるから、そしたらきっと、成仏できるよ」と言い、へにゃっと笑った。
(最初は悪い霊か何かだと思ったが、違う…みたいだな)
そう目の前にいる幽霊のことを信頼すると日田はもうひとつ質問をした。
「ならいい…でもどうやってそこから出るんだ?」
拳で殴るわけでもあるまいし……とずっと考えていたのだが、幽霊から返ってきた返答は随分と簡単なものだった。
「人間がこの壁に触ってくれればこれは壊れるぞ」
「それだけなのか!?…まあ、やってみるか」
いつの間にか幽霊への怖さはなくなっていた。慣れは凄いもんだな、と日田は思いながら見えない壁に触れた。
瞬間、パアッと白い光が墓を、壁を、幽霊を包む、日田は眩しさに耐えられず目を瞑った。
暫くすると嬉しそうな幽霊の声が聞こえた、目を開くと、三角のアレがないのと死に装束でないこと以外は正しくThe幽霊と言うような姿の幽霊が宙に浮いていた。血やらが零れていた上半身の断面は黒いモヤモヤしたものに隠れていて見えることがなくなっている。
「やった!出られた!!」
「……会いたい人の、なにか手掛かりでもあるのか?」
「……全くない、」
……だろうと思った。日田はうーうー、と唸っている幽霊にこんな提案をした。
「なら、俺と一緒に居るか?当てずっぽうに探すよりかはマシだとおもうが」
「いいのか!?なら、一緒に居させてくれ!」
「…あぁくれか、はいはい、俺は日田亮之助、よろしく」
「よろしく!おれは…えーっと、春日って苗字はわかるけど……」
「別に苗字でいいだろ、よろしく、か…
日田が春日、と言い終わる前に、何処からかすすり泣き声が聞こえた、気が付くと二人の前に、貧しい身なりの少女がいた。
少女はうつむきながら、ボソボソと話始めた。
「いいな、おともだち、いいな、わたしはひとりぼっち、だれもいない、ここから出られないの、ねえ、おにいちゃん、ここからだして、おねがい、いのちをちょうだい、おねがい、おねがい」
いつの間にか回りには沢山の霊がいた。
皆年齢はバラバラだが、その誰もが痩せ細り、先ほどの少女と同じく貧しい身なりをしていた。
「いのちをくれ、たましいをくれ、よこせ」
と、どの幽霊も口々に言いながら、だんだん二人のもとへとゆっくり歩みを進めていく。
「日田!囲まれてる!」
「わかってる、目当ては俺の魂か、」
「死ぬなよ!?おれが一人になる!」
「うるさい、でもどうしたら…」
円になってよってこられているので既に逃げ場はない、じりじりと二人に寄っていた幽霊の一人が日田の腕を掴もうとした時、
「 …祓へ給へ 清め給へ 守り給へ 幸はへ給へ…」
という凛とした声が墓地に響いた。すると二人の回りにいた幽霊たちは苦しみだし、サラサラと砂になり、消えていった。
日田と春日はなにが起こったかわからず、固まっていた、が自分達が助かったということが分かると、ぺたんとその場に座り込んだ。
「怪我はないか?」
「さっすが海!そこの幽霊君、さっきのは一応悪霊にしか効かないハズだけど大丈夫かな?」
そう言いながら二人に歩み寄ったのは葵色の神主服を身に纏った短い黒髪の男と、左胸に白い桔梗模様、茜色の綺麗な着物を着崩し、裸足姿の翠掛かった同じく黒髪の男だった。
「あ、大丈夫です、ありがとうございます…」
「さっきのあれってなんなんですか!?」
「あれはこの墓地に埋葬されてる無縁仏が悪霊になったものだ」
「痩せてたし、飢餓かなんかで死んだのかなぁ、二人が羨ましかったんだと思うよ、」
「羨ましかったって?」
「…まぁ、立ち話もなんだし、詳しい話はうちの神社でしよう、時間はあるか?」
そう言われ、日田がスマホで今の時間を確認すると時刻は二時半、夕飯はいつも7時だったからまだ十分時間はあった、それを告げると四人は神社に向かって歩き始めた。
「…あの、着物の方って、幽霊ですよね…」
歩き始めて数分、沈黙を破ったのは日田だった。先頭にいる二人に緊張が走ったように感じる。
「何でそう思ったんですか?コイツが幽霊だと、」
「…単純に裸足でいるのがおかしいのと、最初に俺たちに話し掛けたとき、まず春日の心配をしてたからです、幽霊の心配を真っ先にしてるのは、同じ幽霊だからかなって」
そう日田が答えたあと、暫くして着物の男がブフッと吹き出して笑い始めた。
「ほら、やっぱすぐばれたじゃん!アハハハ!!」
