召喚少年の絶望と破局
ちょほいと、YetAnotherなラマナテイルを書いてるんですが、手間取ってます。
詳細が出ましたら報告します。
異世界に行く、送られる、漂流する話は数多くあり、多くの民が見知らぬ別の世界に渡っている。
だが、彼らの全てが目立つ活躍をするわけではない。むしろ、その多くは目立たぬようひっそりと生きていく、あるいは歴史の中に埋もれてしまうものだ。
今日もここに、そんな人物のひとりを紹介しよう。
彼の名は、タイチ。
異界漂流者である。
◇ ◇ ◇
「なんですかこの魔法の仕様?」
開発を指示された魔法の仕様を見たタイチは、眉をしかめた。
「勇者どのの話によれば、異世界で言い伝えられている魔法なのだろう?そなたならば作れるはずだ」
「そういう問題じゃなくて。これ威力がデカすぎますよ」
「ん?威力が大きいのならいいではないか?」
何が問題なのだと言う大臣のひとりに、タイチは首をふった。
「これ、威力が安定しないんですよ。
材料を宇宙から捕まえてくるんで、捕まえたものに威力が左右されるんです。
最低見積もりでもこの王城くらい破壊できますけど、問題は最悪のケースです。
これ一発で世界中に影響出ますよ。
魔王は倒れたけど魔大陸全土が全滅、さらに百年にわたって未曾有の大凶作なんて事になったらどうします?」
「……そなたは何を言っているのだ?」
「何を言い出すかと思えば愚かな、そのような恐ろしき破壊が魔法陣でできるわけがなかろう」
タイチは本気で警告したのだけど、城の者たちは鼻で笑うだけだった。
「これは命令である、貴様はこちらの指定通りの魔法陣を作れ。でなければ──」
「ああ、この首が締まるってんだろ?はいはい、作ればいいんだろ作れば」
タイチに限らないが、王国を疑ったり反抗しそうな態度の者は全員、ひそかに始末されるか隷属の首輪をはめられて奴隷労働させられていた。そうでない者たちは勇者様聖女様と持ち上げられ、騙されて生命を削って今も最前線で戦っている。
──まったく、バカな話だ。
タイチは内心、ためいきをついた。
だが、同時にこうも思った。
──どうせ帰れないんなら。
最後のひとりまで利用され、骨の髄までしゃぶり尽くして、数が減ったらさらに再召喚するというのなら。
──だったらいっそ、終わりにしてやってもいいのではないか?
タイチは要求されている魔法陣の仕様を見て、そして、暗い目をして小さく笑った。
◇ ◇ ◇
一ヶ月後。
城の待機組が開発したという強力な魔法陣が最前線に届けられた。
それは最前線で戦う『勇者』のひとりの発案によるもので、皆は優れたアイデアを出した勇者を口々に褒め称えた。なぜか後方の城でがんばって開発したタイチの事には全く触れられなかった。
無理もない。
最前線には、城の待機組の一割近くがすでに処刑され、大多数が隷属の首輪をはめられている事など知られていない。戦うためのモチベーションの維持は大切なことで、そのためには現在戦っている魔族は血も涙もない破壊者でなくてはならないし、彼らが実際には使い捨ての道具にすぎない事なんて、今は知られてはならなかった。
「これ、威力は確かなんですか?」
「無人の村でテストを行ってみたが、たしかに村ひとつ消し去る破壊力があった」
「へぇ、本当にメテオできるのか!すごいなぁ!」
「けど取扱注意ね、ひとつ間違うとわたしたちも吹き飛びかねない」
「だな、さすがに流星雨のフレンドリーファイヤーなんてごめんだ」
「よし、それじゃあセットして攻撃してみっか!」
「ええ!」
彼らはうなずきあった。
◆ ◆ ◆ ◆
そもそも彼らが新しい魔法陣を要望したのは、彼らの中にいたゲーマーの少年だった。
『メテオが使えれば楽勝だろうになぁ』
『メテオ?』
敵陣に流星の雨を降らせる魔法。
いかにもゲームらしいド派手な魔法の話は、魔族の城を攻めあぐねていた彼らにはひとつの朗報だった。
『それ、攻城兵器として再現できないかしら?
