表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界漂流者の物語  作者: hachikun
64/96

こっそり抱えた大きな秘密

 異世界に行く、送られる、漂流する話は数多くあり、多くの民が異界にわたっている。

 だが、彼らの全てが目立つ活躍をするわけではない。むしろ目立たぬようひっそりと生きるのが大多数であるが、それでは物語として地味だし、何よりこの手の異界物語を好む子供たちにウケが悪いのだ。たとえ非常識だろうとバカだろうと、危険に自ら飛び込んで死にかけるような者がそういう物語では王道とされている。

 では、そうじゃない異界漂流者はどうなのか?

 今日もここに、そんな人物のひとりを紹介しよう。

 その者の名はメイ。

 異界漂流者である。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 住まわせてもらっていた家が火事で消失した時、私の人生は大きく変わった。

 メイドの娘であった私は家に立場がなく、ただ政略結婚の相手として都合がいい、ただそれだけがこの家における価値だったが。

 母が重傷をおい、私も体に傷を負った。

 私を見た父親……名前だけの父であったがこの家の当主である男は、瀕死の母と傷ついた私に「もう必要ないので、どこへでも行け」と明快に言い切った。

 母はその言葉を聞いて、フッと悲しげな顔になって。

 そして私を見て、何か(・・)つぶやいて……そのまま亡くなってしまった。

 

 さて。

 母の魂がどこかに去っていくのを確認すると、私は母の遺体を抱き上げた。

「了解いたしました。

 ではたった今から私は平民となり、アスガルド伯爵家とは無関係となります。

 家名だけでなく、リリティアの名も必要ありませんので、こちらも『正式に返却(・・・・・)』いたします。

 あと母につきましては、娘である私がしかるべき場所に葬ります。それでは」

 名前まで返したのは怒りのためではない。

 リリティアの名はこの男に与えられたものであり、縁を切るなら名前も切り捨てるべきだ。

 ゆえに、正式に返却(・・・・・)した。

 どうも理解されなかったようだけど、かまうまい。

 そういうと、遺体を抱いたまま歩き出した。

 

 この世界の基準で成人に達する私だが、正直いって母と私はほぼ同サイズだ。

 その母を抱き上げて歩き出した私に、何か不審なものを感じたのだろう。

 父であった男は眉をよせ、そして声をかけようとした。

 だがその前に、私は焼けた家の中に入った。

 

 彼らから見えない場所に入った瞬間、母の遺体をアイテムボックスに収納した。

 そして、即座に転移魔法を構築させた。

 ……次の瞬間には、私は、粗末な小屋の中に移動していた。

「……ふう」

 ためいきをついた。

 

 ここは、私の『ひみつの修行場』。

 この世界(・・・・)が、生前遊んだゲームによく似たスキルシステムを持っている事に気づいていた私は、かなり早期に隠密行動や転移に関するスキルや魔法を覚え、修行場を探してこの小屋を確保した。

 え?

 そんな事ができるなら、家にとどまる事もできたんじゃないかって?

 んー……母が健在なら、その選択肢も考えたんだけどね。

 それに母の最後の笑顔と言葉の意味は……こうだった。

 

『あなたの好きにしなさい』

 

 あー、うん……隠れて何かしてるのは気づいてたのよね、母さま。

 前にも、どこかから確保してきた魔術品とか教科書を知らん顔で渡された事があるし。

 ただ、何をしているのかは、あえて関知しないってスタンスみたいだった。

 口に出してしまえば母の立場的に、止めないわけにはいかなくなるから。

 

 そこまでわかっていたからこそ。

 最後の母さまの言葉も、読み取れちゃったんだ……。

 

 泣いてる時間もないなんて。

 けど、母さまの遺体はアイテムボックスの中、時間を止めている。

 どこか落ち着ける場所についたら、改めて埋葬するつもり。

 

 それに今は、私自身のために動かなくちゃいけない時。

 味方なんていない。

 どんなにショックでも、座り込んで泣いていたら好き放題され破滅するだけ。

 今は、なんと言われても動くしかないんだ。

 

