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異界漂流者の物語  作者: hachikun
92/95

養女

あけましておめでとうございます。

実は年末ちょっと前からコロナでした。とんでもないクリスマスプレゼントでした。

この年末年始は実家に戻る用があったのに……やれやれです。

まだ復活してないですが、復活したら一度休みとってもどらないとダメかも。

 異世界に行く、送られる、漂流する話は数多くあり、多くの民が異世界にわたっている。

 だが彼らの全てが目立つ活躍をするわけではなく、むしろ目立たぬようひっそりと生きるのが大多数。

 しかしそれでは物語としてウケが悪い。

 そんなわけで、王道とされる主人公たちは、否応がなしに非常識な活躍をさせられている。

 

 では、そんな主人公たちではない大多数の人々はどんな異世界生活をしているのだろう?

 今日もそのひとりを紹介したい。

 その者の名は、ヤスコ。

 異界漂流者である。

  

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 とある国で、ひとつの公爵家がお家騒動を理由に家内を刷新する事件が起きた。

 使用人はもちろん家族まで残らず刷新され、残ったのは当主と庭師だけという凄まじい徹底ぶりだった。

 妻は離縁されて実家に戻された。

 しかもその理由が、妻が養女や使用人たちと組み、実娘を殺害したという信じがたい理由によるものだったのである。

 ありえないことだ。

 それだけでなく、当の夫人が慈悲が服を着て歩いているような女性で有名だったのも衝撃を与えた。

 つまり誰かが夫人を騙し、家をめちゃめちゃにさせ、実娘すら殺害させたのだと。

 内容の凄まじさもさる事ながら、その凄惨な事実を全く隠さずに公表したのも異様だった。

 つまりそれは、こんなの氷山の一角にすぎないという、特に国内に向けてのアピール。

 このような事態を招くような要因をこれから徹底排除するという、一種の宣言なのであった。

 

 

 直接の原因となったのは、その家で養女にした平民の娘だった。仮にマリナと呼ぼう。

 マリナは非常にかわいらしい容姿をしていたが、物心つく歳になる前から笑顔と涙で人心を操る天才であったという。事実、公爵家に来るまで彼女は天涯孤独だったはずだが、なぜか血色もよく健康的だった。あちこちから調子良く食べ物をもらい、寝場所を確保して生きていたのだと思われた。

 公爵家夫人は昔からとても優しいと言われていたが、その優しさは貴族の良い部分だけを煮詰めて作られたような、悪くいえば極めつけのお花畑であった。

 そんな夫人に取り入り、まんまと公爵家の養女になる事に成功したマリナは、その庇護下にある立場を最大限に有効活用して権力を広げていった。

 夫人も、屋敷の使用人たちも、彼女の口先と涙で味方につけていった。

 反面、努力ということが嫌いなのか、貴族令嬢としての勉強などは全くしなかった。

 

 公爵家には実娘がひとりいた。仮にリーリアとしよう。

 リーリアは外交畑の父の才をそっくり受け継いだような優秀な子であったものの、おかしな状況になっている家の状況をどうにかするほどの力はなかった。年齢を思えば当然といえば当然だった。

 だが、いくら夫人に危険を諭しても無意味なのを早い時期に悟ったリーリアは状況に見切りをつけた。そして父親と、それから貴族院にも状況を通報した。

 この行動は後に、公爵家そのものの立ち位置にも大きく影響することになった。

 

 令嬢になるのだからと、その立ち振舞いや言動などでマリナに注意するリーリアの言葉はまったくの正論だったのだが、それを夫人は「かわいそうよ」とたしなめるだけでマリナを逆につけあがらせるだけだった。

 リーリアはそれを非常に問題視していたが、夫人には効果なし。

 それどころか、このまま社交界デビューの歳になったら、マリナが元凶で公爵家没落もありうるとまじめに警告するリーリアの言葉を夫人は理解不能な目で見るようになり、ついにはリーリアの方が公爵家で孤立しはじめた。

 そんな夫人をみた使用人たちも調子に乗り、リーリアを嘲笑したり世話の手を抜き始めた。

 実娘なのにリーリアの居場所はなくなっていった。

 事実上、養女のマリナが公爵家の実権を握ったのである。

 当主が外交畑の人で留守がちなのをいいことに、それこそ文字通りの好き放題をはじめたのだった。

 

