表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界漂流者の物語  作者: hachikun
56/95

ある転生少年の旅立ち

巣ごもり中ですが、色々あって困っています。

さて。

 異世界に行く、送られる、漂流する話は数多くあり、多くの民が異世界にわたっている。


 だが、彼らの全てが目立つ活躍をするわけではない。むしろ目立たぬようひっそりと生きるのが大多数であるが、それでは物語として地味だし、何よりこの手の異界物語を好む子供たちにウケが悪いのだ。たとえ非常識だろうとバカだろうと、危険に自ら飛び込んで死にかけるような者がそういう物語では王道とされている。

 では、そうじゃない異界漂流者はどうなのか?

 今日もここに、そんな人物のひとりを紹介しよう。

 

 

 

 俺、元地球人。ま、よくある事だよな?

 21世紀最悪と言われる世界的なパンデミックに巻き込まれたあげく、気がついたら見知らぬ世界に生まれ変わっていったって寸法さ。

 ラノベみたいにチートなスキルはなかったけど、ある程度かつての記憶があるのは有効に働いた。

 普通の子供なら嫌がる勉学も夢中で取り組んだし、地球にはなかった魔法についても、効率的な運用法や地球式の発想によりうまくやれたと思う。

 ただし……俺が生まれたのは超田舎の寒村だ。

 こんなところで単純に大きな成果をあげてしまうと、むしろ厄介事を引き込む可能性があった。

 

 暮らしを良くするのはいい。

 だけど、周囲に問題をばらまいては話にならない。

 世の中はマンガのように簡単ではない。

 なまじできるからこそ、既得利権に潰されたり、生涯報われない可能性もありうる。

 だからこそ警戒し、特に、何もできない子供のうちはソレを表に出さないように留意していたわけだが。

 

「……うまくいかないもんだなぁ」

 かつて住んでいた村を遠くにみて、俺はやるせない気持ちだった。

 頭ではわかっていた。

 わかっていたけど、こうも現実になると、どうにも割り切れないものだった。

 

 え?どういうことかって?

 わかった、ちょっと説明するよ。

 

 年貢は麦で支払う必要があったけど、村は農業に向かない土地だった。

 あまりにも麦の収穫が少なく、支払いに問題が生じていた。

 で、近年はたびたび村の女を代わりに差し出すよう命令され、それが慣習化していた。

 ……それはそれで大問題だったが、幼児だった俺がひとり騒いでも無視されるか殴られるだけで、どうしようもなかった。

 なかったんだけど、幼なじみの子がその対象になると聞かされた時には焦った。

 そして考え、工夫をこらして麦の収量をあげた。

 無事に支払いができて彼女を差し出す話はなくなるはずだったんだけど。

 

 なんと村の穀物庫が火事になった。

 しかも、村では誰も持っていないはずの、領主のマーキングの入った火打ち石が穀物庫で見つかった。

 ……まぁ、そういう事だな。

 で、ドヤ顔で彼女を連れ出しに来た領主の息子に、穀物庫に火をつけた損害賠償と謝罪を求めたわけだが。

 その結果待っていたのはというと、仲間であるはずの村人による村八分だった。

 

 え?彼女?

 もちろん、自分から領主の息子のところにいきましたよ。

 村のために犠牲どころか、いい暮らしができるってさ。

 

 ……いい暮らし、ですか。

 俺には、飽きたら性奴隷に売り飛ばされる生活がいい暮らしとは思えないけど、当人が心底そう思っているなら、そういう事なんだろうな。

 

 まぁ村八分じゃ仕方ない。

 俺はもう村人ではないらしいから、とっとと出ていこう。

 けど、そうだな。だったら自重もやめさせてもらうわ。

 くだらない事かもしれないが、いわれのない罪で殴り、なけなしの財産まで没収しやがった報復はきっちりさせてもらうぞ。

 いいよね、もう村人じゃないんだから。

 自分を追い出した村への配慮なんか、もういらないよね。

 

 自作の魔力封じを部屋で全部はずした。

 村への配慮でつけてたんだけど、もう必要ない。

 森にいる時のように、押さえも解いて全開にした。

 

 瞬間、村中の空気が変わった。

 たぶん村の結界が壊れたはずだ。

 

 え?なんでって?

