◯◯ライダーになった男
ヒーローになりたかった。
子供の頃からあこがれて──だけど僕はもちろん、ヒーローになんてなれなかった。
だけど、かなわぬ夢を忘れることもできず、そのまま命を使い切り死亡。
気がつくと異世界にいた。
今度こそ夢をかなえられると期待したんだけど。
──与えられた異世界の才能は、戦いになんか全然向かないものだった。
だけど──僕は、あきらめきれなかった……。
ヒーローになりたい。
あの日の夢は命を越え、世界を越えてもいまだ僕の胸の中にあって……。
■ ■ ■ ■
ルナワイト。
そんな名で呼ばれるナゾのヒーローが現れたのは、数年前の王都だった。
紳士の馬と呼ばれる魔導二輪車を颯爽と乗りこなし、悪人を倒して去っていく。
機動性の高さゆえに神出鬼没で、誰もその正体を知らない。
『わたしは正義のシシャ、ルナワイト!はびこる悪は捨て置かない!』
その装備から魔導二輪車の開発元であるソルト商会の関係者が疑われたが、該当者がおらず。
しかし今日も高笑いと共にルナワイトは王都の夜を駆ける──。
「ルナワイトさま──」
婦女子たちは憧れ、吟遊詩人たちはその活躍を各地で語り、舞台の演目まで生まれて大ヒット。
それがきっかけになり、とうとう本当に王都の治安が改善していった。
いうまでもないが、ひとりのヒーローが徒手空拳で王都全体の治安を改善なんてできない。
だけど「兵士だけでなく、強いヒーローが治安維持協力者として巡回している」という印象は意味があった。
兵士たちも彼を不審者とせず、むしろ好意的に連携した。
活動を続けるうち、とうとう割に合わないと考えたのか、裏社会までも王都での商売を縮小しはじめた。
それは誰もなしえなかったこと。
王都の治安は本当に改善していったのである……。
■ ■ ■ ■
錬金術と付与魔法を駆使してサドルつき電動キックボードみたいなのを作り発売した。
動力源には電力でなく魔力を選んだ。
馬か馬車がメインでこういう乗り物のない社会には、それでも十分にいい刺激になったみたいだ。
やがて気がつけば、もっと自転車っぽいのからオートバイっぽいのまで色々開発されていた。
こちらの人間は魔法が使えない一般人でも、生活魔法や身体強化などで普通に魔力を駆使している。
捨てられるような小さなクズ魔石と組み合わせると、立派に近距離用の移動のアシが作れたんだ。
僕には戦う力なんてない。昔も今も。
だけど、自転車すらないこの世界に新しい乗り物を提供することができた。
いやそれだけではない。
もともとバイク好きだったので、この世界にもバイクが誕生するきっかけになったらって気持ちもあった。
結果は予想以上のものをもたらした。
基礎技術を隠さず、むしろ独占防止のために特許制度を利用したのが見事にうまく働いた。
いろんなところが思い思いの乗り物を作り、売り始めた。
そしてついに、本当に魔導駆動のオートバイが生まれてしまった。
もちろん購入し、バラして研究し、さらに自分の技術にも取り込んだのはいうまでもないのだけど──。
あれ、もしかしてコレって──アレができるんじゃね?
そう思ってしまった。
アシスト自転車があれば、遠くまでラクラク行くことができる。
ならば、身体機能を広くアシストする仕組みがあればどうよ?
めちゃめちゃエネルギーを食うかもだけど、稼働時間を絞ればどうよ?
