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異界漂流者の物語  作者: hachikun
95/95

せーれー3

おひさしぶりです。

 異世界に行く、送られる、漂流する話は数多くあり、多くの民が異界にわたっている。

 だが、彼らの全てが目立つ活躍をするわけではない。むしろ目立たぬようひっそりと生きるのが大多数であるが、それでは物語として地味だし、何よりこの手の異界物語を好む子供たちにウケが悪いのだ。たとえ非常識だろうとバカだろうと、危険に自ら飛び込んで死にかけるような者がそういう物語では王道とされている。


 では、そうじゃない異界漂流者はどうなのか?

 今日もここに、そんな人物のひとりを紹介しよう。

 その者は、ナツ。

 かつての異界漂流者であり、今はひと柱の精霊と成り果てた者である。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「うっわー、えらいことになってるな」

 ひとの世に出てくるなんて本当、何年ぶりだろう。

 ちょっと友達に頼まれて荷物を届けに行く途中なのだけど……まさかのお約束。

 僕は隠れて『戦場』を見ていた。

「まさか、魔族vs人間の戦いに遭遇するとはね」

 ちなみに人間側が一方的に攻め込み、それを魔族が撃退している構図だ。

 変わらないなあ。

 かつて僕がこの世界に召喚された時、召喚した国のクソ王どもは「魔族は世界を滅ぼそうとしている」とかふざけた事言ってたよなぁ。

 まったく、ちゃんちゃらおかしいよね。

 世界を滅ぼそうなんて大それた事を考えるのは、無限の貪欲さで、自分らの住む世界すらも食い尽くそうとする人間だけだと思う。

 精霊になってから魔族にも会ったけど、魔族って典型的な生物的強者なんだよな。

 ライオンはサバンナを支配しようとなんてしない。自分らの群れが平和ならそれでいい。

 そういうものなのだ。

 

 お、人間族が撤退していく……ありゃ今回は戻ってこないだろうな。

 そんじゃあ戦いはおわりってことで、僕も一度撤退しようとしたのだけど。

 

「花の精霊?なにかいるとは思ったがめずらしいな、迷子か?」

「!?」

 

 うわお、指揮官らしき魔族のひと。

 どうやら、めっちゃバレてたらしい。

 

 うん。

 とりあえずここは、正直にいうのが一番だろう。

 

「僕はナツ、ご指摘のとおり花の精霊です。

 迷子ではなくて届け物を頼まれてたんですよ。戦闘にビックリして見物してましたが」

「ははは、花の精霊には刺激が強すぎたか。しかし届け物?」

「ええ──友達に頼まれて、魔都のワーン・ルーガスってドワーフのおっちゃんに素材の届け物なんですよ」

「ワーン・ルーガス?……ああ、もしかしてルーガ工房の工房長かな?」

「あ、はい、そのひとです……ご存知なんですか?」

「知ってるもなにも、俺の武具はルーガ工房でメンテしてもらってるからな」

 自分の鎧をポンポンと叩く魔族。

「面白い偶然……いや精霊なら偶然ではないか。

 よし、いいぞ。ルーガ工房だな、連れてってやろう」

「え、いいんです?都についたら探しまわるつもりだったんだけど?」

 そういったら、魔族は苦笑いした。

「それはいろんな意味で勘弁してくれ。

 俺の本業は都の衛兵長なんだ。

 花の精霊なんて存在が無防備でウロウロしていたら、一部のやつに悪い気を起こさせちまう」

「……なるほど了解」

 どうやら、いきなり良い人にぶつかったらしい。

「だけど、なんで衛兵が防衛戦してるの?」

「たまたま交代中だったからだな」

「ふうん」

 

 魔族は個人主義で好きなところで好きに暮らしている。

 だけど、さすがに無人の荒野で暮らしているようなのは、それができる魔族だけだとも聞く。

 普通の魔族は人間同様、街暮らしなんだとか。

 ま、そりゃそうだよな。

 頭ではわかっていたけど、実際に見るのは初めてだよなあ。 

 