 村の結界は外敵に対応するもので、中から大きな力で、しかも急に押されるなんて想定してないからだよ。

 俺の魔力はたしかに村人一般よりは多いだろうけど、それでも子供のものでしかない。

 なのに、急開放したくらいで壊れる。

 つまり、田舎の村で維持できる結界なんてその程度ってことさ。

「きゃあああっ!!」

 む、畑になにか入ったな?

 結界の消失に敏感なのは、周囲にいる獣や弱い魔物たちだ。

 ……けど、俺は知らん。

 

 家に迫る気配を感じたので、家にとりつけてあった独自結界を発動する。

 これは攻撃用でなく、俺に悪意もつ者の意思をそらしてこっちを認識しづらくするものにすぎないわけだが。

 ……ばっちり効きやがったよ。

 ハハハ、やっぱりな。

 

 俺はのんびりと荷物をまとめた。

 自作のアイテムボックスに入るだけ収納すると、堂々とムラの出口から立ち去ろうとした。

 ……したんだけど。

「……おばば?」

「すまんのう、リョウや」

 そこにいたのは、俺に魔法の本を読ませてくれた、おばばだった。

 

 おばばは悲しそうに、しかし微笑んでもいた。

「すまんのうリョウや。

 ばあにもっと力があれば……せめて若い頃のような力があれば、リョウにこんな思いをさせずにすんだのにのう。すまんのぅ」

「……おばばは悪くないよ」

 実際、こんな村だけど、おばばだけは敵じゃなかったんだから。

「リョウ。……これをもっていきなさい」

 そういうと、小さな指輪を、おばばは俺に手渡してきた。

「これ……おばばのお守りじゃねえか。なんで」

「これはのう、限界突破の指輪じゃ。かつて勇者様が使ったというもので、本来あるべき成長を加速し、さらに限界を超えて人を成長させるためのものじゃ」

「これが!?たしか限界突破のお守りはなくしたって……」

「おや、リョウはそれを信じておらなんだじゃろうが?ん?」

「……ああ、うん。たしかに」

 言われてみたらそうだ。

 小さい頃、おばばにこれをもっていく見せてもらった時も……おばばは俺にだけ、なぜかこのお守りが特別なものだと教えてくれたんだっけ。

「リョウ、おぬしはこれから広い世界で生きる事になる。これは常に身につけておくんじゃ。ほれ」

「あ、ああ」

 言われるままに指輪を身に着けた。

 指輪はひとりでにサイズがピッタリあって、俺の指に元からあったように収まってしまった。

「指輪を欲しがる輩はいつの時代もおったが、ろくなやつがおらなんだ。

 そしてなぜか、これが必要じゃろう者に限って、ほしがろうとせなんだ。昔のおぬしもそうじゃったな?

 今、おぬしにはコレが必要じゃろう。

 生まれる前の知識と力だけでは、この先は乗り切れまいからのう」

「……知ってたのか?」

「これでも、伊達に歳はとっておらんからのう」

 クックックッとおばばは笑った。

「そんな顔をせんでええ、わしは単に才のありそうなやつを伸ばしてやっただけじゃ。

 今もそうじゃ。

 タンポポが風に飛ぶ綿毛を見送るように、わしもただ、この村から飛び立つ者を見送るだけじゃよ」

「……おばば、ごめん」

「バカタレ、飛び立つ綿毛がタンポポに配慮してどうする。

 ……行くがよい。

 どんな人生を送れとは言わぬが。

 できれば、いつか……どこかで今度こそ、良き相手を見つける事を祈ろうぞ」

「うん……うん、ありがとう、ばあちゃん!!」

「うむ、行きなさい」

 俺はおばばに挨拶をすると、そのまま立ち去った。

 だから、俺は気づけなかった。

 

