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異界漂流者の物語  作者: hachikun
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とある冤罪事件の影響

 異世界に行く、送られる、漂流する話は数多くあり、多くの民が異界にわたっている。

 だが、彼らの全てが目立つ活躍をするわけではない。むしろ目立たぬようひっそりと生きるのが大多数であるが、それでは物語として地味だし、何よりこの手の異界物語を好む子供たちにウケが悪いのだ。たとえ非常識だろうとバカだろうと、危険に自ら飛び込んで死にかけるような者がそういう物語では王道とされている。

 では、そうじゃない異界漂流者はどうなのか?

 ここに、そんな人物のひとりを紹介しよう。

 彼の名は三田村祐二(みたむらゆうじ)。異界漂流者である。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「すんげーなオイ」

「ん?どうしたマイラ?」

「いや、ハスクバー国の例の件なんだけどさ」

「あーあれか、なんとかって令嬢が名家の子息を何人も侍らせてるとかって噂の?」

「そう、それそれ。とうとうやらかしたとさ」

「え?やらかした?」

「王太子がその令嬢と婚約するって、なんか学園の卒業記念パーティーでやらかしたらしいぞ」

「……うそだろ?」

「いや、マジだって」

 なんだよそれ。

「ハスクバーの王太子って婚約者いただろ?確かソレックス公爵家だかの令嬢が」

 ハスクバーの聖令嬢って言われてる子だ。

 そういう子の容姿は誇張されて広まりやすいんだけど、冗談ぬきで本当にきれいな子だとか。

 小さい頃から教会に出入りしていて、新米シスターたちに混じって無償治療もしてきたらしい。どれだけ教会活動に熱心だったって、確か十二歳の時、神職でもないのに本当に聖女の加護が降りるっていう前代未聞の事件が起きたっていうんだからすごい。

 そう。

 神職でもない令嬢に聖女の加護が降りるって、それ自体本当に珍しいことなんだよね。よっぽど熱心に教会通いしてたんだろうなって噂になったし、おかげさまでハスクバー国と聖国の仲もよくなったんだとか。

 国母にふさわしいかどうかはともかく、とりあえずすごい子なのは間違いないだろ。

 そんな子が婚約者だってのに、何をやってんだ?

「それがさ。なんか令嬢を殺そうとしたとかで王太子が激怒して、平民に落としたうえに公開処刑だそうだぞ。

 それも国王夫妻の帰りを待つことなく代理で勅命が出て、即日で首落としたんだと」

「……おいおい」

 いや、マジでなんだよそれ。

「そんなバカなこと、あるわけないだろ」

 だいいち王太子の権限じゃ無理だ。

 ハスクバー国は王国だ。

 当たり前だが、王太子は王になる予定の者であって王ではない。侯爵家の身分の剥奪権限なんて持っているわけがない。

 さらにいえば。

 たとえ極刑でも最後の覚悟とか別れとか遺書とかで数日は置くもんだ。

 即日っておまえ、よほどの凶悪犯でも普通やらねえぞ。

「いや、それなんだけどさ。どうもヴィンセント国が絡んでるらしい」

「ヴィンセント国が?なんで?」

「国王夫妻の不在を狙って王太子を焚き付け、王家の印璽(いんじ)を使わせた貴族の一団がいるんだが、こいつらの裏にシャドウ商会がいるって噂なんだな」

「なるほど……」

 シャドウ商会て……バリバリのヴィンセント系、しかもヤバイ系筆頭じゃねーか。

「連中、問題の令嬢のバックアップしてるんだよな。実家に援助して学園入れたのもあいつららしいし」

「うわぁ……それハスクバーの連中て」

「まさか、知らなかったってこたぁねーだろ。証拠固めしていたが間に合わなかったってとこかな?」

「……なんてこと」

 なんだよ、それ。

 

 この世界はひとの命が軽いって、知っちゃいるんだが……なんてことだよ。

 しかも、高位貴族の娘が、しかもたぶん冤罪で公開処刑て。

 どんなに悔しかったろう。どんなにか切なかったろう。

 ちくしょう、想像しただけで胸が痛む。

 この日の酒は、お世辞にもいい酒とはいえなかった。

 