ここからまっすぐ投射するのでなく、宇宙から隕石をたくさん落とすってことでしょう?
ダメなら笑っておしまいだし、本当に威力が出れば、もうこんなところで毎日睨み合わずにすむわ』
『たしかに……けど、できるのかなあ?』
『とりあえず仕様を書いてみましょう。お城の開発者にみてもらいましょうよ』
『だな』
彼らは何度か新魔法の提案をして、そして彼らの望み通りの魔法が新開発され、さらに提案者は称賛されていた。
それを誰が、どういう状況で開発しているのか、彼らは知る由もなかった……。
◆ ◆ ◆ ◆
「──来ないぞ、本当に起動したのか?」
「ちょっと、勝手に何度も起動しないで、何かあったらどうすんの?」
彼らは魔法陣を起動したが、何も起こらないので困惑していた。
「まあまあ、ちょっと待って。
えっとね、天空にある隕石・小天体を呼び寄せる事と、発射の安定化のため時間がかかるんだって。魔法陣がたしかに光ったのなら起動しているので30分は待てとあるわ」
「あー、さすがにまだ30分はたってないな」
「そうね」
少年少女たちはそりゃそうか、宇宙だもんなと話し合っている。
だが、ひとりだけ首をかしげた。
「発射の安定化ってなんだ?そんなんメテオの仕様にあったか?」
「えっとね……ああ、あった」
読み上げているのはローブ姿の少女である。
「初回発射時に、次回にそなえて次の弾丸となるものをあらかじめ捕捉・周回軌道に乗せるための仕掛けを作るんだって。よく考えてるねえ」
「ちょっと待て」
眼鏡をかけた参謀っぽい少年が眉をつりあげた。
「なんか変だぞ、それ」
「ん?なんだよスナミ?」
「スナミ言うな……この世界の人たちに宇宙や衛星軌道の概念があるとは思えないぞ。これ作ったの誰だ?」
「「「あ」」」
彼らは顔を見合わせた。
「んー、居残り組なんじゃない?」
「クラスのヤツだったら誰が作ったとか話あるだろ。開発担当としか言わなかったのはなんでだ?」
「知らないよ、何か大人の事情なんじゃない?」
「……」
彼らの間に、はじめて違和感が漂った。
「それに、ほかにも気になる内容があるぞ」
「どういうこと?」
「ホラ、次回にそなえてってあるだろ?
これってつまり、一回目と二回目以降では動作が異なるってことじゃね?」
「……」
「ねえスナミ、だとしたら何か問題あるの?」
よくわかってないローブの少女が質問した。
それに対して眼鏡の少年が、きっぱりと言った。
「簡単にいえば、二回目以降は、一回目とは比較にならないほど威力がデカい可能性があるって事になる。
だってそうだろ?
それ文面通りだと、一回目にはメテオ魔法として動くだけでなく、次回以降に使う弾丸を捕捉するための仕掛けも作るってあるじゃないか。
逆にいうと、一回目はそういう準備がないわけで、そのぶん威力が落ちるんじゃね?」
「え……ちょっと、その一回目で村が消し飛んだんでしょ?だったらそれって」
「……」
「……」
「まずいぞこれ、退避命令出したほうが──え?」
ふと、少年のひとりが空を見上げた。
「ちょっとまて、あれ、なんだ?」
「え?」
空の向こうに見える、巨大な影。
それはゆっくり、ゆっくり、不気味に空に広がりはじめている。
「もしかして──あれがメテオの魔法?」
「いや、変だぞ。なんであんな、ゆっくりなんだ?」
「いや、違う!」
少年のひとりが悲鳴をあげた。
「あれは遅いんじゃない!!とんでもなくバカでかいから、ゆっくり動いてるように見えるだけだ!!」
「──え゛?」
「逃げろ、いますぐ逃げろ!!
やばい、あんなの城どころか、この国ごと消し飛んでもおかしくないぞ!!」
「「「えええぇぇぇぇっ!!!!」」」
少年たちはすぐに逃げ出そうとしたが、護衛の兵士たちがズラリと立ちふさがった。
「勇者様がた、勝手に持ち場を離れられては困ります」
「ばっかやろう、あれが見えないのか!!
