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異界漂流者の物語  作者: hachikun
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召喚?

 異世界召喚といえば、他の世界から戦士などを呼び込む際の定番と言われる。

 だが、自分の意思に反して突然よその世界に誘拐され、その世界のために命をかけて戦え、などとその誘拐犯どもに頭ごなしに命令されて、ハイそうですかと普通に従うような底抜けのお人好しは普通いないだろう。まぁ実際、そういう事を見越しているからこそ、精神的に未熟な青少年を狙って召喚し、言葉巧みに従わせたり隷属させて使うわけだ。

 だが彼らが呼び出すのは、自分たちの世界とは異なる存在。

 このため、時には誰も得しないような問題が起きてしまうことがある。

 

 今回紹介するのは、そんな不幸な例である。

 

  

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 異世界モノというのは最近出てきたと言われてるけど、実のところ人類の歴史と大差ないくらいには長大な歴史をもつジャンルらしい。まぁ、かつては神の国だの常世、あるいは月の国、竜宮城だのと言われていたといえば、たいていの神話伝承にそんなものがあったとあなたも気づけるだろう。

 たとえば、突然に異世界にいざなわれる旅行記。

 たとえば、異世界人との交流。

 そして、そうした交流で生まれる悲喜劇……ってまぁ、それはいいか別に。

 あのね、最近の異世界もので、召喚されてすぐ「どうでもいい存在」だからと捨てられたり、無理やり戦わされるのを嫌がって逃げ出す話があるよね?

 俺はああいうのを見て無謀だなぁと思ってたんだよね。

 だって見知らぬ異世界だし、おそらく間違いなく人権の保証もないんだよ?

 しかも、わざわざヨソの世界から人を召喚しようなんて状態の国が、のほほんとした平和な状態のわけないじゃないか。不穏だから呼ぶんだろ?

 そんな状況で、しかも事情もわからずに逃げ出すのは、いくらなんでも怖すぎるだろと思ったんだけど。

「……すんません、俺が悪かったです」

 実際に体験してみると、俺が甘かったってわかるわ。

 えーと、あれだろ。

 どこかのセンセが言ってた、なんだっけ。茹でガエルってやつだ。

 

『茹でガエル現象』

 『2匹のカエルを用意し、一方は熱湯に入れ、もう一方は緩やかに昇温する冷水に入れる。すると、前者は直ちに飛び跳ね脱出・生存するのに対し、後者は水温の上昇を知覚できずに死亡する』

(あくまで、たとえ話。実際のカエルはどちらも死亡するなり逃げ出してしまい、座して死んだりしないそうですよー)

 

 いきなり逃げようが、じっとおとなしく待とうが、結局バッドエンドなら同じこと。

 それどころか、なまじ対応できるがゆえに、じわじわ悪化していく状況を見落としてしまい、もっとひどくなりますよって言いたいんだな。

 いやー、今なら言いたいことよくわかるよ。

 しかも、寝床として用意してくれたんだって城の中、敵地じゃん。

 どう見ても軟禁状態で、しかも戦闘用スキルの保持者とか全体をコントロールしてくれそうなヤツは扱いが良くて、それ以外と差別化。

 これは、あれだろ。

 こっちがガキだと思って自ら組織化するように仕向け、反乱因子を浮き立たせたり潰して扱いやすくするわけね。よくあるクラスごと召喚ってやつで差別化したり、パシリのやつをこれ幸いと奴隷のように扱うバカが出るのも、結局は誘拐犯たちの手の中で踊らされてるわけだ。

 ……つくづく、やってられねー。

 え?それでどうしたって?

 まず俺は関係者を説得し、この世界の歴史本とかを読ませてもらった。というのも、俺のスキルは戦闘向けのものではないと、つまり「下」の扱いだそうだけど、この世界の知識があれば有効な利用方法があるかもと思ったからだ。

 ああ、俺のスキルはコレね。

 

『幻召喚』

 いろいろな生き物を召喚することができる。

 呼び出したものは術者に危害を加えないが、自由に操れるわけではない。

 

 たったこれだけだった。

 羽根のあるちっちゃな妖精みたいなのとか、現実にはいないようなものを呼び出せるのが特徴。

 可愛かったり癒やされることはあるが強くないし、そもそも命令をきくわけではないらしい。

 使えない。

 当然、ひとっからげに雑魚扱いになったわけだ。

 だけど。

「……ちげーよなぁ」

 俺はためいきをついた。

 

 そりゃ、この世界のひとにとっちゃ、つまんねー外れスキルなんだろうけどさ。

 幻召喚のスキルの極意って、それじゃないだろ。

 

 図書館で本を読みつつ、こっそり実験を繰り返した俺の結論。

 ……幻召喚とはつまり、空想上の生き物を実体化させるスキルなんだよ。

 