 それだけでも大がつく問題だが、公爵家を牛耳ったマリナは思い上がり、公爵家を名実ともに自分のものにしようと動き出した。

 というのも、時折戻ってくる当主が、明らかに実娘であるリーリアだけ、かわいがる行動をとるのが気に入らなかったのだ。

 リーリアさえ始末してしまえば、公爵家の娘は自分だけ。

 そうすれば未来は自分のものだ。

 この国には女当主もいるときいているし、なんなら王族に嫁げばこの国でさえ自分のものだと。

 マリナは有頂天になっていた。

 

 何もかもうまく行っていると、ひとは次第に大胆な行動をとるものだ。油断とも言う。

 マリナは手っ取り早いという理由で、令嬢として生きるなら絶対やってはならない事をした。

 彼女はスラムのごろつきどもを、人を介することで金で雇った。

 そして、うまく言いくるめた使用人を使い、リーリアを身一つで屋敷から締め出したばかりか、その孤立無援状態のリーリアを、ごろつきどもに襲わせたのだ。

 生粋の貴族令嬢が、本当に家から物理的に追い出されて生きていけるわけもない。締め出され、家に入れず、呼んでも誰も来ない。それだけでもパニックものだった。

 その状態で、さらにスラムのごろつきに襲われ、力づくで連れ去られたのだった。

 

 結果は言うまでもない。

 2日といくらかあとに、リーリアと思われる娘がスラムで死亡しているのが発見された。

 衣服はすべて剥ぎ取られ、全身に乱暴狼藉の跡があった。

 その顔は薬で醜くふくれあがっていた。死に顔をさらしたくないという、この地域の令嬢用自害薬の影響だろう。

 さらに誰かが殴る蹴るしたようだが、現場の遺留品と鑑定で本人と判明した。

 

 だがリーリアの悲惨な死には、最後のダメ押しまでついていた。

 公爵家の騎士団を名乗る者たちが、権力をふりかざして遺体を連れ去ったのだ。

 たしかに彼らは公爵家に属していた。夫人の命令で動く者たちだった。

 夫人はリーリアがいない事に3日もたってから、ようやく気づいた。

 それから捜索隊を出したわけだが、マリナから情報共有を受けていた彼らは捜索などせず、まっすぐに治安部隊のところに押しかけた。貴族令嬢と判明して治安部隊から貴族院に引き渡されようとしていたリーリアの遺体を強引に連れ帰ったのである。

 帰ったリーリアを迎えたのは、悲しげな夫人。

 夫人は「リーリアちゃん、勝手に外に飛び出して遊び歩いたうえに殺されるなんて……」と皆の前で泣いた。

 それでも実母ですからとリーリアの遺体を葬り、貴族院には病死の届け出を、そして夫にもリーリア死亡の手紙を書いた……こちらには、マリナをいじめ抜いたあげく外で遊び歩き、スラムのごろつきに殺されてしまった、私はリーリアの教育を誤ってしまったと後悔に満ち溢れた手紙を書いて。

 ……その後ろに、満面の笑みを浮かべるマリナがいた。

  

 

 そんな無残な令嬢惨殺劇だが、マリナの思い通りになったのは、そこまでだった。

 娘の死亡を何かのトリガーにしたかのように、あらゆる状況が急加速で動き出したのだった。

 

 

 外遊中のはずの当主だが、いつのまにか国に戻り王都で活動していた。

 当主は即座にあらゆる証拠の保全を行った。

 当主邸を閉鎖し、公爵家と全く関わりのない部門の兵士たちで固めて誰も出入りできないようにした。

 さらに貴族院や監査などにもすでに手が回っており、たちまち執行のための兵力も集められた。

 

 次に夫人を実家に返した。理由は、養女と組んで実娘を殺害したとした。

 驚いて反論しようとする妻に当主は告げた。

 

