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異界漂流者の物語  作者: hachikun
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とある異界漂流者の話(正行編)

無名の異世界漂流者たちの物語。


短編が数個たまってきたので、まとめて長編にしました。

今後は、同系列ならこちらに追加していきます。

 異世界に行く、送られる、漂流する話は数多くあり、多くの民が異界にわたっている。

 だが、彼らの全てが目立つ活躍をするわけではない。むしろ目立たぬようひっそりと生きるのが大多数であるが、それでは物語として地味だし、何よりこの手の異界物語を好む子供たちにウケが悪いのだ。たとえ非常識だろうとバカだろうと、危険に自ら飛び込んで死にかけるような者がそういう物語では王道とされている。

 では、そうじゃない異界漂流者はどうなのか?

 ここに、そんな人物のひとりを紹介しよう。

 彼の名は、正行(まさゆき)。異界漂流者である。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「そうか。事前の打ち合わせを無視して決めちまったわけだな」

 ふむ、と正行は頷いた。

「ならば事前の宣言通り、俺はその仕事に参加できない。行くならシーフは別途雇ってくれ」

「はぁ?何言ってんのマサ?」

 チームのリーダー格の青年が、正行ただひとりの拒否に眉をしかめた。

「チーマ、最初に俺は宣言していたよな?その仕事はヤバいから受けるな、もし受けるなら俺は参加しないと。何かおかしい事を言ったか?」

「ふざけるな、同じチームにいて許されるわけねえだろ!参加に決まってるだろうが!」

「ほう」

 正行は大きくためいきをついた。

「ならば仕方ない。俺はおまえのチームを抜けさせてもらう事になる」

「何だと!?」

 リーダーは眉をつりあげた。そればかりか他のメンツまで騒ぎ出した。

「ちょっと待てマサユキ。それは契約違反だぞ。いかに同じチームでも」

「俺は『宣言』したんだぞ、このロビーで。受付嬢やら職員の見てる前でな。聞いてなかったとは言わせないぞ?」

 やれやれと正行は肩をすくめた。

「いかにチームといえども、決定前から明らかに難色を示していたチームメイトを強制参加させる権利は認められていない。チームリーダーはあくまでまとめ役であり、仲間の意思まで決められるわけではないからだ。何を言いたいかはわかるな?」

 じろり、と正行は仲間だった(・・・)者たちを見渡した。

「その依頼が難しいとは言わない。だが、このチームの戦力と今までのおまえらの行動パターンで挑むのは無謀でしかないと俺は判断した。だから俺は行かない、行くなら代わりに誰かを雇えと宣言したわけだが。

 実際、厳しく見れば予想生存者は良くてひとりか二人、でなきゃ普通に全滅だろう」

「ひとりか二人って誰だよそれ」

「俺は死なんよ、そもそも参加しないからな。

 それから……そうだな、同行して生きて帰る確率が高いのはペルーあたりだろう。他は正直怪しい」

「ふざけるな!」

 ペルーというのは一番気の小さいメンバーで、正行の加入以前からチキン呼ばわりされていた。能力も低めである。

 ふざけるなと言ったリーダーに、正行は苦笑するだけだった。

「マサユキ、何を怒ってるのか知らないけど、ね?機嫌なおして?」

「怒る?何を言ってる?ただの方針の相違だよメイカ」

 やれやれと正行は首をふった。

「やはり、俺と君らは根本的に合わないようだ。今回の件で改めてハッキリした。

 今後もこんな事が続くなら、お互いに不幸な未来にしかならないだろう」

 そう言うと正行は立ち上がり目の前のリーダーを押しのけ、沈黙していた受付嬢の前に立った。

「受付さん。悪いけど、ギルド規約第48条、事前の意思調整に反するチームリーダーの決定に対する異議を理由に、俺、マサユキ・ヒビノはチーム『ツワスルカ』からの脱退を宣言します。受理よろしく。あ、これカードね」

「マサ!てめえは!」

「わかりましたけど……いいんですか?」

 激昂している後ろの面々を気にする受付嬢に「すまんけどよろしく」と言う。

 実のところ、チームメイトの移動はモメる事が多い。だから受付嬢も慣れたものなのだが、それを顔には出さない。正行もそこには突っ込まない。

 手続きはすぐに終わり、そして正行は、ふむと晴れやかな顔で頷いた。

「まぁ、やるならがんばれ。ああそうそう、生きて帰ったら俺に払わせた武器代は返せよ?おまえらに良識があるならの話だが」

「!!」

 彼らはその言葉で激しく怒り狂ったが、ペルーと呼ばれた青年がとりなしておさめ、やがて去っていった。

「いいんですか?マサユキさん?」

 彼らの去った後を寂しげに見る正行に、受付嬢が見かねて声をかけた。

「いいんです。あいつらの性格なら、俺が参加しないっていう事自体が最大の警告だって受け止めてくれるでしようから。あとは、あいつら次第です」

「でも」

 正行は困ったように首をふった。

「俺は万能な人間でも便利屋でも、ましてやヒーローでもないんです。暴走バカと理想に燃えすぎたガキの集合体をフォローして守り切るなんて無理だ。

 それでも、せめてもと思って武器防具を新調させたりモンスターについて事前調査したりしたんですけど」

「あら、装備類のお金って本当にマサユキさんだったんですか?」

「もちろん。彼らが欠ければ、それは俺の生存確率にもつながっていたわけですし」

「事前調査も?」

「あれは俺のため。言いませんでしたっけ?俺、育ちはとても平和なとこでね、このへんのモンスターとか全然知らなかったんで」

 ふう、とためいきをつく。

「これでまた、当分ひとりかなぁ。やれやれだ」

「おかえりですか?」

「ちょっと悩み中かな。じゃあまた」

「お疲れ様です」

 

 

 

 一ヶ月後。チーム『ツワスルカ』がほぼ全滅したという情報が伝えられた。

 生き残りは二人で、雇われて特別参加したベテランのシーフがひとりと、そしてペルー青年のふたりだった。まさに正行の予言通りだった。

 他のメンツはベテランのシーフの警告を雇われの新参者の言葉と無視、突撃したまま戻ってこなかった。ペルー青年がただひとり、モンスターの体液と仲間の血にまみれて逃げてきたのを見て全滅と判断。そのまま彼を仮治療して帰還したという。

 この、正行の警告とハッキリした行動は、ロビーで目立った事もあり、しばらく賛否両論になった。

 だが年配の冒険者であればあるほど、正行の行動を正しいと評価した。生き残る者こそ正しいわけで、ましてや事前に仲間に警告し、波風たててもやめさせようとした正行を非難する声はほとんどなかった。むしろ誠実と言われた。普通、そういう者は別の理由をつけて休んだり自分だけさっさと逃げ出すものだと、彼らは身にしみて知っていたからだ。

 

 

 

 とある世界の、とある小さな結末の物語だった。


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