「うるせえ!お前が裸足でくるからだろーが!小堀も言ってただろ、下駄かなんか履けって!」
後ろにいた二人は、前の二人の変わりように暫し頭が追い付いてなかった、まるで2008年モデルのパソコンがフリーズしたかのように
「痛っ!殴ることないだろ!海の鬼畜!!」
「勝手に言ってろ!…騒がしくてすまない、人間じゃないってのは正解だけど幽霊ではない、ニアピン賞位だな、」
「あ、はい」
「なんか賞もあえたぞ日田」
「俺は座敷わらし!一応神と位置付けられているぞ、ほら、証拠に着物の胸の所に桔梗の柄、柄が入っているヤツは皆神なんだ。」
「コイツの名前は鹿苑寺常共、昔助けたことがきっかけで神社に住み着いてる、あと留守番してるのがもう一人いるな、着いたら紹介する。」
「よろしくな!んで、こっちは我が神社の現当主、海桜雪、年齢20、ちょっと前、初めて酒呑んだら吐いてもう呑まないって誓ってた、けど、次の日にはまた呑んでた。」
「あ、俺は大学生、日田亮之助です。19なんでまだ呑めません。」
「おれは春日、年齢、名前ともにわかりません。」
「日田と春日か、よろしく、鹿苑寺は後で殴るとして…もうすぐ着くぞ」
ほら、と海が指差したのは80段はあろうかという石畳の階段だった。
「ひゃー!海さん!おれ、先にあがってていいですか!?」
「ああ、いいぞ」
「春日は羨ましくなる位元気だな」
「…見えない壁をずっと叩き続けられる位には元気ですよ。」
「それどんな状況?」
「まあ、アイツには脚がないからな、移動速度も俺たちとは違うんだろうな」
そう海が言った後、うえから「うわあぁあぁあ!?」という日田にとってはもう聞き慣れてしまった声が聞こえた、が、上まであと10段足らずということもあり、三人は特に春日のことは気にせず、ゆっくりと階段を上がっていった。
「あ、海~この人お客さん?俺を見るなり動かなくなっちゃったんだけど~」
「ああ、客だ、蛇女が珍しいからだろう。あと二人に自己紹介しとけ、俺らもやった」
上がって、飛び込んできた光景に日田は固まった。
海と会話している人物は若草色の着物を纏った普通の男性のように見えるが、足元を見ると脚があるはずの所には脚がなかった、代わりに蛇の尾が見え、移動するたびにズルズルと音をたてていた。その人物の近くにいる春日も先程までの騒がしさはどこへやら、脚を見たまま動けなくなっている。そしてその人物は春日を抱えると、日田の方へ向かってきた。
「君もお客さんかな?はい、連れの人返しておくね、俺は蛇女の水無柊也…あ、蛇女とはいっても男だよ!二人が騒がしいと思うけど、よろしくね。」
春日を水無から受け取った日田は固まった。先程とは違う意味で、騒がしい鹿苑寺の相手で騒がしい海、その二人の抑え役、良心的存在に出会え、安心したからだった。
「…えーと、海ー、中にお通しする?」
「そうだな、そうするか、」
「なら俺、御菓子と麦茶用意するー!」
「お二人とも行きましょうか。」
そう水無に言われ二人が付いていくと神社の本殿、の奥にある家に案内された、板張りの廊下を歩き、外の景色が見える和室に通された。
「みずなしーわたつみー御菓子水羊羹でいいー?」
「えーっと、それで問題ない…ですか?」
「あ、はい、大丈夫です」
「春日も食べるだろー?」
「鹿苑寺、お客様には敬語を使う、」
「おれも食べます、ありがとうございます!」
何故か春日が、敬語を使ったとき、スゥ…と和室の襖が開く音が聞こえ、海が入ってきた。
「遅れてすまない、早速話そうか」
「海、敬語」
「大丈夫、この二人はさっき知り合ってな、墓地で無縁仏の悪霊に襲われてた所を助けたんだ、いろいろ質問されたんだが立ち話もなんだし、っていうことで連れてきた。」
「あーそういうことだったのか、なら少しは気を抜いてもいいんだね、鹿苑寺ーお茶と御菓子5人分ねー」
「もう用意してるから大丈夫ー」
「…もう、…所でお二人の名前を聞いてもいいかな?さっきききそびれたもんだから」
「俺は日田亮之助、大学生です。」
「おえは春日、幽霊です!」
「あははっ、俺はさっきも紹介したけど水無柊也、ここの使用人みたいなもんかな、宜しくね、二人とも」
そう水無が二人に向かって笑うのと同じタイミングで再び襖が開き、盆を持った鹿苑寺が入ってきた。
「持ってきたよー」