新魔法の威力がデカすぎんだよ!!
誰が作ったかしらねえけど、ここも余裕で吹っ飛ぶぞアレ!!」
「──え?」
何をいってんだと言わんばかりに空と少年たちを見比べる兵士。
「ははは、また何をおっしゃるのやら。
たしかにすごい見ものですが、狙いは魔族の城なのでしょう?いくら強大な新魔法でも、こんな遠く離れた陣まで影響が出るわけがないじゃないですか。
ダメですよ皆さん、国王陛下のご命令がない限り、皆様がここから動くことは許されないのですから」
「そんなこと言ってる場合じゃないんだ!!」
笑っていた兵士だが、少年たちがあまりにも必死なのが気になってきた。
そしてそのうち、ほかの護衛の──その実、少年たちを逃さないためにいるのだが──兵士たちの間にも、不気味に大きくなっていく巨大な流星にざわめきが大きくなっていった。
「そんな──まさか本当に?」
「だからさっきから言ってるだろぉ!!」
「はやく!!はやく逃げないと!!!
ねえどいてよ!わかんないの?みんな死んじゃうんだよ!!」
兵士は少年たちと空を見比べ、そして唖然とした顔をした。
◇ ◇ ◇
「始まったみたいだな」
タイチはそう言うと、ポケットから小さな魔法陣を出して広げた。
「あと何年か時間が稼げたら、この首輪を無効化しつつ逃げる魔法も作れたろうになぁ……畜生」
そういってタイチはぼやいた。
「仕方ないな。どれ」
起動すると、何か紙製の鳥のようなものが生まれ、どこかに飛んでいった。
「がんばれよ──どこの世界にいるか知らないけど、受け止められるヤツに、このくだらない馬鹿騒ぎを伝えてくれ。
二度と同じ悲劇を繰り返さないように」
◇ ◇ ◇
どことも知らぬ場所より届いた、なぞの警告──それが異世界よりの手紙であるとの報告を出したヘンリー・オブライエンによると、手紙を出したタイチなる少年は異世界より仲間と共にさらわれ、隷属の首輪をはめられ、消耗品としてこき使われていたのだという。
自身にほぼ戦闘力がなく、悪意と暴力にさからう術のなかった彼は、いわば大量破壊兵器の製造を任された際、かの世界の者たちに科学知識がないことを利用して、ちょっとした小細工を行った。
彼が求められたのは、惑星付近を浮遊する隕石や微小な天体を鹵獲し落とす魔法。
だがその魔法は当然のことながら、どんな天体を鹵獲するかで威力が大きく変わる。
そこで彼は発想を変え、複数回起動を前提とした仕掛けを組み込んだ。
つまり初回起動時には衛星軌道上に小天体鹵獲用の仕掛けを生成するのがメインで、たしかに設置したということを知らせるために手頃な隕石をひとつ落とすだけ。
そして二回目以降はその仕掛けを用いて、その時点で可能な最大サイズの小天体を呼び寄せるようにしたのだという。
手紙によると、二回目以降で呼び寄せる小天体は最小でも直径40km、大きければ重金属混じりで200km、単なる岩塊なら600kmまで可能だろうと結ばれている。
言うまでもないが、これが事実なら剣と魔法の文明社会にこれを防ぐ手はない。
それどころか、最大サイズの場合は全惑星が焦土と化すレベルの巨大災害であり、我々だって逃げるしかないだろう。
タイチ少年の行動を短慮な、世界ひとつを巻き込んだ壮大な自殺と考えるのは簡単だ。
しかし考えてほしい。
思春期の純朴な少年を生まれ育った世界から拉致し、奴隷労働させて使い潰すのだ。
その絶望感は半端なものではなかったろうし、思いつめても無理もない。
そもそも自分の生まれた世界でなく家族も誰もいない世界など、さっさと消してしまおうと考えたとして、誰が責める事ができようか。
タイチ少年の最後の手紙には、巨大な影が空を覆った旨が書かれている。
手紙の通りなら、おそらくは百キロ単位の天体が落ちたと思われ、タイチ少年も生きてはいないだろう。
今はただ、彼らの冥福を祈るのみである。