 ゲームと現実は違う。

 よく似たシステムが採用されていたって、さすがにゲームのように高効率なパワーアップなんてできるわけもない。

 ゲームなら死んでもやり直せるけど、現実には無理だからね。

 だけど、スキルツリーや鍛錬法を知っているって事が、どれだけ大きな武器になったか。

 事実、この十数年という時間で、私は生き抜くのに十分な力と情報を集める事に成功したのだから。

 

 いよいよこの時がきた。

 

 髪を短く切り、旅装に着替えた。

 うん、こうして見ると少年で通るかな……この時だけは豊満でない体型に感謝。

 丸くなってきたら隠しきれないだろうけど、今なら何とかなる。

 え、なんで性別隠すのかって?

 若い娘が一人旅なんて知られたら、それだけでまずいでしょうが。

「……あら」

 屋敷……焼けた私たちの家でなく伯爵家の本宅の方だけど、そちらに残してきた使い魔が、おもしろい会話を拾ったようだ。

『高位魔法の痕跡だと!?』

『転移魔法を含む、いくつかの高位魔法の痕跡があります。しかもリリティア嬢の魔力の記録と一致いたします』

『馬鹿な、あの娘には生活魔法レベルの魔力と技術しか……いやちょっと待て、魔力の記録だと?』

『ご指摘の通り、屋敷の書斎など、いくつかの場所に、ほかのご家族と異なる魔力を検出していたのです。

 リリティア嬢のものと一致しておりますが、いやに強い痕跡なので担当が首をかしげていたのです。お教えいただいている魔力と技術のレベルと釣り合いませんので。

 それが今回、裏付けがとれた次第です』

『……呼び戻せ!いますぐだ!』

『居場所がわかりません』

『探査魔法を使え!魔力と名前があれば使えるだろう?』

『それは無理です』

『なぜだ?』

『術式が名前に反応しないのです。

 おそらくですが、リリティア嬢はリリティアの名を正式に放棄なさっています』

『ばかな!どうやって!』

 あははは、慌ててるあわててる。

 そんなに慌てなくても、ちゃんと目の前で『返却』したじゃないの。

 

 名前はその人の魂や加護などと結びついており、捨てられないと言われている。

 それは、たしかにそのとおり。

 けど、わたしにソレは通じない。

 なんでかって?

 こういうことよ。

 

【メイ・ララタイヤ】※未確定

 種族: 人間

 性別: 女

 通名: メイ・ララタイヤ(第一名)、水無月涼(第二名)、リリティア・ディー・アスガルド(放棄済み)

 称号: 屠殺場の悪魔(メイ・ララタイヤに付随)


 なんでこうなっているのかって?

 このメイ・ララタイヤってやつと物騒な称号、前世でやってたゲームのやつなんだよね。

 メイが名前で、ララタイヤは当時の所属ギルド『TS女子商会』での統一ファミリーネームね。

 

 生前記憶を取り戻すまではたぶん、私の本名はリリティアの方だったはず。

 だけど記憶を取り戻したことで、私の名は3つ。リリティアの名は第三位になった。

 そして今回、リリティアを正式に放棄宣言した事で名前としての効力が消滅したってわけ。

 

 けど、これは伯爵家も悪いんだよ。

 

 本来、名前の放棄っていうのは簡単にできることじゃない。

 書斎で読んだ『命名について』って本によると、前世記憶のある人物は時々生まれるらしい……けど、前世の名前のほうが命名の上位に来るなんてのは、普通はありえないんだって。

 生まれついての私生児とか事情で名前が奪われたとか、そういう場合に限られるらしい。

 

 つまり。

 貴族の娘なんて立場にあるのに、その娘としてもらった名が最下位って時点で色々とおかしいのよね。

 しかも簡単に捨てられちゃうっていうのは……『リリティア』としての私自身が、この世界にちゃんと認識されていないってこと。

 他ならぬ私自身に、名前が根付いてなかったってわけ。

  

 旅立ちの準備を整え、外に出た。

 遠くにひとの集団の気配がしたので、その気配を追いかけて驚いた。

「これ……」

 まさかの、伯爵家の追手だった。

 ここがバレていた?