 

 後日、国王夫妻が帰ってきたそうだけど、当たり前だけど激怒ではすまなかったらしい。

 かの国は王国。つまり主権は国民でも貴族でもなく国王にある。

 その国王をないがしろにし、国王の決めた次期国母をでっちあげの罪で、しかも正式な手続きすらふまず、へたな対応もさせず、温情の時間すらも与えずに即日処刑したわけだ。そりゃあ許されるわけもない。

 だいいち、こんな無法を許しちまったら国体そのものが成り立たなくなってしまう。だからその意味でも、関係者を絶対に許すわけにはいかなかった。たとえ王妃様が子供かわいさに、せめてバカ王太子の命だけでも守りたいと考えたって、どうしようもない。

 王太子は廃嫡のうえ、王族としては前代未聞の公開処刑となったそうだ。

 しかも処刑理由も一切飾ることなく「国政を乗っ取り王の名で、しかも自分の婚約者に冤罪を着せて処刑した王国始まって以来の恥知らず」と大々的に発表された。

 

 これは誇張でもなんでもない。俺はもともとこういう調査依頼を勉強がてらよく受けるんだが、ハスクバー出身者からの調査依頼もあって色々調べたんだよね。

 王太子を廃嫡のうえに国政を歪め乗っ取りをしかけた犯人一味のひとりとして処刑したことが、きちんと記録にある。公式発表にもある正式なものだけど、実際に処刑も執り行われた。公開処刑だ。

 公開処刑にして理由も簡単。そうしないと、処刑された聖令嬢の信奉者たちが黙っていないからだろう。暴動が起きたかもしれない。

 さらに、これの教唆(きょうさ)罪という事でヒロインな令嬢も一緒に始末された。

 一般に、たいていの犯罪では、未遂や教唆(きょうさ)は重い罪にはならない。特に教唆は、要はそそのかして犯罪を犯させたわけだが本人は何もしてないのだから、軽くなると思われがちだ。

 だけど利敵行為や内乱罪など、国体を揺るがすような種類の罪となると話は違う。これらは一般の盗みや殺しのような罪と違い、未遂も共犯も教唆も、主犯とほとんど区別がない場合が多い。要はそれだけ重い罪という事で、犯罪者に甘い日本ですら、この手の罪となると問答無用で死罪になる。もちろん未遂も共犯も教唆もである。もっとも軽いケースですら、殺人罪に準ずると刑法に明記されるほどで、それ以外は「死罪とする」としか書かれてないほどの潔さだ。

 もちろん、現代日本と違うハスクバー国の法にはそんな甘さはカケラもなかった。

 それどころか。

 怒り狂う民衆を鎮める意味もあって、処刑は実に大々的に行われることになった。

 

 処刑には殺された聖令嬢を慕っていた人々が大量に押しかけ、これまた国始まって以来という凶悪な雰囲気の中で行われた。

 あまりの民衆の怒り具合に予定を変更し、民衆参加の石打ちイベントが行われる事になった。

 石打ちというのは文字通りの投石で殺す事で、地球でも使われていた歴史がある。地味に思えるが、実態はむしろ逆である。

 まず思ってほしいのだけど、残酷の代名詞のように言われるギロチン。実はギロチンというのは、なるべく苦しませず一瞬で終わらせるという目的で開発されたものだ。ギロチン以前は刃物で斬っていたらしいが、実は首を切り落とすというのは半端な労力と技術ではできず、なかなか死なずに執行人、罪人両方が長く苦しむこともあったという。

 で、そのような視点で石打ちを見て、どうだろう。その残酷さがわかっていただけるだろうか?