「高位貴族の娘を護衛もなく外に放り出した時点で事実上の殺害だ。

 勝手に出ていった?ハ、よくぞそんな白々しいことを。

 こちらの手の者が、あの娘と使用人たちが叩き出し、施錠して家から締め出したのを確認している。連れ去ったスラムの男どもも娘が金で雇った連中だった」

「な、そんなことマリナちゃんがするわけがっ!」

「ほほう、つまりベルラ、おまえは王家の審議官と監査官がウソをついてると言うつもりか?」

「か、監査!?」

 夫人はお花畑ではあるが貴族令嬢である。監査の意味くらいは理解できた。

「しでかしたのはあの娘と丸め込まれた使用人たちだが、そんな状況になるまで理解できないわけがない。

 わかってて放置していたのだからおまえも同罪だぞベルラ」

「え、あの、いったいなにを?」

 愕然とした顔の妻……しかしもう当主はただ、言葉を続けるだけだった。

「おかげさまで、わが公爵家はボロボロだよ。再構築には何十年かかるかもわからん。爵位をひとつ落とす事になるかもしれんな。

 養女を使って実の娘を虐待し、あげくに汚して殺害し、我が家を没落させるのは楽しかったか?

 ベルラ、これで満足したか?

 それとも、わたしも殺害して我が家を完全に滅ぼしたかったか?」

「あ、あなた、わたくしはっ!!」

「何があなただ、娘殺しの重罪人が」

 当主は怒るでもなく、ただそう告げただけだった。

「ああ、わたしは間違っていたよ。そもそも、おまえなどを心優しい娘などと勘違いして結婚してしまった事からね。

 おまえの実家には後日、我が家が受けた損害に値するだけの賠償請求を出す事になる。

 楽しみに待っているがいいさ」

 

 当主は夫人に甘い人で、そのお花畑な性格を知っていたし多少の事なら軽く嗜める度量のある人物だった。

 しかし、さすがに実娘を殺された時点で目がさめたようだった。

 

 たしかに夫人は積極的に娘殺しに加担していないだろう。

 だがやっていた事は、事実上の加担だった。

 実娘が家で孤立化していくのを、かばうどころか逆に娘に「姉なのだから折れろ」と諭した。

 その態度が使用人たちの実娘軽視化を加速させていくのを全く理解せずだ。

 娘が食事を一緒にとらなくなったのも、そもそも使用人たちが食事を用意してないとは夢にも思わなかった。

 そのくせ、引き取ったマリナがおかしな行動をとっているのに、平民で苦労したかわいそうな子だからと甘やかす。

 当主が留守の間の代理として彼女がするべきは、正しいのに家の中で孤立しがちの実の娘を守る事だったのに。

 なのに彼女は正反対の行動をナチュラルに取り続け、フォローも一切なかった。

 

 最後の数ヶ月に至っては、公爵家中の誰ひとりとして実娘であるリーリアの世話をしていなかった。

 当のリーリアは実家で過ごすことをとっくにあきらめ、貴族学校の寄宿舎で生活し、実家へは必要な時に立ち寄るだけの生活だった。

 しかしその状況すらも夫人は知らなかった。

 いや、リーリアに何度か「ここにいても誰もわたしの食事を出してくれない」とハッキリと言われても、それでもなお、本当にガチで食事が出されていないと理解できず、また理解しようともしなかった。

 だからこそ、娘がいない事すら全くわからなかったのだ。

 

 無知は罪とは厳しい言葉だが、夫人の場合、無知は罪どころの話ではなかった。

 子をもつ母としても、当主が留守の時の代理当主としても、ありえない裏切りで背信行為だった。

 母として子供だけでも、あるいは当主代理として家だけでも、そのどちらかでも守っていれば、まだ救いはあったのに。

 彼女は即座に実家に送りつけられた。離縁状と罪状を記した王家発行の書類つきで。

 実家の方では彼女の幽閉を決めた。

 貴族籍も剥奪され、表向きは病死……おそらくいつか、忘れられた頃に本当に始末されるのだろう。

 

 

 使用人は全員、死罪となった。

 貴族は特権階級であるが、その特権には理由があり、そして絶対守らねばならない最低限のデッドラインもある。

 公爵家の侍女は基本、配下の貴族家の娘ばかり。

 つまり彼らがやったのは『主家殺し』であった。

 貴族社会だからこそ、主家殺しは絶対にありえない、あってはならないことだった。

 当主でないという反論も出たが、リーリア嬢はすでに次代第一候補として貴族院に登録ずみだった。

 この場合、国の法律では準がつくけど間違いなく主家殺しにあたる。

 事実上の公爵家乗っ取りという事情もあり、忖度一切なしの死罪という非常に厳しいものとなった。

 