 そりゃ、この世界のひとは気づかないだろうよ、スライムを喚んだってスライムはスライムなんだから。子供だってスライムは知ってる。

 だが地球人にとって、スライムはファンタジー生物で実在しないはずのものだ。

 つまり。

 俺がスライムを召喚したら、呼び出されるのはこの世界のスライムじゃない。

 あくまで俺が、こうあれと妄想したスライムが新たに生成され、呼び出されているんだ。

 メタルなあいつどころか、レアもんのスライムベスだって呼べるだろ。

 

 これをうまく利用したら、おそらく色々なことができるだろう。

 だけど。

 この特性をもし知られたら、もちろん、いいように利用されて使い潰されるだろう。 

 だから俺は逃げ出したんだよ。

 

 もちろん、このまますますつもりはない。

 俺はこの世界が嫌いなので、一世一代の嫌がらせをしてやるつもりだ。

 魔王を滅ぼせ?

 亜人を根絶やしにしろ?

 だったらこっちは、魔王レベルにやばいもんを、てめーらの国に打ち込んでやるよ。

 城の人たちだって、俺に本当に親切にしてくれたのは獣人やエルフの奴隷たちだけだった。

 だからこの世界の人間族に思うところはない。

 迷うことなく、俺のちっぽけな仕返しに巻き込んでやるさ。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「化物だ!」

「うわぁぁぁ!」

 ドシン、ドシンと重量級の何かがゆっくりと歩いている。

 その巨大なものに向けて、あちこちから無数の魔法が放たれるが、まったく問題にしていない。明らかに目潰しのような攻撃も行われているのだが、しかもちゃんと命中しているのに、まばたきすらも必要ないのか、まるで別の空間にいるかのように無視して平然と進んでいく。

 逃げ惑う群衆にまぎれている、数名の、あきらかに人種の異なる少年少女たち。

「ね、ねえ、あれって」

「ああ、たぶんゴ○ラだろ……俺らの頭がおかしくなったんじゃあなきゃな」

「どういうことだ?この世界にはあんな化物がいやがるってのか?」

「いや、ちげーだろ」

 逃げ惑う人々を見て、少年のひとりがつぶやいた。

「見ろよアレ、兵隊や騎士まで混乱してる」

「?」

「わかんねえか?

 いくら強くても知ってる(・・・・)存在なら、兵隊や騎士がああなるか?」

「あ……」

 そう。

 彼らが目にしている巨大な怪物は、たしかにこの世界にあるはずのない……それどころか、少年たちの故郷である地球にも存在しないはずのものだった。

「げっ」

「なんだ?」

「やべえ、ブレス吐く気だあいつ!」

「なにぃぃぃっ!」

「おい、逃げるぞはやく!」

「逃げるってどこ?王城?」

「バッカヤロ、外に決まってるだろ!」

 少年のひとりが苛つくように叫んだ。

「ゴ○ラだぞバカ、映画じゃねえんだぞ!

 ンなもん城とか騎士とかで防げるわけねえだろが!」

「いやいや、それこそ映画じゃないから……っ!」

 その瞬間だった。

 怪物の口がガバッと開いたかと思うと、目もくらむような強烈なブレスが、王城のある方角に向かって一気に撒き散らされた!

「うわっ!」

「……冗談だろ?」

「たしか城って、魔王の襲撃にも耐えるようにしてあるって」

「瞬殺じゃん!」

「いくぞ町の外!急げ!」

「お、おうっ!」

 少年少女たちは、町を行く怪物とは反対方向……町の外に向かっていった。

 そんな怪物の進行方向には。

 城や貴族の居住区があったはずのそのエリアは、怪物のはなったブレスの形だけ、きれいに、ただ何かが溶けたような黒い地面が広がっているのだった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 異世界から怪物を呼び出した者については、残念ながらまったく記録がない。

 ただ『大絶滅』で最初に滅ぼされたブルムンド王国では当時、大量の異世界人を召喚し、隷属して働かせていた事がわかっている。

 このため、歴史学者は「幻召喚スキルをもつ異世界人が、おのれの世界に伝わる伝説の怪物を召喚したのだろう」と推測している。

 幻召喚スキルで呼び出した存在は召喚者の自由にならないが、そもそも幻召喚する存在は術者がその心によってデザインしたもの。ゆえに、生まれて真っ先にブルムンド王国を破壊しつくした事からいっても、術者が同国を深く憎んでいたのは間違いないだろうとの事である。

 

 なおご存知のように、この怪物はブルムンド王国を滅ぼしたのち、休眠状態になった。

 だが大地のエネルギーを循環させて生き続けており、眠っているうちに滅ぼす、あるいはテイムしようとした勢力の試みはすべて失敗した。

 ただ研究の結果、おそらく起動の鍵は異世界召喚であろうと言われる。

 召喚には大きなエネルギーが必要で、その蓄積は、召喚陣に年月をかけて力を蓄積する事になる。

 この蓄積を感知し、それを行っている集団ごと抹消するようにデザインされているという。

 

 このため以降、異世界に関する研究は一切行われなくなった。


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