「しかし花の精霊が届け物ねえ。……なるほどな、フフフ」

「?」

「いや、なんでもない。さあいこう、こっちだ」

「はーい」

 

 

(衛兵の日記より抜粋)

 人間族のバカどもを追い払っていて、その子に気づいた。

 なんとそれは、森の花園で平和に暮らすという花の精霊だった。

 遠目に見たことはあるが、こんな間近で見るのははじめてだった。

 

 きけば、街のルーガ工房に頼まれものだという。

 当初は精霊に化けた魔族の子かと思ったのだけど、スキルで解析してみれば一目瞭然だった。

 そう。

 たしかに花の精霊であるが、ヒドラをはじめとする竜種の加護がこれでもかとついていた。

 しかも驚くなかれ、さらに『竜族の友』なる称号まで保有していたのだから。

 

 これは、あれだろう。

 噂にきく、変異が近づいている精霊というやつだな。

 精霊はココロのありようで姿を変える。

 おそらくこの精霊もやがて、花の精霊ではなくなるのだろう。

 

 驚いたけど、そういう事ならわかる。

 ただし鍛冶素材は重い。

 彼でも持てるもの、つまり情報か、あるいは輸送の先触れか。

 またはアイテムボックスもちで、本当に言葉通りに彼が届け物をしているのかは知らないが。

 どちらにしろ変な他意はなく、本当に工房に用があるってことでいいんだよな。

 

 工房に送り届けると、なんとワーン・ルーガス本人が出てきた。

 興味深いのもあり、そのまま見学させてもらったんだが驚きの連続だった。

 

 依頼人はなんと竜族の里で、希少素材のてんこもり。

 彼はアイテムボックスもちで、驚くべき量の素材が出てきた。

 中でもヒドラ素材があるのには驚いた。

 彼は花の妖精だけどヒドラの友達で、今回も彼に乗せてもらって西の山脈を超えてきたと。

 ただヒドラが街に近づくと大変なことになるので、山脈の麓でひっそり待機しているのだとか。

 

 ああなるど。

 あっちで魔物たちに動きがあると連絡があったが、彼が原因だったのか。

 待機場所が遠いのも、山脈のそばなら住人も強いので問題ないと考えたのだな。

 なるほど、たしかに問題ない。

 ただ、さすがに心配なので、帰りは誰かをつけたほうがよいだろう。

 なので帰り道には調整して──結局、俺が山脈の麓まで送っていくことになった。

 まぁいいが。

 あのあたりは若い頃、よく行っていたからな。

 ふふふ。

 ちょっと楽しみかもしれん。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 ナツという名称は花の精霊だけでなく竜精霊にも使われていたが、同一個体という説は眉唾とされていた。

 なぜなら怠惰きわまる花の精霊に比べ、竜精霊は単にタイムスケールが長いだけで、動き出せば怠惰ではないからだ。

 だけど、最近見つかったいくつかの日記などで、花の精霊ナツが変化していった可能性が指摘された。

 そしてその理由も、明らかになっていった。

 

 現時点の結論からいえば、ナツは今も花の精霊であり、やはり、のんびりと生きている。

 だけどヒドラの友達ができたことをきっかけに、竜族とのつきあいができた。

 平時はやっぱり怠惰な花の精霊だけど、たったひとりの友達のためなら動くこともあるようで。

 とあるドワーフの日記にもこうある。

「エルフどもは彼がいずれ花の精霊ではなくなるだろうと言っているが、それはどうかな?

 うるさいうちの工房でも、用がなければ隅っこで寝ていた。

 たしかに友達思いのいいやつだ。

 だけど、あいつの本質はどこまでいっても筋金入りの花の精霊だろう」

 


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― 新着の感想 ―
お久しぶりです。 続編が読めて嬉しいです。
おひさ~
かつての「かけてもいい。おまえは百年たっても花の中で寝てるだろうさ」は正しかったですね
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