そうして生まれたのが──。
『稼働準備完了』
「変身!」
掛け声とともにベルトにモジュールをセットすると、ベルトの変身システムが稼働する。
そして光に包まれて、しばらくして自分の姿を鏡で確認したんだけども。
「……仮面ライダーというより宇宙刑事だよなぁ」
ま、見た目はどうでもいい。
重要なのは筋力も耐久力も数倍、ごく短時間なら66倍まで跳ね上げる魔導倍力システムだ。やっと完成した。
それを実現するにはどうしても全身をガードする必要があるし魔力チャージも必要だけど、気がついたらホント宇宙刑事みたいな格好になっちゃった。
いや、これはこれでかっこいいと思うけど、移動がバイクだからなぁ。
「っ!」
誰かの悲鳴。
反応を探ると、ひとりの女の子を大勢の男で襲ってるっぽい。
ふむ、とりあえず駆けつけてみるか。
僕はヒーローにはなれない。
だけど、それっぽい偽物程度なら──。
「そこまでだ!
わたしは正義のシシャ、ルナワイト!はびこる悪は捨て置かない!」
僕は一度死んだ。
「シシャ」は使者だけど、内心こっそり「死者」の意味も含めてる。
いいんだ、それで。
それが僕なんだから──。
■ ■ ■ ■
ある世界線で、オートバイの祖にあたる男。
といっても彼は有名人でもなんでもない。
彼が生み出したのは都会で馬の代わりに使うもので、サドルと大径タイヤをつけた魔力駆動の電動キックボードみたいなものだった。
だがこのアイデアは現地の鍛冶師や付呪師を技術的に、そして商人たちの商魂を激しく刺激した。
同時に彼が試作していた原始的なベアリングやチェーンの考え方も、彼自身の思惑を越えて多くの人が改良と試作を繰り返すことになり。
そして気がつけば、気軽に都会を駆け回るモビリティたちはかの国の顔にもなり。
やがて最終的には、かの世界にオートバイ文化を生み出す源流となった……というのが真相である。
さらにいえば、このモビリティを駆使するひとりの男も有名になった。
魔力駆動の異様な全身鎧で身を包んだその男は町を駆け回り、弱者を虐げるような小悪党を倒し兵士に回収させ、ナゾのヒーローとして有名人だったのだがその正体はずっとナゾとされていた。
だが近年、事情をしる人の日記や、かの人の隠し部屋の発見から、彼がその正体だったと判明したのである。
たったひとりで王都の治安向上に貢献した彼だけど、その功績に対して彼の知名度は低い。
彼本人は、ひとりの魔導技術者として、町の修理屋さんとして生涯を過ごした。
なぜ功績を宣伝せず、自分を技術者として商会に売り込みもしなかったのか。
そして関係者たちも、彼を高く評価しつつも囲い込みはしなかったのか。
それらの調査が今回、ヒーローであった証拠の発見により、おぼろげながら明らかになった。
つまり彼の素顔は「ヒーローに憧れつつも転生した元異世界人」だったのだと。
ルナワイトは現地の古語で、日本語に訳すと「月からきた者」という意味になる。
最近見つかった日記の文からも、彼が前世で目にし、耳にした異世界のヒーローたちの強い憧れと敬意がうかがえる。
しかし彼本人は戦闘スキルを全くもたなかった。
だから彼は、ならばと移動のためのアシと、全身を包む倍力機構つきの戦闘鎧を開発したのである。
そんな彼であるが、実は治安維持関係者のトップや国王なども彼の正体を知っていたらしき記録がある。
だがそうした関係者は彼の夢を微笑ましく思い、そしてその夢のためにそれぞれ、少しだけ貢献した。
治安維持者は、彼の正体について笑顔で口をつぐみ。
権力者は、見なかったことにして「好きにさせてあげなさい」と言い。
一部の商人は、燃料用に使えると聞いてクズ魔石をたくさん寄付したり。
そうした小さな善意の積み重ねが、彼を守っていたと思われる。
今も彼の知名度は決して高くない。
だけど彼のお墓は季節ごとに献花され、かの国の学校の教科書には、彼の開発モビリティと彼の笑顔が載っているのである。
ヒーローといえばオートバイに乗るもの。
そんな彼の小さな異世界譚でした。