 娘たちは「いやよ、なんでわたしが」「お父様お母様助けて!」と泣き叫びながら処刑されていった。

 唯一の幸いは、彼女らの実家がこれに関わっていなかったことか。

 各家の者たちは娘たちを勘当しつつも、それでも愛娘の冥福は祈った。

 貴族としての娘は罪人かもしれないが、せめて親として娘を送らせてほしいと。


 マリナに味方したり、操られていた者たちも捕縛された。

 通常なら死罪にまでは至らない場合もあったが、相手が公爵家令嬢という時点で反論の余地なく死罪となった。

 

 最後にマリナ当人も改めて逮捕された。

 貴族子女でなく、平民の貴族殺しとして領都で公開処刑となった。

 また公爵家の強い要望で聖職者の参列も認められなかった。娘は死刑囚でももらえる最後の祝福すらも与えられず、泣きわめきながら死刑台で首を切り落とされた。


 こうして事件は痛ましくも決着を迎えた。

 

 当主は、たったひとりで公爵家の再構築をした。

 隠居にするはずだった家を公爵邸にし、罪の家と化した公爵邸は大きすぎる事もあり廃棄とした。

 仲のいい分家から有志の応援を頼み、旧使用人唯一の生き残りだった庭師の老人も移り住んだ。

 死んでしまったリーリア嬢の代わりに、生前の娘と仲が良かったという背格好のよく似た分家の娘を養女とした。

 娘は当主がいずれ婿として家に入れようと思っていた青年のいとこでもあり、ふたりを結ばせ、もういない娘の代わりに家を継がせることにしたのだった。

 そして当主自身は「こんな問題を起こしたのだから」と後妻をもらう事はなかったという……。

  

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「最近この手の話、なんか多くない師匠?」

「そうね、景気が悪いのかしらね……けどこの家の場合、ご夫人がちょっと問題ありすぎだったと思うわね。

 どうしてご当主は、彼女に留守中の全権を与えたのかしら?

 ご夫人には何もさせず、有能な執事あたりに全部を握らせとけばよかったのに」

「んー……師匠、たぶんそれ無理」

「あらどうして?」

「そういう使用人も全部抱き込まれたんだと思う」

「あー……もしかして夫人のせい?」

「うん、あんな病的なお花畑の下だもん、みんな元々やりたい放題してたんだと思う」

「使用人の質かぁ……そんなにひどい?」

「うん、見るからにひどい」

 大人の事情などはさっぱりわからない能天気な弟子だが、ご令嬢だけあって使用人の質を見抜くのはうまかった。

「変なのに任せたら服をダメにしたり、こっちがしんどい時に狙ってきっつい事してくるんだよ。こっちを上と見てないから、すぐマウントとろうとしてくるしね。こわいよーアレな使用人」

「うげ、そうなんだ……あんたも大変ねリーナ」

「わ、師匠、わたしは子供じゃないから!なでんな!」

「あはは」

 師匠はそんな弟子の頭をなでた。

 