そう言いながらてきぱきと水羊羹と麦茶を一人一つずつ目の前に置いていく。そして最後の一つは自分の目の前に置き、自分の横にお盆を置いて座った。
それぞれが水羊羹を食べ始めた時、海が日田と春日に向かって質問をした。
「さっきのことについて聞きたいことはないか?」
「…あのときの幽霊は無縁仏が悪霊になったもの、でいいんですよね」
「おれたちが羨ましかったってのが気になります」
「春日みたいに、幽霊になっても人間に構ってもらえれば、他の幽霊たち……特に無縁仏たちは嫉妬するんだよ」
「元々、飢餓でどんどん人が死んでくこともあってろくに供養もされず、埋葬された、そんな霊は現世を恨み、悪霊にもなりやすいんだ」
「そういうことだ、死んだとき、この世や人物なんでもいいが、恨みが強ければ強いほど、悪霊になる可能性が高まる。」
と神社の三人は見事な連携で早川の質問に答えた、ちなみに上から鹿苑寺、水無、海である。
「ちなみにおれはどんな種類の霊なんですか?地縛霊とかですか?」
「地縛霊だったら死んだ場所に出るもんだ、浮遊霊だな」
「へー!だからおれ、うかべうんだぞーにちー!」
「何で略すんだよ」
「この方が言いやすいからいいだろー?」
「別に構わないけど」
賑やかな会話が弾み、全員の水羊羹が無くなった後、
「日田、ちょっと来てくれ、」
「あ、はい」
お前たちはに神社の中でも案内してこい。海はそう二人に言って日田と和室を後にした。
二人は、神社に上がる階段の方へ移動した。
「悪いな、ちょっとお前だけと話したくて、早速質問する、あの幽霊はなんだ、どうやって知り合ったんだ?」
「幽霊って、春日のことですか?自分の墓から出られなくなってたのを助けたんです。」
「もう少し詳しく頼む」
急に春日との馴れ初めを聞かれ、驚きはしたが日田はあのとき助けてもらうまでのことを全て笠松に伝えた。
「……多分その壁は何かの想いの呪縛だろう、春日自身か、あるいは別の誰かの想いが壁を作り出したと思うが……日田、壁の中に居たときの春日の眼はどうだったか覚えてるか?」
「眼、というと……?」
「悪霊はこの、白目の部分が黒くなる、覚えていたらでいいが、一応知りたい」
「…白目の部分……上から黒い水が垂れてきたようになってました、丁度半々位だったと思います。」
「悪霊になりかけていた位か、あと、春日の所に行くきっかけは、声が聞こえたからなのか?」
「はい、誰かの声が聞こえたので」
「………、あり得ないんだよ。それは」
「あり得ない?、俺は本当に聞こえたから…」
あり得ない、そう否定されて少なからず日田は動揺した、実際に聞こえたものを否定されたからだろう、その様子をみて海は訂正をした。
「言い方が悪かったな、壁は、他の誰かが、春日を守りたい、あるいは生前守れなかったから、今度は守れるように…みたいな想いから生まれるもんなんだよ、稀に幽霊自身が作り出すこともあるがな。
あの壁に守られた幽霊は誰の眼にも見えることはない、勿論声も聞こえない、本職の俺でも見るのは不可能…のはずなんだが、」
「それが見えて、聞くことができる人間が居た、ということですか。」
そしてそれが俺だと、そう日田が言うと海はそうだ、と答えた。
「なにかの才能だろうな…何もバイトしていないのなら神社に住み込みで働くか?部屋もいくつか余ってるし、人間の手伝いが居るのは助かる。」
「…ならお願いします。」
「決まりだな」
そう言えば神社の名前を言ってなかった、と海は言うと本殿を背に再び口を開いた。
「ここは日和見神社、色んな霊やら妖怪やらの引き起こす問題解決を生業としている、そして俺はここの九代目神主、海桜雪だ、よろしくな、新入り」
「よろしくおねがいします。」と日田が言うと、二人は本殿にいる三人の元へと歩き始めた。
おしまい
おまけ
「そう言えば、なんで海さんたちはあの墓地にいたんですか?」
「近所の住民から墓地から、毎晩子供の泣き声が聞こえるから何とかしてほしいって依頼がきたから」
「それ、絶対俺達が会ったヤツですよね、」
「…まあ、子供の霊もろとも退治したから問題ないだろ」
「ええぇぇ……」
「鹿苑寺さん、幽霊って、人間に触れるんですか?」
「霊が視える人間には触れるぞ、だから海にはいつもボコられるし、それがどうかしたのか?」
「なんでもないっす!」
「あまり海を困らせるなよ、鹿苑寺…」