 おばばは『タンポポ』といった。

 たしかにこの世界にタンポポはあるけど、風船草って言うんだ。

 なのにおばばは確かに『タンポポ』といったんだ。

 俺はそれに長いこと、どういうわけか気づく事ができなかった……。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 かつて異世界人がその異能で作成し、勇者たちの戦いを支えたという限界突破の魔法の指輪だが、中世期に聖女ユウコ・ソフエと共に辺境の名もなき村に落ち着いて以降の記録がない。

 村は、周囲の人々がユウコの正体を忘れる頃にはすっかり落ちぶれ、やがて滅びた。

 後に調査にきた中央の文官も、地元領主との癒着で彼らに都合のいい記録をでっちあげた。

 文官は、生き残っていたユウコ本人と出会っているにもかかわらず、役立たずの老婆ひとり助けても意味がないと、簡単な事情すら聞かずにそのまま放置している。

 後にユウコの正体を知った中央の大神殿が慌てて使者をたて訪れた時には、すでにユウコはいなかった。

 もちろん大神殿肝いりの再査察が入り、ユウコの村を絞り上げ女を供給させていた領主たちは正式な処罰こそなかったものの、貴族籍を外されて平民となった。

 この際、不当に置かれていた女たちを保護しようとしたが、貴族家に残っていた女は贅沢と共に飼われる生活が染み付いてしまっていた。村の女の生活に戻る事は不可能と判断され、聖都にある特別区の娼館に送られた。

 記録によると、その娼館でも持て余していたそうで、以降の記録はない。

 

 さて。

 ユウコのその後であるが、足跡はほとんどわかっていない。

 ただ、東方に近い田舎の小さな修道院で、中央崩れでも珍しい高僧クラスの術士の使い手の記録があり、容貌などからユウコではないかと推測されている。

 その地でユウコは本業に戻り、子どもたちやけが人の育成や保護につとめた。

 物知り婆ちゃんと慕われ、修道院でも頼りにされ、子どもたちに囲まれ、最後は笑顔で亡くなったという。

 しかし指輪の記録は一切ない。子供たちの日記でも触れられていない。

 おそらく修道院についた時点で、もう持っていなかったのだろうと推測されている。

 

 では指輪はどこにいったのか?

 一説には、後に東方で名をあげた冒険者トモがよく似た指輪をしていたと言われている。

 トモ本人も家族も公式にその指輪についてコメントしていないが、妻の日記の中に「親代わりに育ててくれた人の形見の指輪」と書かれている。指輪はトモの遺言で、亡くなった時に共に葬られている。

 このトモであるが、後の調査でユウコの村で村八分にされ、出ていった少年リョウであろうと判明している。ならば親代わりの人はユウコの可能性も高い。

 

 しかし残念ながら、指輪の探索はこれ以上する事ができない。

 というのもトモ本人の調査ができないからである。

 トモは東方の地で名を挙げ勇者と呼ばれ、共に冒険した若き王女と結ばれ王配となった。

 現在、その遺体は王族の墓所に葬られている。

 この王家は古代より2000年以上も続いている古きもので、ある時代より権力から離れ、民族和合の象徴として、なかば神の如き信仰を集めてきた。

 このため、歴代王が眠る墓所は権力外の聖域となっており、外国からの干渉については、いかなる理由があろうと全く認められない。

 このため現時点では、墓を開いて調査を入れる事は事実上不可能となっている。


・村でリョウと呼ばれた冒険者トモ

・老婆の名前はユウコ・ソフエ


実は、この名前たちにはちょっとだけ元ネタがあります。

一種のオマージュです。

さすがにちょっと無理かな。


ではでは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