 そこは、問題になった国とは隣国の、さらにお隣にある国。

 精霊使いの授業の一環として遠見で状況を見ていた女精霊術師と、その弟子である魔族混じりの娘である。

「それにしても師匠」

「なに?」

「あのご当主、なんで娘さんが亡くなるまで手をこまねいてたん?もっと早く手を打てなかったのかな?」

「打ってたわよ」

「……へ?」

「養子にした分家の娘さんいるでしょ?」

「うん」

「ウンじゃなくて、ハイね」

「はぁい」

「あはは……あの子、殺されたっていう娘さん本人よ。国もちゃんと把握してるわ」

「え、なななんですとぉっ!?」

「リーナ、精霊にたずねてごらんなさい。ちゃんと教えてくれるから」

「うやわわわ……あ、ほんとだ」

 精霊に確認してみたらしい娘──リーナが目を丸くしていた。

「師匠、これどういうこと?」

「たぶんご当主と娘さんの策略ね。最初からあの養女を排除するつもりだったんでしょう。

 分家の娘さんというのは偽装用の架空の人物でしょう。暗殺対策で別の身分を用意してあったんでしょうね。

 ふふふ、さすがは公爵家よね」

「え、じゃあ奥さん離縁したのも?」

「あー、夫人と使用人はたぶん想定外でしょうね。

 ご当主としては養女の人が事件を起こし、それを理由に本人を平民に戻す旨を夫人にも納得してもらうつもりだったんでしょう」

「それって……夫人が当主の想定以上におバカで、取り返しのつかないところまで踊らされてしまったってこと?」

「そうね。

 そもそも、同じ家にいる自分の実娘の不明に3日も気づかないなんてありえないわ。

 ご当主が外交畑で家に戻らないことを思えば、そんな人、切り捨てて正解でしょうね」

「あー、たしかに……アレ、でもじゃあ、実際に襲われてなくなった女の子は誰?」

「たぶん暗殺者か何かの遺体ね」

「暗殺者!?」

「リーナ、娘さんがお父様だけでなく国にも通報したの見てたでしょ?

 偽装工作はお父様と国の担当が絡んでると思うわ。

 アイテムボックスって生きてる人はダメだけど死体は入るし、入れてる間は時間が止まるでしょ?

 だから数あわせとか、こういう時の偽装工作に使うんですって。

 娘さんと背格好の近い死体をストックしてあって、それを使ったのね。

 襲われてどうこうってあたりも幻惑魔法で演出したのね」

「うわぁ……ん?」

 そこでリーナは、何かに気づいたように眉をしかめた。

「あのー師匠」

「なあに?」

「アイテムボックス使いって、すんげえ希少だよね?」

「ええ、そうね」

「師匠って異世界人で、アイテムボッあだっ!」

「りーな♪」

 ヤスコは、リーナの頭をぽんと叩いて言葉を止めた。

 そして笑顔で。

「なにすんだ師匠!」

「リーナ、そういうのはいいの。魔法のお勉強の邪魔でしょ?」

「で、でも、やっぱりししょ(もがもが)」

 そして口をふさいだ。

「りーな♪」

「(もがもが!)……」

「ね?リーナ?」

「……はぁい」

 そしてリーナはヤスコの笑顔に、何か言いかけた口をやっと閉じたのだった。

  

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 精霊術師ヤスコは単に精霊術に明るいだけでなく、さまざまな人に影響を与えた。

 ヤスコを慕う者というと半魔令嬢ことリーナ嬢が有名だが、実際まるで母親のように懐いていたというのが記録に残っている。

 そしてヤスコの方だが、彼女は当初、押しかけてきたリーナ嬢を普通に弟子としてかわいがっていた。

 だけどリーナ嬢が魔力こそバカでかいが、その本質がとても魔族的個人主義なのに気づいてからというもの方針変更。

 彼女が強力だけど天真爛漫な魔道士として、養子先のツワンカール辺境伯家で大切にしてもらえるような育成方針に切り替えた。政治的なことには当人は関わらせず、そういうのはまわりに任せるようにと。

 そうしたヤスコの育成方針がツワンカール家の興味をひいたのか、ヤスコはツワンカール家の実子の教育も頼まれることになった。

 それは最終的に、研究生活者だったヤスコを外に引きずり出したばかりか、武門の家だったツワンカール家に魔道の風を吹き込んだ先生としてヤスコの名を広めてしまう結果にもなったのだった。

 


 なお、本件をヤスコとリーナ嬢が精霊経由で見ていた技術はいわゆる『過去認知』だとされているが、実際の事件にヤスコが関わっていたかは、結局はぐらかされてしまったという。

 記録も残っておらず、未だにナゾのままである。


前回のヤスコ嬢と、前回の話でチラッと出ていた魔族混じりのヒロインちゃん(リーナ)の話です。

魔族まじりといっても実際は小妖精系で、魔に長けてはいる反面、めっちゃ個人主義で貴族令嬢にはあまり向かない性格。ヤスコは彼女の性格そのままに、愛し愛されることで養子先の家に気に入られるように教育をしていた。

そうした矢先の事件でした。


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