「いやたぶん違う、これは……まさか魔力追跡!?」

 転移すれば当然、ニオイなどは辿れない。

 だけど転移魔法はその性質上、残滓の魔力を解析すれば行き先を確認できる。

 でも、この世界でそんなスキルをもつのはほとんどが獣人族。

 人種差別のひどい人族国家では一般的なスキルじゃないと思ってたけど……油断した!

 しかも。

「高速移動魔法まで……なりふりかまってないわね」

 とんでもない速さで迫ってくる。

 移動魔法の構築は、間に合わない……いえ、おそらく転送妨害もかかってる。

 

 これは。

 ただの逃げた貴族の娘相手に、こんな事するわけがない。

 それはつまり。

「アスガルド伯爵邸襲撃犯リリティア!ここまでだ!」

 ははぁん、なるほど。

「なるほどなるほど、無実の罪かぶせてまで確保しようってわけね」

 こちらが使えるとわかった途端に、ここまでするのね。

 あーあ……。

 ええわかった、わかりましたとも。

 もう手加減なんてしない。

 そっちがそうなら、こっちも真面目に相手してあげる。

「『装備変更、第2モードへ』」

「!?」

 ゲーム時代のフル装備に、迷わず変更した。

 懐かしい装備とスキル構成。

 

【頭】星魔の輪(魔力増強、必要魔力節約)

【胴】覇者の鎧(HP自動回復)

【手】剛力篭手(腕力増強)

【脚】俊足具足(アジリティ上昇、跳躍力増大)

【武器】神殺しの大剣(対神魔特効 + 対軍攻撃スキル『ソードシャワー』)

 

 これ、記憶が戻った時にはアイテムボックスに入ってたのよねー……。

 まぁ当人のレベルが追いつかなくて、わりとつい最近まで死蔵してたんだけどね。

 

 ネットゲームでレイド戦や戦争で使うこの装備、間違いなく現状では「やりすぎ」だ。

 村人相手に迫撃砲と重機関銃でお相手するようなもの。

 けど、ためらわない。

 私は苦笑しつつも、押しかけてきた連中にハッキリと告げた。

「あなたたちが何を言われて来たのか、私は知らないし興味もない。

 だが、ここの結界入り口の警告を無視し、破り入り込んだ時点で──!」

 とんでもない方向から飛んできた数本の矢を、左手で弾き飛ばした。

「よし、これで反撃の大義名分は揃ったわね」

「!?」

 私の身長に近いサイズの、巨大な剣を背中から引き抜いた。

「この剣が気になるの?

 言っとくけど、あんたたち如きのレベルじゃ使うどころか拒否されて死ぬだけよ?

 この剣はね。

 伝説(エンシェント)古代竜(オールド・グレイ・ドラゴン)って超弩級の化け物を、たったひとりで何日もかけて倒した、頭のおかしいお馬鹿さんだけに与えられる特別報酬なの。資格のある当人以外は装備どころか、触れただけでも死んじゃうんだよ?」

 これは本当だ。

 持ち主である私の場合、レベルが足りなくても扱えないだけだ。

 でも、私でない者が装備しようとしたら、おそらく死ぬ。

「おまえたちは武器を抜き、魔法を使い、ひとを殺めようとした。

 ならば当然、反撃を受けて死ぬ覚悟はできているはず。そうよね?」

 そういうと、巨大な剣をビュンっと、わざと大きく振り回して構えた。

 

 今の攻撃と、振り回した時の音。

 大剣っていうのはその大きさに比例しておそろしく重たいもので、普通は男でも振り回す事すらできないもの。

 まともな剣士なら、目の前にいるのが女の姿をした、普通じゃない存在と気づくはず。

  