 何しろ一般人が投石で殺すわけだから、すぐに死ねるわけがない。

 それにだいいち、すぐに死なせるわけもない。そもそも殺すことでなく民衆に納得させるためのものだから、死にそうになったらいちいち助けが入る。ぎりぎり死なないように魔法で回復させてから、また別の者に投石させていくのである。

 少なくとも五回以上、ふたりは投石で死にかけ、そのたびに助けられた。

 よほど恐ろしかったのか、ふたりとも断頭台に乗せられた時には下半身は異臭と汚物にまみれていたという。特にヒロイン令嬢は誰の手かきれいに化粧されて地味とはいえちゃんとした服も着せられていたのだけど、投石でボロボロになった服の下から別の異臭がしていたという証言もある。

 まぁ、あれだ。おそらく処刑前夜に看守やバカどもに好き放題に嬲られたんだろう。あまりに見苦しいので処刑前に服を着せられ、最低限に飾られたんじゃないだろうか。

 ひどい話ではあるが、同情する気はまったく起きない。

 

 だってな。

 証拠はないんだけど、殺された聖令嬢て……いや、いい。話は処刑のことだ。

 で、最終的に彼らは首を落とされたが、その首は「もう殺されなくてもいいんだ、苦しまなくていいんだ」って安堵の顔をしていたという。

 彼らの遺体は野に捨てられたので、表情については確認してきた者がいる。間違いないそうだ。

 

 ただの婚約破棄ものなら、これでバッドエンドで終わりだろう。

 だけど現実は物語とは違う。

 話はばかどもの処刑だけでは終わらない。

 

 そもそも彼らの馬鹿げた、でも悲惨な珍事が起きてしまった背景にはヴィンセント国の干渉があった。裏から手引して愚かなお子様たちに聖令嬢を殺させ、見事にハスクバー国は混乱させられた。

 もともと両国の間には利害の対立があったが、どうもそれには裏があったらしいんだが、これは調べてみたらすぐわかった。

 聖令嬢の実家はだいぶ辺境にあるのだけど、なぜか辺境伯などではなく公爵。しかもその周囲も力ある辺境伯などの家でがっちり固められている。

 なぜこうなっているかというと理由は簡単で、かの家は代々ハスクバー国の田舎にある岩塩鉱山を取り仕切っていたからだ。

 とんでもない要職だ。そりゃ爵位も高いわけだ。

 言うまでもないが、塩はひとの生活には欠かせない。特に中世までの流通の拙い時代には、塩の確保は生命線といってもいい。海から塩をとる技術の進歩が遅れているこの世界では、岩塩というのはとても重要なんだ。もちろん

 ヴィンセントの狙いは間違いなく、おバカ王太子に聖令嬢をないがしろにさせ、ハスクバーの奥深くに守られた公爵家を、ひいてはハスクバーを揺るがす事だったろう。

 

 ただしヴィンセントの狙いはそこまでで、聖令嬢を害するなんてのは想定外だったと思われる。

 おそらくは騒動を起こす程度であり、まさか冗談のような婚約破棄劇の果てに処刑など、まるっきりの想定外だったんじゃないかな。

 実際、状況の悪化にしたがって聖令嬢の周辺にヴィンセントの要人接触が急に増えている。

 おそらく想定外に悪化していく事態にヴィンセント側も困り、なんとか彼女を助けよう、最悪の場合は保護するか逃がそうとしていたんだとおもう。

 だいいちヴィンセントだってかの地の岩塩の顧客だ。生産が止まってしまったら困るわけで、そこを長年確保している家の姫君を害したいわけがない。

 個人的には、むしろヴィンセントが保護してくれていたらとは思うのだが……。

 

 ヴィンセント国は評判こそ悪いがそれは地球でいう連邦制に近い国家形態だからで、相反する意見を封殺しないからだ。絶対制の国より求心力が低いわけだ。

 それが国政の不安に結びつくこともあるが、この世界の人々は地球よりも基本的に健全なのか、各州同士、なかなかに良い運営がされているようだ。

 ヒロイン令嬢のバックについた本来の理由もそうで、彼らの目的は、長年の蜜月状態であるハスクバーの『塩公爵』家と王家の間にヒビを入れる事。おそらくそれ以上のものではなく、ましてや害するなど考えもしなかったんだと思われる。

 彼らは「友人関係」を大切にする。

 各州の話し合いと信義に基づいた運営というと聞こえはいいけど、実際には足の引き合いもあれば騙し合い、妨害もある。だから彼らは対話を密にし、お互いの調整を欠かさない。

 それはいわば、武器を持たないだけで戦争そのもの。

 彼らは、そういう長期的視点でハスクバー国ともつきあえる事を目指していたんだろう。今までの同国の外交は常にそういうスタイルであるし、間違っても、罪もない聖令嬢を処刑させるような謀略を良しとする国ではない。

 そして、たぶんハスクバー国王はこの事も理解していた。

 実際、最近行われたヴィンセント国大統領との対話はいつになく白熱したものになったという。

 両国は腹を割って知恵を持ち寄り現状をお互いに分析し、それぞれの計算違いにためいきをついた。そして両者なりの精算と、歩み寄りが行われた。

 そして両国の合同として声明が出された。

 

 

「おまえヒマだなぁマイラ」

「そういうなよユージ、それにこの調査依頼は俺個人のもんじゃないんだぜ?」

「ああ、わかってるとも」

 俺の裏仕事は探偵業。といえば聞こえはいいんだが、仕事のほとんどは浮気調査なんだがな。

 まったくやれやれだぜ。

 確かに地球でも「あの子とあの子、どういう仲なのかわかんない?」みたいな依頼をよく受けてて探偵屋ミタムラとか冗談めいて言われてたけどさ、そりゃ学生のお遊びだ。まさか本当に興信所みたいな仕事を、しかも異世界でする事になるとは思わなかったよ。

「まぁ、そういうな。ユージはきれいな仕事をするって評判だからな」

「どこの評判だよそれ」

 裏仕事ってのは隠し仕事だ。本業はとある国の冒険者ギルド本局の閑職で、メインは古い書類整理。目立たない事おびただしいもんで、真昼の燭台とか言われてたりする。

 真昼の燭台て……異世界にも昼行灯(ひるあんどん)みたいな物言いがあるんだなって感心したもんだけど。

 ちなみにマイラってのはギルドマスターの補佐役なんだけど、閑職ゆえにギルドの中でも冷や飯食いがちの俺の救済係、みたいな感じに周囲には見られているらしい。実際にはヘンな依頼を回してくるエージェントだったりするんだが。

「しっかし、よくこんなことまで調べたなぁ。いつもの事ながら助かるぜ」

「まぁ、少しでも役立つならな。……これで慰めになってくれればいいんだが」

「え?」

 なんのことだ、とマイラは言おうとした。

「マイラ、隠せてねえぞ。依頼人の情報を出すな」

「……そこまで読み取るお前の才覚の方がすげえわ」

「ははは、褒めても何も出ないっての。で、そっちは問題なく行きそうなのか?」

「なんとかな」

「そうか。なら良かった」

 

 今回の依頼で、調査結果に詳しく書かなかったもの……聖令嬢の結末。

 うん、そりゃそうだ。

 だって彼女はヴィンセントのエージェントが強制的に救い出し、実家のご両親以外で彼女を最もかわいがっている存在……聖教会の手で奥深くに、大切に保護されたんだよ。

 周囲も彼女の信奉者であるシスターや神官たちでガッチリ固められ、赤子の時に自ら初洗礼をしたという大司教自らが責任者として彼女を守った。

 で、救われた彼女はというと。

 最初は、貴族としてたとえ死であっても国の命令ならばと言っていた彼女も皆の説得についに折れ、今は皆のために少しでもできる事と、日々、神職の皆に混じって一緒にお仕事して暮らしているんだと。

 いやぁ、ほんとに心の底まで聖女様なんだねえ。ほんと。それに無事で良かった。

 ただ、ねえ。

 俺としては聖職者よりも、お姫様として子どもたちに囲まれる彼女を見たかったものだけど。

 

 だって……ねえ。

 