 でも彼らは誰も気づかない。

 ……ダメだったか。

「『殺戮結界発動(キリングフィールド)』」

 背後で誰かが、おそらく報告か連絡用の魔道具を使おうとしたので、空間ごと封じ込めた。

 これは一種の封印結界で、私自身が解く

 でももちろん、説明なんかしてやらない。

「あんたたちが来た事で、私も覚悟を決めたわ。

 穏便に立ち去ろうと思っていたけど、やめた。

 ええ、感謝しなさいよ。

 世界中追い回されるのはごめんだからね。

 出ていく前に、追手を綺麗サッパリ皆殺しにしていく事にするわ」

 そう言うと、剣をかまえた。

 おそらく完全な過剰戦力だけど、全然かまわない。

 リハビリをかねて、全力全開でお相手してあげる。

「いったい誰を相手にしたのか、その身に思い知らせてやる!!」

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 伝説の魔女メイ。

 ご存知のようにその逸話は数多い。

 だが、いかにも魔女らしい逸話のほとんどは後世の創作であることがわかっている。

 その実態だが……以下については事実の可能性が高いとされる。

 

・彼女本来の実績は、農林水産関係のものが中心になっている。

・男装姿が有名だが、実は単に女子力が足りなかっただけらしい。

・正義感にあふれ、しばしば権力者を敵にまわして女だてらに大立ち回りをした。

 (この頃に権力側の流した悪意のデマが、魔女伝説の元になった)

・結婚後には旦那さんプロデュースで可愛い服装が増えた。

 

 魔女という伝説に反して、実際のメイは戦士、それもむしろ狂戦士に近い存在だったらしい事がわかっている。

 たしかに、彼女は転移魔法に結界魔法、異空間収納魔法まで使いこなす天才であった。

 しかしそれは補助的用途の魔法ばかりであった。

 そして、そこまでの才をもってしてもなお、彼女本来の資質は戦士であった。

 

 彼女の攻撃力は異常のひとこと。

 どのように鍛え上げたものか、小さな体でドワーフ以上の腕力を素で誇っていたが、これは前世からの因縁による特異体質のようなものも関係していたと言われている。

 ただしその強さの反面、女子力は実に壊滅的だったという。

 自分の髪すら上手に洗えず、見かねた子どもたちに洗ったり整えてもらった記録が残っている。

 

 ある時代から、ルーク=ナツメ・ドランと呼ばれる商人が服装のコーディネートをするようになった。

 彼はメイのファンだったが、メイの女子力の低さに嘆き、自らメイの衣装プロデュースを名乗り出たという。

 これが、二人のなれそめらしい。

 以降のメイは姿もかわいくなり、また悪い噂も減った。

 ルークはメイのパトロンとして知られるようになり、やがてふたりは結婚した。

 

 ちなみに、一部の地域でメイを愛の神としているのは、新婚時代のラブラブ話が原因らしい。

 なんでもルークはメイを自分好みに可愛く飾りたがり、動きにくいのはイヤとよく反発していたのだけど、そのありさまが、見ていても胸焼けがするほど微笑ましいものだったからという。

 

 

 そんなメイだが、謎の逸話がいくつか残っている。

 ちょっと挙げてみよう。

 

・露出の高い衣装やスカートを異常に恥ずかしがった。あまりの異常さに周囲は性的暴力の経験を心配し、精神系の医師の診察を受けている。

・どうも子供の頃から、自分を男性だと思っていた可能性がある。

・前世は男だったとワケのわからない事を言うが、そもそも彼女の名である『メイ・ララタイヤ』は前世で名乗っていたものであると判明しており、もちろん女性である。

・そのことを当人に問い詰めると「違うの、それはアバター名で本当は違うの」と支離滅裂なことを言い始める始末。

・医師によると、男性妄想の最大の原因は、おそらく前世に由来する心の傷が原因ではないかとされており、それはルークが「一生彼女を大切にする」と結婚を決意させた理由となった。

 

 これらについては今も諸説入り乱れ、結論は出ていない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 二本連続でTS要素とはやりますねぇ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