『アリアンヌ・ソレックス』前世名: 公長(きみなが) (ゆかり)

 通称: 聖令嬢。

 幼少の折より教会に感心をもち通い詰めた風変わりな令嬢であるが、もともとの理由は前世記憶のため。そもそも人が前世の記憶をもつのはあまりいい理由でない事が多いが、彼女の場合もそれにもれない。もともと教会にいった最大の理由は、前世で死んでしまった『家族』に祈りたいからだった。

 

 スキルでこの情報を見た瞬間、見なかったら良かったと思ったよ。

 ああ……俺、彼女のこと知ってたもん。

 まさか。

 まさか公長(きみなが)さんだったなんて。

 

 あの頃、結局何も言えなかった俺。

 転生してたんなら、せめてひとめ会いたかったなぁ。

 あんなカタチで彼女が亡くなってしまった時、どれだけ後悔したことか。

 

 ま、今回は死なずにすんだんだ。それでよしとするか。

 

「ん、どうしたマイラ?」

 ふときづくと、マイラがにやにや笑っていた。

 そして妙なことを言い出した。

「これは別のスジの情報なんだがな」

「ん?」

「令嬢が保護された時なんだが、えらい有能な、でも知らない男が暗躍してたって話があってな。各国で探してるらしいぜ。隠密のくせに誠意のためか顔も出して、彼女を助けてくれ、手を貸してくれって説得して回ってて。その男がいなければ令嬢は本当に亡くなってたとか」

「へぇ……」

「あと令嬢な、知られてないけどおもしろいスキルがあるそうでな。なんでもご両親だけしか知らない特殊なもので、見たものを背中に映すってすごいものだそうだ」

「なんだそれ。どうして親しか知らないんだよ」

「バカ、ご令嬢の背中に映すんだぞ。んなもん家族以外に、いや、家族ですら普通知られるわけにゃいかねーだろ。貴族なんだぞ?」

「……」

 たしかにそうだな。

「で、どうしても恩人を探したいっていうんで今回、ギルドに依頼があってな。転写スキルもちの女に立ち会わせてご令嬢の背中に写ったやつの顔を紙に出してきたってわけなんだが」

 そういって、ぺろりと一枚の紙を俺の前に出した。

「……」

「やぁ恩人さん。お姫様がお待ちかねだぜ?」

「……おまえなぁ」

 そう。

 マイラのやつがぶらさげた紙には、彼女にもう大丈夫だ、安心しろと微笑む俺の顔がバッチリと焼き付いていた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 ユウジ・ミタムラという迷い人の話は、とある時代の冒険者ギルドの記録の隅っこに語られるだけである。ユウジはギルドでは目立たない男だったが調査員としては優秀だったようで、彼の仕事とされる調査記録が後年にたくさん残されている。

 そんなユウジの元にある時、ユカというワケアリの元ご令嬢が押しかけてきたらしい。

 ユカ嬢は物腰がやわらかく、また非常に信心深い女性だったようで、当時のギルドでは人気があったらしい。その裏表のなさとユウジ一直線のけなげさが「何か事情がありユウジに助けられた人」という周囲の認識になり、またユウジも困ったような嬉しそうな顔だった事から、皆、砂糖を吐きつつ生暖かく見守っていたらしい事が当時の手記などに残されている。

 彼らの人生はよくわかっていない。

 ただ、結局どういう仲でおさまったのかは不明だが、離れる事はなかったろうと推測されている。

 最後の記録によると、彼らは所属ギルドと同じ町の教会の一角に住まわせてもらっており、ユウジは下男仕事を、ユカはシスターの仕事を手伝っていたという。

 子どもたちに囲まれ、少なくとも寂しい老後ではなかったのだろうと調査結果は結んでいる。

 

 またハスクバー国は後年、ヴィンセントの中の一国に収まっている。

 この時の仲立ちをしたのはソレックス公爵家で、滅亡しかけていたハスクバー国を、ヴィンセントの一部というカタチになったものの、その後数百年にわたって栄えさせることに成功している。


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